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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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第十六話 新しいお家の準備


 家を買ってから一ヶ月ほど。


 《湯けむり亭》は相変わらず忙しかった。


 ただ。


 以前とは少し空気が変わっていた。


「予約制になってから、待たなくてよくなったねぇ」


「ゆっくり入れるの助かるよ」


 女湯では、常連達がそんな話をしている。


 最近の《湯けむり亭》は予約制になったことで。


 以前のように長蛇の列ができることは減った。


 混雑もかなり改善されている。


 その代わり。


「でもさぁ」


「前みたいに偶然会うこと減ったよね」


「あー、分かる」


「前はもっと大衆浴場って感じだったよねぇ」


 そんな声も増えていた。


 女湯の隅。


 専用の木台の上に置かれた俺は。


 その会話をぼんやり聞いていた。


 今の俺の定位置はここだ。


 男湯と女湯。


 それぞれに専用台座が作られている。


 営業時間中はどちらかに置かれ。


 必要があればミリナ達が運ぶ。


 当然ながら。


 俺は自分で移動できない。


(まぁ、温泉ってのは知らん奴とも話せる場所だからなぁ)


 裸の付き合い。


 昔からそういう場所だ。


 すると。


「桶さん、何か言ってます?」


 ミリナが小声で聞いてくる。


(前みたいな空気も嫌いじゃなかったって話)


「ふふっ、分かります」


 ミリナは少し嬉しそうに笑った。


「でも、皆さんがゆっくりできるのも嬉しいです」


(まぁ難しいとこだな)


 そんな話をしていると。


「ミリナー!」


 脱衣所の方から声が響く。


 バルミナだった。


「ゴルドが来てるよ!」


「えっ、本当ですか!?」


 ミリナは慌てて女湯を出ていった。


 ◇◇◇


「おう」


 ゴルドは満足そうに腕を組んでいた。


「修繕、ほぼ終わったぞ」


「もういつでも住める」


「ほ、本当ですか!?」


 ミリナの顔がぱっと明るくなる。


「壁も床も直した」


「水回りも問題ねぇ」


「後は住みながら少しずつ直しゃいい」


「ありがとうございます……!」


 ミリナは深々と頭を下げた。


「よし!」


 ルーナが元気よく拳を握る。


「じゃあ引っ越し準備ですね!」


「買い物もしないと!」


 その結果。


 翌日。


 《湯けむり亭》は久しぶりの臨時休業となった。


 ◇◇◇


「わぁ……!」


 街の市場。


 朝からかなり賑わっている。


 ミリナは俺を抱えながら歩いていた。


(なんか普通に持ち歩かれてるな、俺)


「桶さん、落としませんから安心してください!」


(そういう問題じゃねぇ)


 周囲からは、ちらほら視線が向く。


「あの桶なんだ?」


「温泉屋のだろ?」


「なんで持ち歩いてるんだ……?」


 まぁ当然だ。


 桶を抱えて市場を歩く娘なんて普通いない。


「お皿どうします?」


「コップも欲しいです!」


「タオルも買わなきゃ!」


 皆、かなり楽しそうだった。


 家具類はゴルド達がかなり作ってくれたらしい。


 なので今日は、細かい生活用品中心だ。


「これ、皆で使えそう!」


 ルーナが嬉しそうに持ち上げたのは。


 同じ柄の湯呑みだった。


「お揃いですね!」


 エナの目も輝く。


「可愛い……」


 ミアも気に入ったらしい。


「これにしようよ!」


 ドロシィが即決した。


 その横で。


 三人はこそこそと別の店を見ていた。


「これ絶対ミリナさん喜ぶよね」


「でも、ちょっと高くない?」


「三人で出せばいける!」


 どうやら内緒で何か買うらしい。


(あいつら楽しそうだな)


 そんな中。


 ミリナは少し離れた場所で立ち止まっていた。


「どうしました?」


 ルーナが声をかける。


 ミリナは少し照れたように笑った。


「なんだか不思議で」


「皆でお買い物して」


「皆で住む家を準備してるなんて」


 少し前までは。


 一人で店を守るだけで精一杯だった。


 でも今は違う。


 隣には皆がいる。


「ミリナさん!」


 エナ達が手を振る。


「早く行きましょう!」


「今行きます!」


 ミリナは嬉しそうに駆け出した。


 ◇◇◇


 買い物を終えた帰り道。


 皆、大荷物だった。


「重いぃ……」


「ドロシィ、もっと持って!」


「私も持ってるって!」


 わいわい騒ぎながら歩いていく。


 そして。


 夕暮れの中。


 新しい家が見えてきた。


 まだ少し古い。


 でも。


 どこか温かかった。


 ミリナは玄関の前で立ち止まる。


 手には新しい鍵。


「……ただいま、になるのかな」

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