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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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第十三話 湯けむり亭、仲間を探す


「従業員募集……ですか」


 翌日。


 


湯けむり亭


の常連達はざわついていた。


「ついに人雇うのか」


「そりゃ必要だろ」


「ミリナちゃん倒れるぞあれ」


 皆かなり心配していたらしい。


 


ミリナは少し照れていた。


「そ、それでですね」


 番台前でぺこりと頭を下げる。


「従業員さんを募集したいんです!」


 すると。


「だったら私が手伝ってやるよ」


 低くよく通る声。


 現れたのは小柄なドワーフ女性だった。


 


バルミナ。


 湯けむり亭でも古株中の古株。


 ミリナの両親が店を切り盛りしていた頃からの常連だった。


「バルミナさん!?」


「まったく……」


 バルミナは呆れたようにため息をつく。


「小さい頃から見てたけど、お前は昔から一人で抱え込みすぎなんだよ」


「うぅ……」


 ミリナがしょんぼりする。


 だが反論できない。


 実際かなり無理していた。


 売上管理。


 仕入れ。


 湯土産。


 入浴料。


 全部一人だ。


「帳簿見せな」


「え?」


「この前ちらっと見えたけど酷かったからねぇ」


「そ、そんなにですか……?」


「繁盛してるのに金の流れがぐちゃぐちゃだ」


 バルミナは腕を組む。


「商売舐めちゃ駄目だよ」


「は、はい……」


「金の流れを間違えると、繁盛してても店は潰れる」


 かなり重い言葉だった。


 きっと経験があるのだろう。


 だが。


 その声は厳しいだけではない。


「お前の母ちゃんにも昔同じこと言ったんだからね」


「え?」


「似てるんだよ。ほんとに」


 ミリナは少し驚いた顔をした。


 そして。


 どこか嬉しそうに笑う。


「……お願いします」


「あぁ、任せときな」


 こうして。


 番台兼経理担当として、


バルミナ


が加わることになった。


(おぉ、頼もしそう)


 なんかもう既に店の重鎮感がある。


 ◇◇◇


 数日後。


 今度は湯土産販売係の面接が始まった。


 番台前には数人並んでいる。


 そして。


「こ、こんにちは!」


 元気よく頭を下げながら声を上げたのは、一人の犬獣人の少女だった。


 


ルーナ



 ふわふわの犬耳。


 緊張で尻尾がぶんぶん揺れている。


「湯土産販売の募集を見て来ました!」


「は、はい!」


 ミリナも慌てて頭を下げ返す。


「よろしくお願いします!」


(お前も緊張してんのかよ)


 なんなら同じくらい緊張している。


 少し沈黙。


 お互いそわそわしていた。


「あ、あのっ」


「は、はいっ!」


「き、緊張してますか?」


「し、してます!」


 即答だった。


 するとミリナも少し安心したように笑う。


「わ、私もです……!」


 その瞬間。


 ぴんと張っていた空気が少し緩んだ。


(なんだこの面接)


 だが悪くない。


「温泉は好きですか?」


 ミリナが聞く。


「大好きです!」


 即答だった。


「毎日入りたいくらいです!」


(分かる)


 いや桶だけど。


 さらに。


「説明も頑張ります!」


「説明?」


「温め方とか!」


 ちゃんと理解している。


 しかも愛想が良い。


 冒険者相手でも物怖じしない。


 ミリナは何度も頷いた。


「お願いします!」


「は、はいっ!」


 こうして。


 湯土産販売係として、


ルーナも加わった。


 ◇◇◇


 だが。


 問題はまだある。


 掃除。


 洗濯。


 脱衣所整理。


 薪運び。


 開店準備。


 細かな仕事は山ほどあった。


 そして何より。


 ミリナが全部抱え込みすぎる。


「働き手なら《朝露の家》に行きな」


 そう言ったのはバルミナだった。


「朝露の家?」


「教会が管理してる共同宿みたいなもんさ」


 親を亡くした子供。


 働き口を探している娘。


 住み込み見習い。


 行き場のない者達が暮らしている場所らしい。


「真面目な子も多いよ」


 数日後。


 ミリナは《朝露の家》を訪れた。


 


朝露の家は古い建物だったが、綺麗に掃除されていた。


 中庭では子供達が洗濯物を干している。


「湯けむり亭さんですか?」


 出迎えたシスター風の女性が柔らかく笑った。


「働き手を探していると聞きまして」


「はい!」


 ミリナは慌てて頭を下げる。


「掃除とか、お手伝いをしてくれる子を……」


 すると女性は少し驚いた顔をした。


「湯けむり亭……最近人気のお風呂屋さんですよね?」


「え、えへへ……」


 照れるミリナ。


 その後。


 何人かの子供達が集まった。


 皆、少し緊張している。


 だが。


「温泉、入れるんですか……?」


 一人の少女が聞いた瞬間。


 空気が変わった。


「はい!」


 ミリナが笑顔で頷く。


「ご飯もちゃんと出ます!」


 ざわっ、と子供達が揺れた。


(温泉つよいな……)


 結局。


 話し合いの末。


 三人の少女が来ることになった。


 


ミア。


 猫獣人の少女。


 少し眠そうで自由人。


 


エナ。


 真面目で緊張しやすい人族の少女。


 


ドロシィ。


 小柄だが力持ちなドワーフ少女。


「ほ、本当に働いていいんですか……?」


 エナがおそるおそる聞く。


「もちろんです!」


 ミリナは笑った。


「無理はしなくて大丈夫ですからね!」


 三人はぽかんとしていた。


 どうやら。


 そんな言葉をかけられること自体、あまりなかったらしい。


「あと温泉も入っていいですからね!」


「えっ」


 ミアの耳がぴくっと動く。


「毎日……?」


「はい!」


 三人の目が輝いた。


(温泉福利厚生つよいな……)


 その日から。


 湯けむり亭は少しずつ変わり始めた。


 掃除をする子供達の笑い声。


 番台で怒るバルミナ。


 元気に湯土産を売るルーナ。


 そして。


 以前より少しだけ余裕のあるミリナの笑顔。


 湯気の向こう。


 賑やかになっていく湯けむり亭を見ながら。


 桶の俺は、少しだけ嬉しくなっていた。

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