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神の頬に触れるような気持ち  年代記第七章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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第二章 ロックタイト島綺譚 19

 司書は言った。メンドーサとは旧都で何度も一緒に仕事をしていた。元々彼は旧都の出身だ。司書のことは昨日ここへ来る前に生い立ちなどメンドーサから聞いた。だがその逆のことも言える。司書も私の情報をメンドーサから得ていたのだろう。しかもかなり前から。

「それは少年にも伝えたのか?」

「ええ、あなたの職業に興味を持ったみたいね」

 通りで少年が私が歩荷人だと言った時に依頼だとか言い出したのか。普通歩荷人がなんのことかわからない人間の方が普通なのだ。歩荷人といってすぐ依頼しようとなる発想には普通ならないはずだ。

「しかし私があの骨董屋へ行かなければ何も話が進まないはずだ。どれだけ周到に準備していたとしても、私の行動まで読めないだろう」

 私は反論した。

「そんなことは簡単なことよ。あなたはあの宿屋に泊まることは予想できたし、酒場で情報を得ようとすることもわかっていた。あの飲んだくれは毎日肋骨レコードの話をしているし、もし話さなくても酒場の主人があなたに話すでしょう。それは遅いか早いかの違いでしかないわ。最悪、ファントムがあなたを骨董屋に案内する計画もあったわ」

 つまりどのみち私は利用されるということか。

「少年は思っていたよりは使えたけれど、肝心の地図がいつまで経ってもできなかった。上巻も見つけることができなかったしね。いい加減腹が立ってきたところにあなたがやってきた」

「おあつらえ向きのカモがきたわけか」

「執事はすぐに少年からあなたにシフトしようと言ってきた。あなたは即座に肋骨レコードもみつけたしね。私からのささやかなプレゼントよ」

 あんな貴重なものをポンとブレゼントできる司書の持つコレクションに私は俄然興味を持った。

「かなり高額だったけれどね、私は首尾よく合格したわけだ。(私は少年も同様にすでに見つけていたのではないかと思っているのだが)それと同時に通報したのも君か?」

「それは執事ね。勝手なことをしたものね。おかげで計画が少し狂ってしまったわ。私は地図さえ手に入ればそれでよかったのに執事は違っていたのね。まぁその話は後で。続けて」

 私は話を続ける。

「私は少年と共に彼の秘密基地へ向かった。君としては進捗のないカタコンベの捜索をしてもらいたかったが、少年はカタコンベについて私には何も言わなかった。私が秘密基地を去った後に執事が訪れ少年に地図の完成を急ぐように迫ったが少年は首を縦に振らない。君が執事を焚き付けたのかもしれないな。なので懐柔策に第三者である私を活用することを考えた。執事は私が追われているのを利用して、無事に逃すことを条件に少年に地図の作成を強要した。少年と私は大聖堂の地下で落ち合う手筈になった。君と執事は共謀して、私はまんまと誘い出されそして閉じ込められた。まぁ結果的には落ち合うことはできたがな」

 私がそこまで話すと、司書が差し挟んできた。

「だいたいその通りよ。だけどそこから私はまだ少年には利用価値があるから泳がせておいてと執事には言ったのだけれど、執事は暴走しだして、あなたを誘拐犯にしたてあげることにしたのよ。私もまぁ領主には恨みがあったから協力したわけだけど。執事はあなたが来たことで誘拐の計画を実行に移せると浮き足だったのね」

 司書は言った。

「君は昔あの領主邸で働いていたそうだね。執事とも少年とも面識はあったわけだ。誘拐を言い出したのは執事か?」

「そうね。意匠返しのつもりなんでしょう。うまくいくはずもないのにね」「地図を作らせる計画とは別に誘拐のプランは以前からあったのかい?」

「ええ」

 だがそれは現実的ではなく実際にやってもうまくいかないことぐらい頭の良さそうな司書にはわかりそうなものだが。犯人となる第三者が必要だっただろう。そこに現れた私を利用しようと考えるのは必然か。

「どうやって身代金を手に入れるつもりだったんだ?」

「あなたを犯人にして少年と二人して島から逃亡したことにして、執事は身代金を持って旧都まで行くつもりだったそうよ。その金を持って姿を消す手筈ね。私と一緒に行くつもりだったみたいだけど。おそらく私も用済みになれば捨てられるんでしょうけど。最終的にはあそこに監禁することは決まっていたから、それも結局は早いか遅いかの違いね。あなたたち二人は聖堂の地下で誰にも知られることなく餓死するわけだけど」

 まったくひどい話だ。

「少年が慕ってくれたので愛着があるかって? それはないわね。利用して裏切ったわけだけれど後ろめたさはないわ。だけど少年を死に至らしめようとは思っていなかった」

「聖堂の者に言って食事を与えさせていたのも君の指示か」

 私は訊いた。

「ええ、でも身代金を持って旧都へ行くなんてうまくいくとは思っていなかったわ。だから一緒に行くつもりもなかったわ。まぁそう言っても言い訳にしか聞こえないでしょうけれど。私も執事も領主に搾取された人間なのよ。ありきたりの動機で申し訳ないのだけれど。まぁ実際にはそんなものね」

 司書は続ける。

「私ははっきり言って誘拐はどうでもよかったけれど地図だけは欲しかった。あなたなら何故かわかるでしょう?」

「自らカタコンベへ行けばいい」

「私はそんなタイプではないわ。それに外へはあまり出歩けないのよ。執事も使えないしね。できれば執事には秘密にしておきたかった。私は長年ずっと肋骨王の隠匿したレコードを探しているのよ」

 まさか私がすでに見つけたとは思ってはいないようだ。

「それじゃなければこんな島の学校の司書なんてしやしないわ。私はイル・ベルトの地下には肋骨王のコレクションが眠っていると思っているの。だから少年に地図を書いてもらっていたの。でも少年が今朝やってきて地図は完成してあなたに渡したとか言うのよ。冗談じゃないわ。なんのために今までやってきたというのよ」

「少年は何と?」

「私との訣別だとかなんとか言っていたわ」

「なるほどね」

「まさかあなたから持って来てくれるとはね。どうやって手に入れようかと思案していたところなのよ。あなたは島を離れるみたいだし、少年も、もちろん執事も使えないし」

「やっと本性を見せてくれたね。私を脅して奪い取るかい?」

「欲しいものをちらつかされたら飛びつきたくなるのは当然でしょう? 何かと取引というわけ?」

「どうかな、君のコレクションを見せてもらえたら考えるかもしれない」

「わかったわ、見合うものがあるかわからないけれど。こっちよ」

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