間話 ルーナの悩み
閉店後。
《湯けむり亭》の掃除も終わり。
ミリナは二階で帳簿をまとめていた。
そこへ。
「ミリナさん、ちょっと相談が……」
珍しく困った顔をしたルーナがやって来た。
「どうしました?」
「えっとですね……」
ルーナは少し言いづらそうにしながら。
「最近、冒険者の人達からよく告白されるんです……」
「こ、告白!?」
ミリナの声が裏返った。
(なんでお前がそんな驚いてんだ)
「ど、どどどどうしましょう!?」
「わ、私に聞かれても……」
困ってるのはお前もだろ。
ルーナは耳をぺたんと下げた。
「嫌ってわけじゃないんです」
「でも仕事中に待たれたりすると困っちゃって……」
「あー……」
確かに。
最近はルーナ目当てっぽい若い冒険者も増えていた。
「しかもですね」
「毎日来る人までいて……」
「毎日!?」
ミリナがまた驚く。
(お前、リアクション忙しいな)
「“今日は休みですか?”って聞かれるんですけど」
「休みの日まで知られたら怖くないですか!?」
「た、確かに……!」
ミリナは真剣に悩み始めた。
「どうしましょう、桶さん!」
(俺に聞くな)
「こ、こういう時ってどうすれば……!」
(知らん!)
その時。
「簡単だろ」
後ろから低い声がした。
振り返ると。
バルミナが腕を組んで立っていた。
「仕事中に口説く奴ぁ、全員叩き出しゃいい」
「過激!?」
「店の迷惑になるなら十分だろ」
バルミナは鼻を鳴らす。
「あと、ルーナ」
「はい?」
「困ったら一人で抱え込むな」
「ミリナか私に言いな」
「……はい!」
ルーナは少し安心したように笑った。
「あと毎日来る奴」
「今度見かけたら私が話つける」
「優しくお願いしますね!?」
「保証はしない」
(怖ぇ……)
◇◇◇
次の日の昼頃。
《湯けむり亭》は今日も冒険者達で賑わっていた。
「ルーナちゃん、今日も可愛いね!」
「今日、仕事終わった後空いてる?」
「今度一緒に飯でも――」
「へぇ?」
低い声が店内に響いた。
一瞬で空気が静まる。
受付の奥。
腕を組んで立っていたのは、バルミナだった。
にやり、と笑う。
「うちの娘を口説くとは」
「ちゃんと覚悟があるんだろうね?」
冒険者達の顔が引きつる。
「この先、娘達に軽い気持ちで言い寄ってくる奴は」
「今後、うちの敷居を跨がせないよ?」
笑顔。
なのに怖い。
冒険者達が一斉に背筋を伸ばした。
「い、いや俺は別に!」
「毎日来てたのお前だろ!」
「違っ!」
店内が少し騒がしくなる。
そんな様子を見ながら。
ルーナは少し困ったように笑い。
ミリナは小さく呟いた。
「バルミナさん、怒らせると怖いですね……」
(今さらか?)




