第十五話 ミリナ、家を買う
「家を探してる?」
そう聞き返したのは、ガルドだった。
虎の獣人。
大柄。
顔も怖い。
初めて会った人なら絶対に身構える。
だが。
「おう、任せとけ」
笑うと妙に優しい。
そんな男だ。
ガルドは《湯けむり亭》によく来るお客様だった。
昼過ぎによく現れては。
「ふぃ〜……生き返る……」
と、長湯して帰っていく。
どうやら不動産屋らしい。
「皆で暮らせる家が欲しくて……」
ミリナが説明する。
「できれば《湯けむり亭》の近くで」
「ほう」
ガルドは腕を組む。
「ってことは、街の外れでもいいのか?」
「はい!」
《湯けむり亭》は街の外れにある。
昔からある温泉屋らしく。
中心街からは少し離れていた。
「なら一軒あるな」
どうやら。
《湯けむり亭》から歩いて数分の場所らしい。
「昔は家族で住んでた家なんだがな」
「今は空き家だ」
「広さは十分ある」
「ただ……かなり古いぞ?」
「それでも大丈夫です!」
ミリナは即答した。
◇◇◇
翌日。
ミリナ達は家を見に来ていた。
「おぉ……」
ルーナが声を漏らす。
確かに広い。
庭もある。
部屋数も多い。
だが。
「……古いですね」
ミリナが苦笑する。
壁は傷だらけ。
庭も草が伸び放題。
屋根も少し傷んでいる。
けれど。
日当たりは良い。
風通しも悪くない。
何より。
皆で住む姿が少し想像できた。
「私は好きです!」
最初に言ったのはルーナだった。
「庭で洗濯もできます!」
「日向ぼっこ……」
ミアも気に入ったらしい。
「薪置き場作れそう!」
ドロシィは既に作業目線だ。
エナだけは、おろおろしていた。
「ほ、本当に住めるんですか、ここ……?」
「そこはこれからだな」
低い声が響く。
振り向くと。
そこには大柄なドワーフの男がいた。
ゴルド。
《湯けむり亭》の常連で。
街でも有名な大工の棟梁らしい。
「ガルドから話は聞いてる」
「お前さん達が住むなら、少し手ぇ貸してやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
ミリナの顔が明るくなる。
「壁直して、床張り替えて、庭も片付けりゃ十分住める」
ゴルドは家を見回しながら頷いた。
「悪くねぇ家だ」
その言葉に。
ミリナは家を見回した。
古い家。
ボロボロの壁。
伸びた草。
でも。
皆の笑い声が聞こえる気がした。
「……ここにします!」
ミリナが勢いよく頭を下げる。
「お、おい! まだ値段交渉が!」
慌てるバルミナ。
だが。
ガルドは楽しそうに笑っていた。
「気に入ったなら話は早ぇ!」
「いや、早くないよ!」
その後。
バルミナによる恐ろしい値段交渉が始まり。
最終的に。
ガルドが頭を抱えるほど値切られていた。
◇◇◇
その日の夜。
閉店後の《湯けむり亭》。
ミリナは今日の出来事を楽しそうに話していた。
「庭もあったんですよ!」
「部屋もいっぱいありました!」
「皆すごく楽しそうで……!」
かなり嬉しかったらしい。
話が止まらない。
「あとですね!」
「バルミナさんがすごかったんです!」
「ガルドさん、最後すごく困った顔してました!」
(バルミナさん強ぇ……)
俺は少しだけガルドに同情した。
ミリナはそんなことにも気づかず。
ずっと嬉しそうに笑っていた。
「忙しくなりそうですね」
(だなぁ)
どうやら。
次は家の準備が始まるらしい。




