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神の頬に触れるような気持ち 好奇心は猫を殺す 年代記第七章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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第三章 ディス・カントン・アールガウ巡礼 23 好奇心は猫を殺す "Curiosity killed the cat." 5 クルム(インタークルム)→背骨

*


 力を持つアーティファクトは使うものによって神の武器にも悪魔の武器にもなる、アーティファクトの研究者の著書にそう記されているのだが、文字通り超古代文明からの贈り物、通称インドラの矢はそれに該当するだろう。

 インドラの矢は発見以来、過去一度だけ(正確には二度)使われたことがあった。

 都市を焼き尽くし消滅させる程の威力を持つことで知られていたが実際に使われることはなく抑止力としての役割を担っていた。現代の技術では到底作ることができないロストテクノロジーであり、アーティファクトの中でも価値が高い。我々はそれが何でできているか今もわかっていないのだ。また効果や使い方がわからないものが多い中で使い方が判明している数少ないアーティファクトでもある。

 まずはラ・ベル=アリアンスの戦いについて語らなければならないだろう。不屈の顎門、現在は顎(あぎと)と呼ばれる場所でのゾッホとクラニオクリエーションズとの戦いである。その名はクラニオが凶悪な化け物というスラングであるゾッホと呼んだためいつしか正式名となった。ゾッホは変則的な二足歩行、全長は約五メートル程の生物である。王立騎士団はたった一匹でほぼ壊滅に追いやられ、討伐のために傭兵団であるクラニオが雇われた。ゾッホの生息域は北の山脈の一つであり、討伐の舞台となった顎門は王都からスヘルデ川に沿って北上した場所にある。四方を断崖絶壁に囲まれた袋小路で、クラニオは袋小路と悟られないように偽装しゾッホを追い込んだ後、頭上から大量の石などを落とし攻撃した。しかしそれで倒せるはずもなく危険を察知し元来た道を戻ろうとした所を食いつきアンカーを打ち込み拘束。仕掛けたスネアトラップで串刺しにした。それでも倒れず、肉弾戦へ。アンカーは引きちぎられ高温のゾッホの血が谷に雨のように降り注ぎまともに浴びたクラニオのメンバーが次々と命を落とした。最終的には大きな犠牲を払いつつもなんとか討伐に成功した。辺り一帯は瘴気で汚染され立ち入り禁止となった。ゾッホの死体は運び出され、解剖し研究するためにラブニールに運ばれた。現在、顎門には慰霊碑として巨大な像が建てられている。

 ラ・ベル=アリアンスの戦いから十数年後、顎は瘴気汚染による封鎖は解除されておりキャラバンが通る交通の要所として機能していた。そこに新たな敵であるグリュックスリッターが出没するようになった。

 グリュックスリッターにより山を越すことができなくなったため、大幅な回り道を余儀なくされていた。グリュックスリッターは「闇で赤く光る者」という意味を持ち、四本の足と二本の腕を持つトカゲのようなクリーチャー。ゾッホと似ているが系統状同じ部類に属すのか、あるいは亜種なのかわかってはいない。大きさは二メートル弱。真っ白な体で、雪の中で擬態して身を巧みに隠す。長い尻尾の先から背骨に沿って血管が赤く光る。灼熱の血が流れ、自らの血をむき出しの血管から自在に矢のように飛ばすことができる。皮膚は固く傷つけることは難しい。ゾッホと違って知能が高く、人を殺戮することに喜びを覚え、夜行性で獲物を罠にかける。狩猟した獲物を氷漬けにして保存する性質を持つ。現在はその生態などがかなり詳しくわかっているが、当時は未知のクリーチャーであった。

 もちろんそのまま放置するわけにもいかないので、討伐隊が組織された。のちに雪の惨劇と呼ばれる戦役が始まった。敵の特徴や攻撃方法などなにも情報がないまま戦うことになるのだが、指揮官はベテランで騎士道を重んじる男でつねに真正面から戦いを挑むことを好んだ。口癖は「考える兵はいらない」だった。戦略を軽んじ、物量で押し切ることを信条としていた。案の定、グリュックスリッターに翻弄され隊は全滅し、指揮官も戦死した。かろうじて生き残り生還した傭兵上がりの兵も情報を伝えた後亡くなった。

 その後、雪の惨劇の作戦失敗を踏まえ新たな討伐部隊が編成された。その際、立案されたグリュックスリッター殲滅作戦には新たに英雄ジョゼフィーヌをリーダーとして王立騎士団の一個小隊が送り込まれることとなった。

 本名、ジョセフィーヌ・ジュアンヌ。皆にはジョゼと呼ばれ慕われている。王立騎士団の英雄の中では珍しい女性騎士である。のちにグリュックスリッターの二つ名をもらうことになる。アカデミーに所属していた才媛であり頭脳明晰であり腕も立つ。

 ジョゼフィーヌは当時まだ若く無名であったのちにヘルぺチクという二つ名を得ることとなる若者を軍師として登用した。

 オムロープ・ヘット・ニウスブラット、もしくはヘット・フォルクとも呼ばれるグリュックスリッター戦においてヘルぺチクにより考案された新しい戦術が導入された。それまでは騎士道を重んじ個の力に頼る戦い方だったが、クリーチャーに対して効果は薄く、アーティファクトの併用と兵士の役割に応じた装備、高度な部隊編成、指揮系統の重視、地形を利用した戦術などが主なものだった。そこでグリュックスリッターを葬り去るために超古代文明の贈り物、インドラの矢が使用されることとなったのだ。

 雪の惨劇では敵の特性や情報が少なく、戦闘により多くの死傷者を出した失敗から主導権を取りつつ、知能が高いことを逆手にとり血の臭いに反応する特性から敵を罠に掛けおびき寄せる計画だった。

 王立騎士団は低い屋根に沿って防御陣地を築いた。兵には共通した基準の訓練を受けたアカデミー出身の人間を使った。ヘルぺチクは最新の戦術を採用しながらもラ・ベル=アリアンスの戦いで用いられた戦術をあえて採用した。谷の底の袋小路に誘い込みそこで超古代文明の贈り物を用いるのだ。その大役はジョゼが自ら申し入れ請け負うこととなった。

 左右から戦闘はさけながらグリュックスリッターを追い立てる、中央からわざと逃がし顎の中へ誘い込むことに成功した。しかし、グリュックスリッターは危険を察知したのか目論見通りには行かず、包囲網を突破して九十度の崖をよじ登り、尾根伝いをものすごい早さで走り出した。尾根の上に陣形を展開していた兵たちは果敢に挑んだが蹴散らされ、陣形は一瞬で総崩れだった。グリュックスリッターはどこへ向かっているのか、ただ逃げているのかと思われたが一直線に指揮をしていたヘルペチクへ向かっていたことが判明する。ヘルペチクを失うわけにはいかないとジョゼが眼前に立ちはだかる。グリュックスリッターに飛びつき引きずられながら、ジョゼはその場で自分の生命と引き換えに超古代文明の贈り物を発動する。

 光に包まれ爆発したが仕留めるには至らなかった。上半身のみとなったグリュックスリッターだったが、それでも生きようと臓物を引きずりながら逃亡を図った。なんという生命力か、駆けつけたヘルペチクはなんともう一度超古代の贈り物を使用しグリュックスリッターを爆殺した。

 等価交換によりヘルペチクは自分の記憶すべてと引き換えにしたといわれている。超古代の贈り物はその後、行方は杳(よう)としてわからなくなった。アーティファクトは人間の手に負えるものではないという良い例である。

次回本編に戻ります。

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