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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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第二十三話 桶、取り返される


 翌日。


 桶さんは、狐獣人の女に抱えられながら街を移動していた。


「高級住宅街とか久しぶりだねぇ」


「ほんと貴族って金持ち」


「500万ゼンとか信じらんない」


(ほんとにな)


 桶さんは揺られながらため息をつく。


 そして。


 大きな屋敷の前へ到着した。


 整えられた庭。


 豪華な門。


 護衛の姿。


(……ん?)


 そこで。


 桶さんはようやく思い出した。


(あっ)


(こいつ、この前の!!)


 以前、湯けむり亭へやってきて、


「500万ゼンで売れ」


 と言ってきた貴族だった。


(うわぁ……本当に依頼主だったのかよ)


 狐獣人の女が肩を竦める。


「依頼の品、持ってきたよ」


 貴族の男は静かに頷いた。


「ご苦労」


 護衛が袋を持ってくる。


 中には大量の札束。


「毎度ありー」


 狐獣人の女は笑いながら受け取った。


 そして。


 桶さんを貴族へ差し出そうとした――その瞬間。


「返してもらうよ」


 影が走った。


(おぉ!?)


 次の瞬間。


 桶さんの身体がふわりと奪われる。


「間に合った……!」


 抱きかかえていたのは、シャルネだった。


「シャルネ!?」


「随分と早い到着で」


 狐獣人の女は驚く様子もなく笑う。


「まぁ依頼は失敗だけど、金は貰えたからよしとするか」


 その直後。


 屋敷の前へ次々と人影が現れた。


「桶さん!!」


 ミリナが駆け込んでくる。


 その後ろには。


 バルミナ。


 ゴルド。


 常連冒険者達。


 少し前――。


 張り込みを続けていたシャルネから念話が届いたのだ。


『動いた』


『今から依頼主のところ行く』


 その瞬間。


 全員が飛び出した。


 そして。


 辿り着いた屋敷を見て。


 バルミナは内心で舌打ちする。


(やっぱり、あの貴族かい……)


 そんな中。


 再び現在。


 狐獣人の女は金を抱えたまま笑った。


「じゃ、あたしらはこれで」


 その瞬間。


 煙玉が地面へ落ちる。


 ボンッ!!


「うおっ!?」


 白煙。


 視界が塞がれる。


 そして。


 煙が晴れた時には。


 盗賊団の姿は消えていた。


「逃げやがった!」


「追うか!?」


「無理だ、もう気配がねぇ!」


 一方。


 桶を奪われた貴族は顔を歪めていた。


「その桶を渡せ!」


 護衛達が前へ出る。


 だが。


「やらせるかよ!!」


 冒険者達が立ち塞がる。


「お貴族様の我儘で盗みとか笑えねぇぞ」


「制圧しろ!!」


 乱闘は一瞬だった。


 常連冒険者達は強い。


 護衛達は次々取り押さえられていく。


「くっ……!」


 貴族は悔しそうに歯噛みした。


 その間に。


 ミリナは桶さんをぎゅっと抱きしめる。


「よかった……」


「本当によかったです……!」


(お、おぉ……)


 桶さんは少し気まずそうになる。


(そんな泣かれると困るんだが……)


 そして。


 ミリナはそのまま帰ろうとした。


 だが。


(ミリナ)


「……え?」


(ちょっと待ってくれ)


 ミリナの足が止まる。


(あの貴族の娘、多分かなり悪い)


 ミリナは小さく目を見開いた。


(盗賊達の話、聞いてた)


(病気か何かで苦しんでるらしい)


「……」


(もちろん盗みは駄目だ)


(でも、娘を助けたいって気持ちは本当なんだと思う)


 ミリナは静かに貴族を見る。


 先程まで怒鳴っていた男は。


 今は力なく俯いていた。


 そして。


 ミリナはゆっくり口を開く。


「……娘さんのこと、聞かせてもらえますか?」


 貴族は顔を上げる。


「……何?」


「どうしてそこまで桶さんを……」


 男はしばらく黙っていた。


 だが。


 やがて諦めたように口を開く。


「娘は……三年前から原因不明の病に苦しんでいる」


「最初は熱だけだった」


「だが徐々に身体が弱り……今では起き上がることすらできない」


 その声は。


 先程までの高圧的な態度とは別人のようだった。


「高級ポーションも使った」


「治癒術師も呼んだ」


「教会にも頼った」


「病によく効くと聞けば、この国にある一番の秘湯から源泉まで汲んできた……!」


 男の拳が震える。


「やれることは全てやった……!」


「だが誰も治せなかった……!」


 ミリナは黙って話を聞いていた。


「そんな時に聞いたのだ」


「なんでも治す桶があると」


 桶さんは内心で頭を抱える。


(だから誰だ、その噂流したの!!)


 だが。


 男は本気だった。


「本当は湯けむり亭へ行くつもりだった」


「だが私は貴族だ」


「護衛を連れて大衆浴場へ行けば騒ぎになる」


「だから金を積んだ」


「それでも断られた……!」


 そして。


 男は力なく膝をつく。


「……あれが最後の希望だったのだ」


 ぽたり。


 地面へ涙が落ちた。


 その姿を見て。


 ミリナは静かに桶さんを抱きしめる。


「……桶さんは」


 ミリナはゆっくりと言葉を選ぶ。


「確かに不思議な力を持っています」


「でも……なんでも治せるわけじゃないんです」


 貴族の肩が揺れる。


「傷を少し治したり」


「疲れを和らげたり」


「そういう力なんです」


「だから……」


 ミリナは苦しそうに俯く。


「おそらく、娘さんの病気は治せません」


 沈黙。


 そして。


 貴族は顔を覆った。


「そんな……」


「私は……」


「もう何をすればいい……」


 その声には。


 絶望だけが滲んでいた。

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