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神の頬に触れるような気持ち  年代記第七章  作者: ヌメリウス ネギディウス


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第二章 ロックタイト島綺譚 10

7 


 私はそれから数日間、ほとぼりが冷めるまで少年の言う秘密基地で過ごした。昨日までの雨はすっかり止んでずっと晴天が続いている。この秘密基地の持ち主である少年は全く姿を現さないので退屈で仕方がなかった。あれだけつきまとっていた少年が一切姿を現さないのは解せなかったが子どもというものは熱し易く冷め易いものだ。二度と会うこともないだろう。食事は持っていた携帯食があったので困りはしなかったが、こんな旅の始まりで食べるとは思っても見なかった。

 そして少なくともこのイル・ベルトで人と遭遇したことはなかった。この町へ入ることさえ地元の人は嫌っているというのは本当らしい。しかし時々人の視線のようなものを感じることがあった。監視されているようなそんな視線だ。しかし近衛兵ならただちに私を捕まえるだろうし、泳がせておくはずがないので不可解ではあった。ただただ精神的に参っているだけなのだろう。

 隠れていても煙草を吸うか本を読むかするぐらいしかすることがないので、日中はよくあたりを見て回った。そうは言っても大手を振っては歩けないので近くを確認する程度だが。まわりの状況を見てみたのだが、まわりの家は崩れやすくて危ないし潮風でみな腐っていた。雨が吹き込んで戸板はぐずぐずでとてもじゃないが中で過ごす気にはなれなかった。夜、ねぐらで過ごしていると必ずどこかで壁や床が抜け落ちる音がした。戦火で倒壊した建物はそのままで放置されていたので被害を受けていない家はなかったし役に立ちそうなものは何も残っていなかった。時々立ち止まっていきなり振り返ったりしたがもちろん誰もいなかった。だが小動物はいるのか、ふと麝香のような残り香があった。猫でもいたのだろうか。

 私は手斧を使い比較的ましな床板をはがし細かく裂くように割ってねぐらへ持ち帰る。炉に火を入れた。炉といっても簡易的なもので石を積んだものに泥で塗り固めただけなので五徳も水平ではないのか不安定である。薬缶がわりに鍋を置いて湯を沸かした。この小屋は少年が一から一人で作ったようだが、これだけのものを作るにはかなりの歳月がかかっただろうと思う。

 寝ぐらで過ごしている間中、ずっと誰かに見張られているような気がするのは変わらずだった。きっと神経が過敏になっていてありもしないものに怯えているのだろう。けれどそれももう少しの辛抱である。

 数日後、船の手配ができているかと再びメンドーサの元を訪ねた。メンドーサは不在だったが、前に会った女性がことづけを預かっていて、コールスカンプ行きの船を手配したと伝えられる。だが秘密裏なので密航だそうだ。荷物室で隠れて出航なのであまり良い待遇ではないとメンドーサはすまなさそうに言っていたそうだ。私はそんなことは別に構わない、と言った。女性に礼を言うと───メンドーサと会わずに島を離れるのは残念であったが───私はねぐらに戻り荷物をまとめ早速港へ向かうことにする。その時、ねぐらには罠を仕掛けていて、目立つところに本と肋骨レコードを置いていったのだが、動かした形跡は見当たらなかった。けれど、入り口近くに撒いておいた灰が踏みつけられた跡があったので誰かが侵入したことは確かだった。しかしもうここに戻ることはないだろう。私は少年から預かった二冊の本とゲームを棚に戻しておいた。そしてその横にロックタイトの歴史を置いておく。私は本を図書館に戻すようにメモを残した。この本の本来あるべき場所はあの図書館だろう。

 私が乗る船は行きに乗ったのと同じ船だった。凪で足止めを食らっていたようだ。けれどそれが幸運な方に働いたようだ。とうの昔に出向しているコールスカンプ行きの船に乗ることができるのだから。

 船長は申し訳ないが、乗船賃を頂くよ、と言った。メンドーサは手配してはくれたが、料金はこちら持ちらしい。私は苦笑した。まぁそこまで世話になるわけにはいかないが商人らしいなと思う。私は銀貨を渡す。船長は素知らぬ顔でそれを素早くしまった。

「冥土の川を渡るときの船賃は知っているか? 両目に硬化を置くんだ。つまり言いたいことはわかるな」

 まったくがめつい人間だ。私は追加で銀貨を一枚払った。とんだ出費である。


 私は客室に入るわけにはいかないので、船の備蓄食料である小麦や異国の動物たちの檻が並ぶ荷物庫に案内された。荷物庫は騒々しい。島固有の動物なのだろう、見たこともない動物を北のコールスカンプで好事家に売るのか、もしくは動物商人に売るのか。私の隣の檻には小さな猿が入っていて何か木の実を食べていた。

「仲良くしようぜ、よろしくな」

 と私は挨拶すると新しい隣人は歯をむき出しにして私を威嚇した。あまり快く思われていないらしい。


 もう少ししたら出航だという頃、頭上の甲板が騒がしくなる。このまま島を離れればすべての厄介ごとから解放される。収穫は少なく不完全燃焼であったが、もう二度とこの島へ来ることはないだろう。その時、どかどかと倉庫の外から足音が聞こえる。なにか嫌な予感がする。私はうずくまり傍にあった小麦の袋を頭にかぶった。猿がキーキーと騒いだ。「しっ、黙ってろ」私は言ったがもちろん伝わるはずもない。

 近衛兵が倉庫内に入るとそっちを調べろ、と声を掛け合い私を捜索し始めた。逃げ場はなく、私は程なく見つかってしまう。私を発見すると両脇から掴まれ地面に顔を押し付けられ後ろ手に拘束された。船内の床は麦わらや鳥の糞などでひどく汚れていたので、私は泣きそうな気分になった。

「さっさと立て、クソ野郎」

 近衛兵は言った。おまえたちが私の顔を地面に押し付けておいてなんて言い草だ。しかし、私はそう言う前に猿轡を咬まされ何も言えず、抵抗することもできない。

 近衛兵にそのまま新市街に連行された。兵はこれ見よがしに共和国大通りを通る。見せしめのつもりだろう。人々は好奇の眼差しでこちらを見ている。私は手に縄をかけられ、犯罪者扱いで連行されたのだ。そのままどこへ行くのかと思えば領主の邸宅へ向かうらしい。

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