winter vacation 3
「なるほど。わたくしだけじゃなくみなさんもそれぞれ新しい魔法を発見したということで安心しました」
グローは報告を聞いて納得したように微笑む。
「グロー以外はみんな喋ったよ。今度はグローの番だね」
「ジーア。わたしくの新しい魔法は実践でお見せしようと思っています。もちろん皆さんのもその時に実際に見せていただきます」
「どういうこと?お互い戦うってこと?」
「違いますよミアン」
「ならドリーチェが現れるまで待つってことか?」
「ブーア。それも違います」
このやり取りにグロー以外は顔を見合わせている。これ以上はグローから話さない限り進まないだろうと誰しも思っていた。
こんな時にティーナがいればさらに突っ込んで聞くことをしているだろう。もちろん火花バチバチに。
三人の脳裏にはそんな光景が映っていた。
しかし。
誰かが口火を切らないとならない。一体誰か?
「・・・はぁ。そうなるか・・・分かったわよ」
二人の視線を感じてジーアが溜息混じりで了承する。
「そろそろ教えてくれないかな」
「どうしましたジーア」
「率直に聞くね。グロー、絶対なにか考えているよね」
ジーアの質問にグローはいたずらっぽい笑顔になって
「あと一週間でクリスマスがやって来ます。みなさんはクリスマスの伝説って知っていますか?」
「伝説?・・・誕生日くらいしか思い付かないけど」
「まあ、日本ではそういう認識でしょう」
グローは二杯目のココアを飲んで
「・・・ほんと、おいしいです。甘くて。それにとても温まります」
「それで?私の答えは正解でいいの?」
ジーア以外、ミアンもブーアも正解を求めるようにグローのことを見ている。
みんなの期待に答えるようにグローはカップを置いて
「そのことは当日にしましょう。今からわたくしのことをお話します」
グローがそう言うってことはこれ以上は話さないだろう。ジーアはこれ以上は追求しないことにした。
他も同じことを思っているのかそれ以上聞くことはなかった。
グローはみんなの顔を順番に見て、ゆっくりと言葉を続け始める。
「わたしくが魔法の特訓をしようとアラスカに行った時。面白いモノを見つけました」
「アラスカ?」
ミアンはスマホを出して場所の確認をする。
「うわ・・・真っ白なんだけど」
「ここはアメリカでもっとも寒い州です。住んでいる人も少ないため人目を気にする必要がありません。正直移動だけで大変でした」
ジーアも地図を見る。ざっと見積もっても4000km以上はある。
グローだって飛ぶ速度はジーアと同じくらいのはず。だとしたら一体何時間掛かったのだろう。
「それで?何を見つけたんだ」
「それも順を追って説明いたしますわブーア」
グローはここで一旦話を区切って冷めたココアを飲み干して
「ペンシルベニア州で初めて雪の降った日でした。向こうでドリーチェに遭遇することが全然なかったので魔法少女のことはかなりなまっていましたし、それに焦りも感じていました」
「なんで焦ってたの?」
「ジーア、それはあなたが一番良く分かっているんじゃありませんか」
「確かに日本が多かった。ほとんどと言ってもいい」
「なんでかな?」
「ミアンとブーアには言ってなかったかな。ヘーン達の狙いは私なの。ジーアなの。こうも言っていたんだ。友が待ってるって」
「友?ドリーチェの?」
ブーアは緑茶をみんなのために新しく淹れている。
「よく分からないんだ。私もだけどジーア自身も心当たりないって」
「そうなんだ。ますます分からないな」
「うん。ジーアが言うには前のジーアの話じゃないかって」
「前のジーア?」
「そう。あれ?もしかしてみんな知らないの?魔法少女自身も受け継がれているってこと。グローだってミアンだってブーアだって、みんなそうだと思うよ」
「初めて聞きました。魔法少女もいろいろ事情がありそうですね」
「そうだねグロー。でも今はそれは置いといてグローの話を聞かせてくれないかな」
「そうですね。ずいぶん逸れてしまいましたね」
それぞれの前に緑茶が置かれた。みんな黙って同時に一口飲む。
「そりゃ焦ります。ジーアもミアンも新しい魔法を手にしている。ブーアだって少し前に見つけたって。その時はまだわたしくには何もなかったんです。一つでいい。何か手にしないとみんなに置いてかれてしまう。そんな焦燥感でいっぱいでした。だから自分を追い込むためにアラスカまで行ったんです」
ジーア達はグローの話に耳を傾けている。次の言葉をじっと待つ。
「グローともずいぶん話しました。けれどわたくしにはこれ以上の能力はない。雷を操れること、簡単なサイコキネシスができること。ならもっと精度上げてみようと何度も地上にイナズマを落としました。けれどそれも今までとあまり変わりません。むしろ最初の頃にグローから全てを教えてもらったことが普通のことと思うようになっていました」
軽く口の中を濡らすようにお茶を一口。
「実践ができないことがこんなにも歯痒い、そんなことも思いました。正直ジーアのことが羨ましかったです」
「なんかそんなこと言ってたね」
「はい。実践で腕を磨くことがやはり魔法をより良く使う一番の近道だと・・・わたくしはドリーチェが現れてくれないか願いもしました。いつしか雪が止んでいて満天の星がキレイに瞬いて・・・流れ星がたくさん見えました。流星群じゃなくても流れ星はいつだってあるのですね。わたくしは・・・少々子供っぽいと思いましたが願ってみたんです、流れ星に・・・『ドリーチェと戦いたい』って」
「そんな願い事する?もっと夢のあることにしなよ」
「ミアン。そうでもしないとわたしくはただの留学生としての毎日で終わってしまう」
「それで?願いは叶ったの?」
ジーアは冗談半分で聞いてみると
「はい。魔法と一緒で信じることはとても大事なことだと実感しました」
笑顔のグローに三人は呆然と見つめる。
「ほんとに?」
「うそじゃなく?」
「偶然じゃなく?」
三人同時に声を出す。
「はい。嘘ではありません。偶然かもしれません。流れ星の一つがわたくしに向かって来るのが見えました」
グローはその時の大きさを手で現す。ジーアが思い浮かべたのはバスケットボールより小さくてラグビーボールみたいな形だと。
「それで?戦ったの?」
「ミアン。そう興奮しないで。ちゃんと話しますから。その前に見てもらいたいものがあります」
グローはそう言って『くま屋』の外の出て行ったと思ったらすぐに戻ってきてコタツの上に置いた。
それはジーアの思った通りの形と大きさをしていた。表面は氷で覆われている。
「なにこれ?これが流れ星の正体?」
「ミアン。もっと中の方をごらんになって」
三人はじっと氷の表面の奥に見える赤色と緑色の混ざったような色を見つめる。
「なんだかマルヴみたい。でもちょっと色が違う」
「確かにそう言われれば見えないこともない」
「だけど身体は反応していない・・・なんなの?」
ジーア達はそれぞれ第一印象の感想を言って答えをグローに求めた。
「これはドリーチェのタマゴです」
「タマゴ?聞いたことない」
ジーアは反射的に質問する。
やはりドリーチェの概念が今までと変わりつつある。今までのようにいきなり現れてただ破壊するだけの存在じゃなくなってきている。
もしかしてこれってマルヴを削って『シェ』を生み出したクーイグの仕業なのか?
そんなことも考えてみたが正解かなんて分からない。ヘーンの気配だって今はない。
なら目の前のモノは?
「今はわたしくの魔法で凍らせてあります。孵化しないようにしてあります」
「え?ホントにタマゴなの?」
「そう言いましたよねミアン。これが目の前に落ちてきた時は正直脂汗が滲みました。どんなドリーチェが出てくるか分かりません。けれど一向に何かする様子もありませんでした」
「なんでこれがタマゴだって分かったんだ?」
「ブーア。わたしくもグローから聞いたんです。ただのマルヴだけなら倒すのは簡単です。手にした時に微かな温もりを感じました。ジーアから得たこれまでの情報でこれは今までにないタイプのドリーチェだと確信しました。だから完全に動き出す前にグローと会話をしていました」
ミアンは触ってみる。
「う〜ん。冷たい」
「凍っているからな」
「それで?」
「わたしくはこれの説明を細かくグローに伝えました。するとグローの方から詳しいことを調べるとのことで一旦会話は終わりました」
グローは目の前のタマゴを撫でて
「まだしっかり凍っていますね。グローと再び話し始めてこれのことが分かったのです。何年、何十年、いやもっと昔のこと。何百年も前の話になりますが同じことがあったと記録として残っていたそうです」
「何百年?魔法少女ってそんな昔からいたんだ」
「わたくしも驚きました。正確にいうなら彼女達の歴史は人間の歴史より長いとのことです」
「人間の歴史?だったら魔法少女ってどこから来たの?」
ジーアは自分の手を見てみる。
人間の歴史なんて言ったら紀元前、いやもっと前だって・・・猿人から原人、それから旧人になって現代に至る。そんな過程を考えたら何百万年前ってこと?
時間と時代と空間が歪んで見えるほど想像なんてできない。
これが魔法少女の歴史・・・
「それは聞いていません。ただ長い歴史の上に成り立っている、ということでした。だからジーアの言うように何世代にも渡って魔法少女自身も入れ替わりがあるという話も納得できるものです」
「そうだね。きっと教科書になったらとてつもない厚さになるもんね」
「では先に話を進めます。このタマゴは孵化すればドリーチェになります。どんなドリーチェになるかはその時の環境や感情で変わるらしいです」
「その時はどうだったの?」
「記録によれば日本に落ちた」
「・・・また日本」
「そうですね。でも今回のこととは関係ないでしょう。偶然だと思います。その頃の日本は天候不順とイナゴの大発生によってほとんどの作物を食い荒らされてしまいました。食べる物が減って当然人々は飢えによって多大な苦しみを強いられた。ある日、一人の少女が荒れた畑の真ん中でタマゴを見つけました。今と同じように赤と緑のキレイな石に見えたのでしょう。売ればお金になって家族に食べ物を買うことができる、そう思って家に持ち帰ったそうです」
「その時はまだ孵化しなかったんだ」
「はい、まだです。タマゴのことはあっと言う間に村中に広まりました。小さな集落だったんでしょうね。噂は尾鰭を付けてタマゴを狙う輩があったそうです。きっと誰もが同じことを考えていたのでしょう」
ここまで話せば後の展開は大体想像できる。人間の行動規範なんていつの時代も同じようなことの繰り返しなのだから。
グローは話を続ける。
「少女はキケンを察知してタマゴを隠そうと一人で夜の森の中に行った。けれど物事はそう簡単に行くはずはありません。少女の後を付けて来た・・・野党とでも言った方が分かりやすいですか・・・当然襲われました。みんな空腹を満たすために必死だった・・・」
貧しさとはいろいろある。物質的なのか、それとも精神的なのか。
その時はどっちもだったのだろう・・・・・・
「空腹で体力もない痩せた女の子に抵抗する隙なんてなかった。タマゴはあっと言う間に奪われた。彼女は嘆いた。今この空腹を、この人間達を。自分ではどうしようもないことを」
その光景が勝手に目の前に浮かんでくる。今の時代だって似たようなものだ。品物はある。けれど価格がどんどん高くなって買うことが出来ない人がいる。
きっと少女はこの世界を恨んだろう・・・いろいろなことに悲しんだだろう・・・
「タマゴはいきなり光を発して動き出す。そのことに驚いた野党達は一斉に逃げ出した。祟りだと思ったのでしょう。その頃は科学なんてありませんから。あるのは信仰という不確かなもの」
「それで?」
「まだ結論には遠いですよジーア」
グローはお嬢様的微笑みで話を続ける。
「当然少女だって逃げたかった。自分のせいで村に祟りが起こりでもしたらそれこそ家族に迷惑を掛けると。でも殴られて動くことができなかった。タマゴは少女の目の前まで転がってきた。驚きで声も出なかったでしょうね。でも恐怖と同じように好奇心もあった。少女はタマゴに気が付いたら触れていた。その時一体どんなことを感じていたかは分かりません。けれど少女の家族を思う気持ちが伝わったのでしょう。とても強く光って目を閉じて次に目を開けた時にはもうタマゴはなくなって代わりに金が置いてあった。それに少女が受けた傷も癒えていた。次の日、金を持って街に行くと食べ物を買うことができた。それは村中に配れるほどだった」
「そんなことあるの?昔話みたいじゃん」
「もちろん昔話ですよミアン。でもそれとは別に不思議なこともありました。少女を襲った村の人はいなくなっていた」
「なんで?」
「そうですね。ミアン、わたくしの推測ですが孵化したタマゴがドリーチェとなって野党となった村人を殺した。そしてそのドリーチェをその時の魔法少女が倒した」
「それならツジツマが合うってこと?」
「これは仮説です。グローから聞いたのはここまでなので」
「なんだか良い話ってこと?だったらこのタマゴもなんかくれるの?」
「それは分かりませんよミアン」
「う〜・・・で?グローはこれをどうするの?」
「このまま放置しておくこともできません。いずれドリーチェになるなら破壊するしかないでしょう。魔法少女としての責務ですから。ただ壊すのは簡単です。それに・・・」
「気になる。そうでしょグロー」
「そうですね。ジーアの言う通りです。興味があります。だから一人だとちょっと気が引けていました。でもみんなと一緒なら」
「じゃあ孵化させるの?ここで」
「さすがにここだと無理でしょう。考えがあります」
「それって・・・」
ジーアは急に海のことを思い出す。まさか同じようなことを言い出すのでは・・・
「そろそろ休暇に入りますね」
・・・きた!やはりこうなるのか・・・私にはまだ仕事がある。年末だから簡単に休むなんて言えない・・・それに嘘だって言いたくない。
「軽井沢に水無月グループが経営しているリゾートホテルがあります」
・・・はぁ・・・下田に続いて軽井沢・・・一体いくつそういうものを保有しているのだろう。
「ではみなさんよろしいですか」
「はい!あります。有りまくりです」
ジーアは勢いよく手を上げる。
「年末ですものね。ジーアが不参加ならミアンとブーアとわたくしの三人でも構いません」
海の時と違ってあまりにも呆気ないし素っ気ない。これはこれで寂しいと思うジーアだった。
「いろいろあるけどまだ不参加だなんて言ってない」
「でも海の時は無理をさせてしまいましたから」
「だから聞いてみる。私だって見てみたい」
「分かりました。期限は三日。それ以上は待てません」
「うん。分かったら連絡する」
その瞬間。
「あ。魔法が終わる」
止まっていた時間が動き出す。それは今夜のことの終わりを告げている。
「ねえ。グロー」
「なんですかミアン」
「せっかくだからタマゴに名前をつけようよ。えっと何がいいかな」
「盛り上がっているところ申し訳ないですけど名前はもうわたくしが付けてしまいました」
「え!そうなの?なになに?気になる」
「名前は『ミクラーシュ』です」
「ミクラーシュ?なんのこと?」
当然ジーアもブーアも知らない。
「わたくしがこのタマゴと出会ったのは12月6日。聖ミクラーシュからもらいました」
「やっぱり分からないよ」
「サンタクロースの原型とでも言ったらいいのでしょうか」
「サンタ?へぇ〜知らなかった」
「みなさん、そういうことでよろしいでしょうか」
クリスマスも近いということで誰しも賛成だった。
「それでは本日は解散いたしましょう」
みんな『くま屋』の外に出る。
「ところでグロー。ミクラーシュはどこに持っていたの?」
「こうするのです」
ジーアの質問に答えるようにタマゴを空高くサイコキネシスを使って飛ばしてゆく。
「こうして地球の軌道上に保管しています。これなら誰の目にも手にも触れることはできない」
「なるほど・・・」
感心しているジーアを余所に
「じゃあまたね」
ミアンは一足先に飛んでゆく。お風呂に入りたいのだろうと誰しも思っていた。
「わたくし達も行きましょう」
「そうだね。ブーア、ごちそうさま。美味しかった」
「ごちそうさまでした」
「気に入ってもらえたらなにより。じゃあ二人共気をつけてな」
手を振ってジーアとグローは冴え渡る冬の夜空に消えてゆくのをブーアは見届けてから自分も家に戻っていった。
今日で8月も終わりですね。
読んでいただきありがとうございます。
頭の中で井上陽水さんの歌が流れています。
『夏が過ぎ、風あざみ・・・』
夏は夢のようにすぐに終わってしまいます。
でも次の季節が始まります。楽しみです。
ちょっくら甘いものでも食べながら時代を見つめてみよう。
いろいろな感情に流されている私ですので・・・
ではまた次回お会いしましょう。よろしくお願いします。




