↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の頬に触れるような気持ち 好奇心は猫を殺す 年代記第七章  作者: ヌメリウス ネギディウス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/58

第三章 ディス・カントン・アールガウ巡礼 10 ツォフィンゲン→ムーリ→レンツブルグ

八 ツォフィンゲン→ムーリ→レンツブルグ


 首都を抜けるといよいよ修道院を巡る過酷な旅がはじまる。過酷とはわかっていてもなぜだか心が躍るのはなぜだろう。スパグスによると首都から先はかなりタイトなスケジュールになるらしい。なぜなら修道院は日没と同時に門が閉ざされるからだ。日没時間は日によって違うが大抵十八時には門は閉まるらしい。そうなればどんなことがあっても開かないそうだ。融通が効かないし、もう少し柔軟にして欲しい所だが、私が産まれるずっと前からそうだったろうし、これから先も変わらないことは確かだ。この島には確固たるルールが存在する。私は余所者なので言っても仕方がないし、間に合うように進む他ない。

 野宿の用意はこれまでと同じだが、島はより多くの狼が棲息しているらしい。一説によると島の狼の数が増えすぎたため新しいフロンティアを求めて西の大陸に渡ったといわれている。また狼以上に厄介なのは山賊らしく、人間にも関わらず狼以上に話が通じず巡礼者を定期的に襲うらしい。修道院さえも標的になることがあるのでどの修道院も堅固(けんご)な造りをしており、また襲撃を受けにくい地形に建物が作られているようだ。山賊はこのような島でも住み心地が良いのかずっと居座り続けている。地形のせいもあり、また一掃しようにも島に対抗する武力がないので放置せざるを得ないというところなのだろう。


 私たちは当初に計画したとおり、ムーリの修道院を素通りして次のレンツブルグへと向かった。島の道はかなりの悪路で予定した距離は稼げず、大幅に遅れてしまい著しいストレスだった。なんとかレンツブルグにたどり着いたときには二人して疲労困憊であった。

 少し迷ってしまったのと――驚くなかれ、島はどこへ向かっているのか知らないが道が多岐にわたっているのだ――巡礼者は普通、修道院は一つずつ回るのが定石であり、距離的に等間隔にあるため、夕方閉門間際に駆け込むように入る者などいないのだ。レンツブルグの門を閉める係の修道士も必死で馬を駆って入ってきた者など初めてだと言っていた。一瞬盗賊が駆け込んできたのかと錯覚し臨戦態勢になったほどだという。

 ムーリは最初に皆訪れるだけあって修道院の基礎である作法やしきたり、礼拝の仕方や一日のタイムスケジュールを学ぶのだが私は巡礼者ではないのでパスさせてもらったのだ。スパグスに訊くと、ムーリは特に厳しい修行などはしておらず信徒でなければ立ち寄る必要性はないらしい。また最初の修道院であるため巡礼者の数も多く、宿坊の数も限られるため部屋がいつもいっぱいで大部屋で雑魚寝ということもあるそうだ。私もスパグスもウルバヌス教ではないし、すべての修道院をきちんとまわってウルバヌス教に改宗することになったら笑い話にはならないだろう。私は巡礼者たちを見て自分の知らない世界を少しだけ体験してみたいだけなのだ。修道院での修行や労働には興味があったが、私は所詮通りすがりの旅人に過ぎない。そこまで深く知ろうとは思わないし、食事と眠る場所さえ確保できればと思っている。

 ウルバヌス教は今でこそ多くの信者を獲得しているが、発足当初は異端であり迫害を受け続けた歴史がある。それが変わったのはやはりスキヴィアスの功績が大きい。英雄スキヴィアスは王の加護を受け多大なる権力を保持していた。この島を独立させたのも彼女の力である。どの修道院も本土の様々な地域から援助を受けて設立し庇護の元成り立っている。労働による特産品でそのすべてを賄うことは不可能であるし労働もまた修行の一部であるという考え方で、修行があくまでメインなので生産性はそれ程高くはないのだ。


 修道院には必ず聖堂、農園、薬草園、救護施設、宿泊所がある。

 私たちは到着するとまず“dorter baculus”に通される。本土で言う宿坊係とでも訳せばいいだろうか。この修道院では宿坊係は気のよさそうなおじさんだが、修道衣を着ているのでこの人も修道士なのだろう。スパグスによると宿坊係は持ち回りで回ってくるそうだ。当然こんな時間に来る巡礼者(私たちは違うが)はいないようで、おじさんは退屈していたらしくお茶を出してくれた後にすぐに部屋には案内せず世間話を始め出した。修道院は厳格で会話することも昔は禁じられていた、と聞いていたのであまりの違いに面食らった。ここレンツブルグは前のムーリで基本的なことを学んだ後、それを実践に移す場のようで、聖堂の方は一日中人が溢れんばかりの大盛況なようだ。そのため今いる食堂は閑散としている。

 おじさんは私たちの修道衣を見て宗派はなんだと手振り身振りを加えてやたらに聞いてくる。言葉はわからないので返事のしようがないのだけれど。君らがどんな神を信じようが構わないし私はとやかく言わないがそれを私におしつけないでほしい。とそのような旨を言うが当然理解していないようだ。どう返せばいいかスパグスに聞こうと思ったが先ほどからスパグスの姿が見えない。馬を厩舎に連れて行ったのだろうか。今度聞いておくことにしようと頭の片隅に記憶した。


 スパグスが戻って来たので、連れ立って部屋の方へ案内される。三人部屋で狭く二段ベッドと簡易ベッドが一つ左右の壁に設置されている。簡易ベッドの方は上に太い梁がせり出しており二段ベッドを置くスペースがないのだろう。正面には明かり取りの窓があり、小さな文机がある。文机の上には燭台があり部屋の明かりはそれ一つでまかなえということらしい。なんの飾り気もない部屋だった。

「監獄とあまり変わらないね」

 私は言った。先客が一人、簡易ベッドの方ですでに眠っていた。服の色からすると巡礼者のようだ。こちらに背中を向けて眠っている。私たちは結果、二段ベッドになったのでどちらが下にするか相談し私が下となった。公平を期すため次の修道院では私が上となる。

 部屋は暗く、なんの娯楽もなく、文句を言う筋合いはないのだけれどひどく気が滅入った。ベッドは地面で横になっているのと変わらないほどだった。先客もこんなところに閉じこもっていたらおかしくなるだろうと思ったが、気にせず眠り続けている。豪胆の持ち主なのだろう。明かり取りの窓から外を見たが真っ暗で何も見えなかった。窓ははめ殺しになっており開けることができない。隙間から外の風の音が聞こえる。

 食事はまだだが、私たち異教徒は食堂で一緒に食事をとることは許されておらず、すべて終わった後に食堂へ行くしかない。なのでまだかなり時間がある。私は手持ち無沙汰なので外へ出てみることにした。スパグスも一緒についてきてくれた。

次は月曜日更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。