表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の頬に触れるような気持ち  年代記第七章  作者: ヌメリウス ネギディウス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

第二章 ロックタイト島綺譚 13

「今日の捜査はここまでだ」

 私は執事に言った。あとは一人で調べ物をするつもりだった。執事がいない方がなにかと都合が良いだろう。

「教室の方へは行かないのか? そのために来たのだろう?」

 執事が私を咎めるが、私は歩みを止めず学校を出る。

「その必要はない。それに領主はできるだけ極秘裏にやってほしいとのことだ。皆にジュリオを知らないかと聞いて回るのか? 行方不明だと吹聴して回るのが良いならやるが」

 私がそう言うと執事は黙った。

「先生に話を聞いたとしても忖度するだけで本当に欲しい情報は得られないだろうし、第一少年がいなくなってから君らもそれぐらいのことはしたのだろう? 少年の人となりは司書に聞いた話で十分だし、聞いたところでどこにいるかのヒントにはならない」

 執事は反論する。

「だがそれでなにかトラブルに巻き込まれたことが判明するかもしれないだろ。何か心配事を抱えていたのかもしれない」

「そんなものは知ったことじゃない。心配事を抱えていない人間なんてどこにいる?」

「しかし、手がかりが何もないだろ」

 執事は言う。

「あったさ、図書室で見つけたじゃないか、もう情報は十分得ることができたさ」

 まだ少年がいなくなって数日なので死んでいることはないだろうが急いだ方がいいだろう。私はこの執事が怪しいと睨んでいる。直接の首謀者ではないとしても何らかの事情を知っており関与をしているのではないだろうか。

 だがそれも私の推測でしかない。情報が少なく断片的であるほど、人はそれを無理やりにつなげもっともらしい理由をつけるという行為を脳が勝手にしてしまうと聞く。初期の誤った仮説がその後の判断を歪めることが多い。私は中央広場に移動するとベンチに座り、しばし考える。執事が手持ち無沙汰に苛々としているがそんなものは放っておけば良い。

「ひとつ聞き忘れていたが少年の上着がなぜ私の荷物に入っていたんだ?」 

「お前を連行したら荷物に入っていたと聞いている」

 私はカマをかけてみたが執事は素知らぬ顔だ。けれど、手で口元のヒゲを触る。もちろんそれは何かやましいことを抱えている時の心理的なサインなのだろう。

 ここまでの情報を元に少年の足取りを推測する。本が返却された日はスタンプで分かっている。司書が言っていたように私が宿屋を追い出された夜に雨が降っていた日だ。この地で雨は珍しいので間違いないだろう。少年がこの本を返却したのが午前中だとするとそのままあの爺さんの骨董屋へ向かったのではないだろうか。もちろん目当ては上巻だ。どうして上巻がある場所を知ったかはわからないけれど偶然だとは思えない。骨董屋に向かうが本は見つけられず、私に遭遇しあろうことか私に上巻を買われてしまう。だから上巻を手にした私に絡んで来たのだろう。その後、隙あらば本を奪うため私と接触する。しかし奪うことはできずに秘密基地へ私と行くことになる。私は夕方には宿に戻ったが少年はそのままそこで過ごしていた。

 いや待てよ、執事は秘密基地を知っているのではないだろうか? 上着を持っていたことから執事が少年とこの日接触したのは間違いない。あの後何らかの方法で執事が少年を監禁したのではないだろうか?

 問題は上巻があの骨董屋にあることを少年がどこで知ったかだ。筋が通る仮説としては、あの日が初めてあの店に行ったわけではなかったのではないだろうか? 少年と爺さんが顔見知りである確率は高い。爺さん自身が少年に本があることを前に告げたのではないだろうか? ずっとあの店の中で探していたわけだ。私の嗅覚で簡単に見つけたように思うがあれだけ混沌とした中で目当ての本を見つけるのは砂浜で特定の砂粒を探すようなものだろう。

 上巻に何らかの手がかりがあるのだろうか?

 上巻は今持っている。通読したがそれらしき手がかりはなかったように思うし、手がかりとして有力なのは下巻の迷路の方だろう。迷路はこの町の下に広がるカタコンベの地図であるのは間違いがない。けれど、新・旧市街側だけで全てを補完していなかった。イル・ベルト側の地図は載っていないので、上巻に地図が記載されているかと思ったのだがそれらしい記述は見つからなかった。イル・ベルト側のカタコンベの地図は存在しないのだろうか。


「ここでお別れだ」

 私は執事に言った。

「何を言っている。まだ午前中だぞ。残された時間は短いんじゃなかったのか?」  

 執事は文句を返してきた。

「目的もなく街を歩き回ってもただ疲れるだけだろ。ここからは捜査はしないよ。先ほど借りた本をここで読むだけだ。それにその後はあんたの嫌いな娼館へ向かうがそれでもよければご自由に。それは完全に調査とは関係ない。個人的に楽しむためだ」

 メンドーサの所へは行くが個人で楽しむ云々は出鱈目だ。

「一日身を粉にして探せ、今も坊ちゃんが不安で一人押しつぶされそうになっているかもしれない。私は居てもたってもいられなくなる。おまえは探す義務がある」

 まったく白々しい。

 執事は私の前に立ちふさがった。

「私は少年がどこにいるかを調べるのが依頼だ。死体でもなんでもかまわないわけだ」

 私がそう言うと執事がいきなり私の胸ぐらをつかんだ。かなりの握力で締め上げられる。

「…君らの、無能さを、私で、やつあたり、しないでくれ」

 私はそれだけ言うのがやっとだった。執事は手を緩める。私は何度も咳き込み酸素を吸い込んだ。

「報告は必ずするように」

 私を汚らわしいものを見るような目で蔑むと執事は屋敷の方へ引き返して行った。

 

 私が推測するに執事にしてみればおそらく少年が見つからない方が都合がいいはずなのだけれど先ほどの執事の態度は明らかに少年の身を案じていた。───もし早々に見つけてしまうと少年の口から執事が関与していることが告げられるかもしれないからだ───何か事件に関係しているという読みはまるきり外れているのだろうか。私はてっきり核心に迫ろうとする私の邪魔をしてくるものだと思っていたのだが。今はまだ泳がしている状態なのだろうか。あるいは最悪のケースだが少年はすでに亡くなっていてたとえ見つけたとしても何も語れない状態なのか。それは考えたくはないのだけれど。

 私は一人になるために執事を挑発したわけだがなんだかよくわからなくなってしまった。

だがとりあえずは捜査の続きをするしかない。私は再び上巻を取り出しあらゆる方向から眺めてみる。特に変わったところはなく、上下巻を揃えて初めてなにかわかるかと思ったが、二冊揃えてみてもわからなかった。一つだけ並べて気がついたのだが、裸本の上巻と違って下巻にはカバーがついている。図書館の蔵書なのでカバーが外れないように糊付けされてはいるのだが。表紙をなでてみると所々だが少しカバーがヨレて皺になっている。

 試してみる価値はあるだろう、私はポケットからナイフを取り出すと細心の注意をはらいながらカバーと本体の間に刃を差し込み下巻のカバーを剥がす。カバーがよれていたのは剥がした後に再び糊付けしたせいだろう。苦労しながらゆっくりと剥ぎ取っていく。

 ビンゴ! 剥がしたカバーの裏側にイル・ベルト側のカタコンベの地図が描かれている。相当広いのだろう、それは東側半分の地図だった。と、いうことは上巻のカバー裏には西側の地図があったのだろう。今となってはどこにあるのかわからないが。だが広大なカタコンベの半分が明らかになっただけで良しとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ