第三章 ディス・カントン・アールガウ巡礼 6 「フィジカ」より抜粋
5 「フィジカ」より抜粋
香料
香りを有する素材であり香りをもたらすもののことである。主に使用されるのは香水だが食品に使ったり薬として利用することもある。非常に高価であり、天然香料は経日による変化が生じやすく、産地の気候や戦役等の影響を受けやすいという欠点がある。
天然香料
天然香料には植物性香料と動物性香料がある。
植物性香料
植物の花、果実、葉、枝、幹、種子、樹脂、根、苔などから採取したもの。
動物性香料
ジャコウジカ→ムスク(麝香)
ジャコウネコ→シベット(霊猫香)
ビーバー→カストリウム(海狸香)
ミツクリ→アンバーグリス(龍涎香)
以上の四種である。
抽出法① 冷浸法
テレビン樹脂、ワイン、蜂蜜、ミルラ、サフラン、シナモン、儀式に用いる香料製品の調合法は大切に守られ、口伝えでのみ伝承され、漏洩を防ぐために決して書き記されることはなかった。アンフルラージュの技法も同じで卓越した専門家だった。アンフルラージュとは花びらを油脂に何度も載せ替えて香りを移し取りその油脂から香料であるポマードやアブソリュートを得る香水抽出法。冷浸法、ジャスミンや月下香など主に摘み取った後も香りを失わない花から香気成分を抽出するために使われた方法。室温で抽出が可能なので熱に弱い成分も抽出できる。
脱臭した固形の動物性脂肪(精製した豚油)を塗ったトレーに花びらを載せ、花びらに含まれる香気成分をトレーの脂肪に吸着させ定期的に取り替える。(ジャスミンの場合は二十四時間ごと)脂肪一キロにつき花、二、三キロの割合で作業を一カ月ほど続けた後、低温で酒精と混ぜる。エタノールによって香気成分を脂肪から分離させることができる。
抽出法② 温浸法
熱を加えて抽出する方法で、熟成法とも呼ばれる。薔薇やオレンジの花のように摘み取った後に香りが失われる花に利用された。冷浸法と同じやり方だが、成分の純度を高める作業が高温で行われる。脂肪を熱して液体にし、これを花に投入し脂肪が香気成分で飽和するまで数度花を取り替える。
龍涎香
龍涎香はアンバーグリスともいう。ペゾアールの一種でミツクリの腸内で発生する結石であり香料の一種である。生成されたばかりの龍涎香は糞便臭が強く、熟成するにつれて甘い香りになり一般的には蒸気質の化学的渋みのない匂いとなる。熟成前の方が価値は高い。アルコールに近く、灰色、琥珀色、黒色など様々な色をした大理石状の模様を持つ蝋状の固体であり芳香がある。偶然に流れ着いた物を手に入れるしかなく、非常に貴重な香料であった。現在はミツクリ猟をするようになったため、解体時に稀に入手できるようになり入手確率は飛躍的に上がったが、それでも入手難易度は高い。灰色の琥珀は薬としても使用され最も高価な部類に属する。
沈香
宗教儀式や香道、薬用、美術工芸品の素材として珍重されてきた。
牙香樹や沈香樹など特定の樹木において傷や病気によりその際に生成される樹脂が内部に沈着したものをいう。香木として利用される。気候、風土、傷など特定の条件や環境により突然変異したもので、脂が沈着し長い年月を掛けて沈香となる。原木すべてが香木になるわけではなく偶然に寄るところが大きい。元来は軽い樹木が樹脂により水に沈むほど重くなることから沈香と呼ばれるようになったと言われている。
白檀(後述)と違って沈香は焚くことで放香する。
腹痛、嘔吐、不眠に対して薬として用いることもある。
原木が成木になるまで二十年、さらに沈香になるまで五十年を要する。高品質なものは百から百五十年はかかる。
色は黒っぽいものから茶褐色、黄褐色など様々だが、良質なものほど色が濃く、独特のつやが見られる。脂が染み出しているようにも見て取れる。
白檀
爽やかな甘い芳香が特徴の香木。成長するにつれて根の先の吸盤で他の木に寄生し養分や水分を奪う半寄生植物。
香木として利用される他、蒸留して得られる油は殺菌作用、利尿作用があり薬用として用いられる。沈香と違って熱を加えなくても芳香を放つのでそのまま用いることができる。
六国五味 香木の分類法。
香炉で香木を燃やし立ち上る煙と残り香を五味にわけバランスや深み、複雑性、持続性などを評価する。
五味
辛 辛み 胡椒など香辛料
甘 甘み 蜂蜜など
酸 酸み 梅干しなど
鹹 塩辛み 海藻を煮詰めたもの
苦 苦み 柑橘類を火にかけた苦み
六国
伽羅 五つの味をバランス良く感じる最高級の品質。
羅国 繊細で落ち着いた香り。
真南蛮 酸味が強く落ち着いた香り
真那伽 香りが長持ちし柔らかく奥深い
寸聞多羅 酸味の中に甘みを感じる。
佐曽羅 酸味が強く繊細で上品な香り。




