第三章 ディス・カントン・アールガウ巡礼 22 好奇心は猫を殺す "Curiosity killed the cat." 4 クルム(インタークルム)→背骨
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超古代文明からの贈り物はその呼び名は複数あり、金剛杵ともインドラの矢ともいわれるアーティファクトである。雷の威力を持つ杵状の槌のような金属でできた兵器であり、賢者ダディーチの自己犠牲によって彼の骨から工匠神トヴァシュトリによって作られたと伝承が残っている。けれどどれも後から付けられたもので本当のところはわからない。私は書物で知った知識で申し訳ないがインドラの矢について少々記述したいと思う。
最初期の神々への讃歌集「リグ・ヴェーダ」を紐解こう。リグは讃歌、あるいは詩節を意味し、ヴェーダは知識を意味する。そこにインドラの矢の記述を多く見ることができる。
インドラは「神々の帝王」を意味し、「リグ・ヴェーダ」の中でもインドラが最も頁が割かれている。それだけインドラに対する崇拝と敬意と人気が高かったことがうかがえる。文字は消えてなくなってしまうが歌だと未来永劫消えることはなく語り継がれていくため、伝承は歌で残されたそうだ。文字で編纂されたのは驚くほど最近の話である。
インドラはデーヴァ神族に属する武勇神であり、容姿は皮膚も髪もすべてが茶褐色だったようだ。彼の英雄譚は事欠かない。工匠神トヴァシュトリの息子であり「全知全能な者」の意味を持つヴィシュヴァルーパを討ち取った話や、ダーナヴァという女性の話も有名だ。パニ族によって隠された雄牛をヴァラの洞窟から解放した話や旧知の友であったナムチの話なども面白い。
いくつかの話を紹介しよう。ナムチの話は「マイトラーヤニー・サンヒター」に書かれている。インドラとナムチとはもともと敵同士であった。ナムチとの争いの中、インドラの形勢が不利であったにも関わらずナムチはインドラと友人になろうと提案した。インドラもそれを受け入れ「昼でも夜でも乾いているものでも湿ったものでも汝を決して傷つけない」という協約を結び戦いを辞め友となった。だがナムチはインドラをその後裏切ることとなる。インドラが先述の三つの頭を持つヴィシュヴァルーパとの戦いの後、衰弱した際にナムチによりすべての能力が奪われた。二人の協約は呪いのようなもので決して破ることができずそれゆえナムチを倒すことができないのだが、インドラの機転により夜明け前に泡を使った武器を用いてナムチは頭を切り落とされて敗北した。
またアスラ(阿修羅)族の王であったヴィローチャナの話も興味深い。ヴィローチャナは神より宝冠を授かっており、被っている間は不死であり傷つけることができないのだが、他の者が持ち去ってしまったためにその後に起きたターラカマヤ戦争でインドラに討たれた。
マハーバリはヴィローチャナの息子でありアスラの王、ヴィローチャナに変わり祖父に育てられた。彼は父に代わり王となり、公正で献身的であったが父の敵を討つためインドラに挑んだ。インドラを掃討し、インドラは追放された。
またラクシャサ族の王の子メーガナーダにもインドラは敗北した。メーガナーダは「雲の咆吼、雷鳴」を意味し、偉大なる戦士であり、インドラを討ち取り彼をランカー島に連行した。インドラジット(インドラを討ち取った者)という二つ名と不死の能力を得ることでインドラを解放したといわれる。
話を戻そう。インドラの矢が用いられたのはヴリトラ戦が最もよく知られている。ヴリトラは巨大な蛇であり、その名は「障害」「遮蔽物」を意味し、「天地を覆い隠す者」とも呼ばれる。その巨体で水をせき止め、干ばつを引き起こす。工匠トヴァシュトリが作った武器金剛杵を受け取ったインドラはそれを用いてヴリトラを討ち取った。金剛杵は弓矢へと姿を変え、矢は一撃でその巨大な蛇の硬い皮膚を貫いたという。インドラにより討伐され水が解放された後、咆吼をあげながらヴリトラは海へ流されその後、雨が降り続いたという。後述する巨人クンバカルナとの戦いにも似た記述を見ることができる。研究者によると似たエピソードは各地で見ることができるそうだ。元々叙事詩とは英雄の軌跡を事実をありのままに述べる態で歌い上げた詩である。けれどすべてが真実ではないだろう。物語は吟遊詩人や語り部によって口承で伝えたためにその都度即興で誇張したり脚色したりということが多くあっただろうし、今の時代とそぐわないことも多く見られる。舞踏や影絵、人形劇などで受け継がれていることから広い範囲で普及したためにその過程で独自の発展を遂げたと思われる。
「リグ・ヴェーダ」の後世に伝わった叙事詩「ラーマーヤナ」にもインドラの矢の記述が見られる。「ラーマーヤナ」は「マハーバーラタ」と並ぶ二大叙事詩の一つで「ラーマ王行状記」を意味する。
インドラの矢はラーマが所持していたと言われており、この叙事詩はラーマ王子が誘拐された妻を取り戻すためにラークシャサの王ラーヴァナと戦う物語であった。
世界はラークシャサの脅威に苦しめられていた。ラークシャサはいわゆる羅刹であり鬼神である。暴力に支配された暗黒の時代であり、ラーマ王子は羅刹と戦うために神が転生したと言われ、薔薇色の瞳を持っていたそうだ。そのためインドラの矢を託されたのだろう。生まれながらの英雄であり、誕生した際には各国の王が贈り物と共に参じたといわれている。成長後はヴィデーハ国の首都ミティラーのジャナカ王を訪問したときに王の娘に一目惚れをし結婚したという。その後異母兄弟であるバラタ王子の母親の奸計によりバラタ王子が即位し、王妃の言葉で王はラーマに対して猜疑心を抱くこととなり、ラーマは妻とともに生まれ育ったアヨーディヤを追放されてしまう。その後王は悲しみのあまり絶命してしまったという。
ダンダカの森でラーマは羅刹の王ラーヴァナの妹であるシュールパナカーと遭遇する。シュールパナカーはラーマに一目惚れし、結婚を迫った。ラーマは自分は妻帯者であるからと言ったが、聞く耳を持たず邪魔者であるラーマの妻を殺そうと飛び掛った。しかしラーマに取り押さえられ、鼻と耳を切り落とされる。シュールパナカーは兄のカラのもとに逃げ、ラーマを殺すよう訴えた。カラはラーマを襲撃したが逆に返り討ちにあい戦死してしまう。シュールパナカーは今度は兄ラーヴァナにカラの死を訴えつつも、ラーマの妻の美しさについて語り、ラーヴァナにふさわしいと思ってさらおうとしたがラーマに邪魔をされて、鼻と耳を切り落とされてしまったと嘘をついた。このようにしてシュールパナカーはラーヴァナをそそのかし、ラーマの妻を奪うよう仕向けた。
ラーマはラーヴァナに罠を仕掛けられ黄金の鹿を追う間に妻の側を離れた隙にさらわれてしまう。
ラーマはその後、全世界を捜索し猿族であるヴァナラの協力を得、妻がランカー島にいることをつきとめた。彼の妻は猿の将軍ハヌマーンによって発見されたが取り戻すことができなかったために羅刹の王であるラーヴァナとラーマの大戦争が勃発する。巨人クンバカルナやラーヴァナの子であったインドラジットにより大きな被害を受けつつもラークシャサ軍を猿族と共に圧倒しインドラジットを倒したことで優勢となり王ラーヴァナもラーマによって討ち取られた。戦いの後、ラーマは妻と共に故郷へ帰還した。ラーマがアヨーディヤへと帰還したのは追放されてから十四年後のことであったという。その後ラーマは民衆の噂のために王の義務として妻を森に追放し、妻は大地に飲み込まれ失った。ラーマは嘆き苦しんだが新しく妃を迎えることなくこの世を去るところで物語の幕は閉じる。
インドラの矢はラーヴァナとの戦争の際に巨人クンバカルナを討った際に用いられた。クンバカルナはラークシャサ族であり、ランカー島で生まれ育った。王ラーヴァナの弟である。山のような巨人であり、肌は黒く、血と脂の臭気を発していたという。またその息は強風と同等で、雄叫びは雷ほどの音量で怒ると火を吐いたという。彼はあらゆる物を食べ尽くすため、幼少の頃にインドラにより金剛杵で撃たれたが倒れることなく抵抗したという。倒すことができず、呪いを掛けることで封印した。その後劣勢だった王ラーヴァナはラーマとの戦争に勝つためにクンバカルナの封印を解いたという。クンバカルナはラーマに対しては当然ながら何の恨みも持っておらず戦争に参加することを拒んだが兄である王は耳を貸さず、クンバカルナは兄への忠誠と祖国への愛のために参戦することとなる。クンバカルナは凄まじくインドラ軍のヴァナラの猿の兵たちはたちまち敗走し、手練の五将軍も討たれ、猿の王子も目を攻撃され盲となった。猿の王を山の下敷きにして昏倒させたが反撃にあい全身から血を吹き出し、怒り狂ったクンバカルナは敵味方関係なく全てを飲み込み始めた。
ラーマはクンバカルナの四肢を切り落としたがなおも口を開きラーマを飲み込もうとした。その口にインドラの矢を打ち込み首まで貫いて切り落としたという。首はあたりの建物を破壊し、巨躯は海に沈み、島となったらしい。首は切ってもしばらくはうなり声を上げて呪詛を吐き続けたそうだ。
インドラの矢の威力はすさまじく都市一つを滅ぼし炎に包むことができるという。太陽よりも激しく輝き、生命は死に絶える。大地が震え空が裂けるともいわれている。




