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僕は魔法少女に変身する  作者: マナマナ


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winter vacation 2

 久し振りの家族との再会は感動よりも驚きの方が大きかった。

 それでも有栖の行為のことについて両親は必要以上に言及することはなかった。むしろこんな一面もあるとホッとしていたことも否めない。

 やはり今時の若者。そういうことが返って嬉しく思ったりもしていた。


「向こうに戻る時には色は戻すつもりです。今はバケーションを楽しむことにしています」

 このように皆に宣言して有栖の金髪は周囲に受け入れられることになった。


 それからスマホで自身が日本に帰って来たことを魔法少女達に知らせると

「あら。反応がいつもより早いですね。鏡一郎君・・・温泉行こう・・そんなに行きたいのなら良い機会です。それからくまおばあさま・・・お疲れ。今夜おれのうちで飯でもどうだ・・・それもいいですね。最後に神谷さん・・・いろいろ報告がある。今夜みんなで会うことは可能か・・・皆さんそんなに集まりたいのかしら・・・もちろんわたくしも会いたいです」

 ここに瑠璃さんの言葉がないのが寂しく思ったが時差を考えると寝ている時間なのかもしれない。あとで見たらきっと何らかの返信があるかもしれない。

「仕方ありませんね。今夜の家族との夕食はキャンセルしませんと。魔法少女のリーダーとして当然、動くしかないでしょう・・・ね」


 有栖はその旨を春日に伝えた上で今日の18時『くま屋』に衆合することに決まった。

「くまおばあさま・・・やる気満々ですね。楽しみにしています」

 くまさんがいつものように料理を用意することで準備は進んでゆくことに決まった。

 できることなら日本食中心の献立を望む有栖だった。


「春日はいますか」

 すぐにノックがあって

「お呼びでしょうか。お嬢様」

「はい。もう分かっていますね。もう少ししたら準備を始めます。今から一時間だけ眠ります。時間になったら起こしてください」

 飛行機の中で十分眠ったはずなのに今頃になって時差ボケが襲ってきた。

 つい大きな欠伸をすると

「行儀が悪いですよ。それとも留学の成果とで思った方がいいのでしょうか?」

「そうですね。一人の時間をたくさん持つということは本人の素が強調されるってことなのかもしれません。お嬢様の有栖に戻るためにはこれから眠ってリセットします」

「かしこまりました。それでは一時間後に」


 春日が出て行ってしまうと有栖は久し振りに自分のベッドに入った。

 完璧にセッティングされているベッドには懐かしい匂いと太陽の匂いを感じる。

 身体というのは素直だ。

 染み込んだ長年の感覚があっと言う間に眠りの中に誘ってゆく。


・・・有栖


 夢の中だと分かっているし誰の声かも分かっている。

「グロー・・・どうしました?」


 有栖の視界は真っ黒。それは夢も見ることのない深い眠りみたいな黒だ。


・・・本当に始めるつもりですか?


「もちろんです。わたくしからみんなへのサプライズなんです。本当はもう少し後にしようと思っていたのですが今回がタイミングだった、ということでしょう」


・・・有栖の考えは分かります。それにしても大胆過ぎませんか?


「せっかく捕まえたんです。ミクラーシュ・・・カチカチに凍って今は眠っています。これはみんながどのくらい成長したのかを確かめる目的でもあるんです。じゃなかったらとっくにわたくしが倒しています」


・・・分かりました。なら派手にいきませんとね


「もちろんです。みんなのクリスマスプレゼントも兼ねています」


・・・最高のプレゼントになるか最悪のプレゼントになるか・・・面白くなってきました


「そろそろ時間です。またこちらから連絡します」


 有栖は時間通りに目覚める。春日の手を煩わせることははなから考えていない。


「お嬢様。お時間でございます」

「はい。起きています。今からシャワーを浴びて、それから準備を始めます」


 有栖はこれから始まることに少しだけワクワクしている。

 約束の時間に合わせるように部屋を後にした。


☆★☆☆☆★


 電車の中で僕達は無口になっていた。そうなることは仕方ないのかもしれない。

 なんとなくだが、目を合わせないように僕のことを観察しているような視線を感じる。

 だからといってこちらから話し掛けることもなんとなく躊躇してしまうのは再び有栖のことを聞かれるかもしれないという猜疑心から来ているのかもしれない。

 あまり意識しないように装っていると 


 ・・・あ・・・・・どっちだ?


 スマホが震えている。確かめると魔法少女用の方だった。

 多分、有栖だろうと思って見てみるとやはり思った通りだった。

 『くま屋に集合』

 どうやら決定したらしい。

 

 帰ってきたばかりで申し訳ないがバラバラになってからかなりの時間が経過していた。だから少しでもいい。直接顔を会わせて情報の交換と共有はしておいた方がいいという僕の思いは伝わったのだろう。

 

「主任のスマホってそんな色でしたっけ?機種変しました?」

 バッチリ見られている。

 正直おっさんが持つ色じゃないことは最初から重々承知しているがあらためて指摘されると返答に困ってしまう。

 しかし。何も言わないのも具合が悪い。

「ああ。これはさっきの・・・趣味の仲間用なんだ。色は勝手に決められてこうなった」

「なんですかそれ。もしかしてご家族にも言えないようなことしているんですか?」

 つい正直に答えてしまった。

 今の僕は嘘を言うことに抵抗がある。

 これまでずいぶん嘘を言ってきた、主に妻に対してが多かった、今はなるべく嘘は言わないように心掛けている。

 だからと言って真実ばかり話すわけにもいかないので遠回しに真実を言ってはぐらかすようにしている。

 

 だが


 こういった思考パターンはかえって感心を引いてしまうことだってある。まさに今がそれだ。どうやら立花さんは立ち入らないようにしていたのに僕の遠回しな言い方にかえって興味を持ってしまったようだ。

 それもそうだろう。

 普段は無難に過していて趣味なんて持っていなさそうな上司の思いもよらない人間関係と謎の趣味というものが露呈してしまったのだ。

 意識するな、という方が無理があるのかもしれない。


「このスマホは水無月家から支給されているんだ。さすが天下の水無月。料金の心配もないし、これ自体専用回線で繋がっているから外部から無許可でアクセスすることはできない仕様なんだ」

「いいんですか?私にそんなこと話して。秘密は第三者に喋った時点で秘密という機能をなさなくなるんですよ。こういうちょっとしたことから秘密というのは壊れていくんです」

 もっともな意見だ。

 けれどこれはあくまで一般論であって僕達みたいに秘密を共有している者同士なら問題はないと思う。

「それはそうかもしれない。立花さんは僕の秘密を守ると約束してくれた。もちろん僕だって秘密をバラすことなんて考えていない。要は信用している。だからこの程度の情報なら解禁してもなんら問題ない」

「信用ですか。そんなこと言われたら私だって主任のこと信用しています」

「だから立花さんから秘密が漏れる心配はない。それにこのスマホは僕以外は絶対に扱うことができない」

 僕は自信満々で言う。しかし

「あのですね。主任。この世界のテクノロジーに完璧なんて言葉は存在していません」

 反論満々の顔がある。それはとても楽しそうに

「所詮は人間の作った技術でありシステムです。介入の余地は絶対にあるんです。完璧と思っていたものほどちょっとした綻びで崩壊してゆく」

 確かにその通りだ。どんなに強力なセキュリティを組んだとしてもいつかは破られる。

 それはこれまでたくさんの人が頭を悩ませていた難解な数式が証明している。

 どんなに難解なものでも時間と根性で答えを導いてきた。古代の象形文字だって解読することが出来るんだ。エジプトのヒエログリフだって読めるんだ。人間の作ったものなら必ず答えは存在している。

 しかし

 僕が託されたステッキについては答えを出すことなんて誰にもできないだろう。

 好奇心につられて話したい衝動に駆られるが、これ以上ややこしくなるのは嫌なので心の中で収めることにした。


「さ、着いた。これまでの話はお互い秘密、ということで仕事に戻ろう」

「・・・分かりました。タイムリミットなので諦めます」

「そうしてもらえると助かる。僕もこれ以上は情報を出すつもりはないんだ」


 こうして僕達は仕事という日常の中に戻っていった。


☆☆☆☆☆☆


「それではお嬢様・・・いえグロー様。お気をつけてください。旦那様と奥様には級友と会うと伝えてあります。もちろんワタシが一緒という条件付きですが」

「ありがとう。春日がいなければこんなに自由に活動できなかったでしょう。それでは後のことよろしくお願いします。二時間。それまでには帰ってきます」

「はい。一応連絡の方お願いします」

「分かってます。合流場所はその時に決めましょう」

 グローはベランダに立つ。

 今の季節は陽が落ちるのが早い。誰もグローの姿に気付く者はいない。

「いってきます」

 グローもジーアから聞いて『姿を隠す魔法』を習得していた。

 春日の目の前から消えてしまうとそのまま『くま屋』に向かって飛んでゆく。

「いってらっしゃいませ」

 春日の声は届いていたのかは分からなかった。


 グローは奥多摩に向かって飛んでゆく。

「この魔法は便利ですね。確かに魔法力は使いますが」

 立川を過ぎた頃には北風が強くなってくる。山から吹き下ろす向かい風が容赦なく吹き付ける。

 夏の暑さには困った衣裳だったが

「それにしても寒いですね・・・冬用の衣裳はないのでしょうか」

 真冬の対しても文句を言いたくなる仕様だった。


 くま屋に着いた時は景色は真っ暗になっていた。

 見上げると相変わらずキレイな星が瞬いている。澄んだ乾いた空気のおかげか、とても小さな光も見える。

 真っ白な吐息が寒さを強調しているみたいだ。

「寒いですが気持ちいいですね」

 つい言葉になって出てくる。

 ゆっくり地上に降り立って魔法を解いて姿を露にしてからスマホを取り出して電話を掛けるとすぐにシャッターが動いて


「久し振りグロー、っていうか有栖ネエ、おかえり」

 顔を出したミアン。

「そっちこそお久しぶりです。ミアン・・・鏡一郎君。寒いでしょう。顔が赤いですよ」

「それを言ったらグローだって人のこと言えないって。早く入りなよ。ジーアもいるよ」

「そうですか。ではティーナは以外は揃っていますね。全員ではないのが残念ですが仕事なら仕方ありませんね」

「そういう話は中でしようよ。寒いんだから早く早く」


 シャッターを潜って中に入ると

「あ・・・暖かい」

「今夜は鍋だよ。もうすぐ出来るって」

「いいですね。鍋料理、今の季節には最高ですね」

「みんなグローが来たよ」

 部屋に入ると

「おお。久し振りだな。元気そうだ」

「ブーア。いえ、くまおばあさまもお変わりなく元気そうで安心しました」

「グロー、なに飲む?ほっぺた真っ赤なんだけど。寒かったでしょ」

「ホントに。今度コートでも支給してもらえないか聞いてみましょう」

「うん。そうだね。それより・・・コーヒーでしょ、紅茶でしょ、あとココアもあるよ」

「そうですね・・・では紅茶で」

「分かった。用意するから座って温まってなよ」

 ジーアはコタツにグローを座らせると紅茶の準備を始める。

「これがコタツですか。初めて入りました。温かくてとても落ち着きます」

 そのことを聞いたミアンがココアを片手に話し掛けてきた。

「え〜入ったことないの?お嬢様ってなんでも持っていると思ってた」

「もちろんいろいろ持っていると思います。けれど家はセントラルヒーティングなので」

「なんなの?そのセントラル・・・って」

「一つの部屋ごとで暖房を使うのではなく家全体を温める暖房方法のことです」

「へぇ〜・・・なんかすごい。家全体って」

「それがわたくしにとっては普通でしたが、やはり日本人ですね。遺伝子の中ではきっとコタツについての記憶があるのでしょう。だから懐かしささえ感じます」

 ミアンはココアを一口飲んで

「あ〜甘くて美味しいし温まる」

「良い匂いですね」

「やっぱ冬といったらココアでしょ」

「お待たせ。私が淹れたから気に入ってもらえるか分からないけど」

「ありがとうジーア。いただきます」

 その様子をじっと見つめているジーア

「どう?」

「・・・温かくて美味しいです。味は・・・まあまあですね」

「ははは・・・まあまあか、紅茶って難しいね」

「ごめんなさい。つい素直な感想を言ってしまいましたね」

「いいって。その方が気が楽っていうか、無理させてないって分かったから」

 

 のんびりとした時間が流れている。

 これまでバラバラだったことを微塵も感じさせないくらい魔法少女達の周りには穏やかな時間が流れていた。

「お。そろそろこっちも仕上がるぞ」

 ずっと鍋のことを面倒みていたブーアがカタカタと音を立てている蓋を開けるとイッキに真っ白な湯気が魔法少女達の顔を通り過ぎてゆく。

「うわ〜いい匂い。美味しそう」

「だろジーア。自家製の味噌仕立てだ。味には正直自信がある」

「早く食べたい、お腹がさっきからうるさくて」

「もう少し待つんだミアン。最後の仕上げが残っている」

 ブーアは柚子を出してから皮をおろし金でおろして鍋の上に乗せた。

「これは・・・味に上品さが加わった、そんな香りですね」

「さすがグローは言うことが違うな。結構いい隠し味になるんだ」

 もう一度蓋をして少しだけ蒸らしてすぐに外して

「さ。これで正真正銘の完成だ。みんな好きに取って食べよう」

 

 一斉に『いただきます』をして


「うわ。見た目通りに美味しい。この鶏の団子が味が沁みてて・・何個でも食べれそう」

「スープがとても上品で最後の柚子が利いていますね」

「白菜もトロトロでアツアツでおいしい」

「気に入ってもらえて良かった。じゃああたいも食べようか、とその前に」

 ブーアの手には熱燗がある。いつの間に用意していたのだろうとジーアは思っていた。

「私がお酌するよ」

「いいのかい?お酒ダメなのに」

「別に飲むわけじゃないから。それに感謝も込めて。さ、どうぞ」

「悪いな。ティーナがいれば気を使わせることもなかったな」

 グイッとおちょこを仰ぐブーア

「う〜・・・沁みる。寒い夜はこれが一番」

「相変わらずいい飲みっぷりだね。ささ、もう一杯」

「やっぱジーアは社会人だな。慣れている」

「また。今は魔法少女なの、わたし」

「分かってるって悪かった」

 笑いが起こる。この感じを誰もが懐かしく思っていた。

 やっぱりみんなで過した方が楽しいし心強く感じる。

 しかし

 これは冬休みがもたらす一時のこと。

 また私達はそれぞれの場所に戻ってゆく。

 そして

 もう一度結集する時。その時こそ本当の意味で最後の集まりになる。

 世界を守る最終決戦になっているだろう。


「さて、みなさんのお腹も良い頃合いでしょう。そろそろ近況報告に入りましょう」

 後片付けも終わって四人はコタツで暖を取っていた。


 いよいよ

 グローが中心となって魔法少女近況会議の幕が上がってゆく。

 

 みんな近況はグループチャットで大体のことは把握しているだろう。

 

 ここからは実際の生の声。

 どんなドリーチェと遭遇してどんな戦い方をしたか気になるところである。

 

 しかし

 有栖だけじゃない。みんなそれぞれ時間が限られているため制限がある。


「そういうことなら」

 ミアンが魔法を使って時間を止めた。

「いいの?こんなこと魔法を使って」

 ジーアは聞いてみる。これって私的利用になるのでは?

「だってこれってドリーチェ対策だよね。そういうことなら問題ない。前も同じようなことあってミアンに確認してるから大丈夫」

「そうですか。なら魔法が解けるまでお互いの情報を共有しましょう」

「ならお茶を淹れ直すか。みんな何がいい?」

「私はコーヒー。っていうか手伝うよ」

『悪いなジーア。他は?』

「あたしはココア」

 それを聞いたグローも手を半分上げて

「わたくしもココアを・・・」

「はいよ。じゃジーア手伝ってくれるか」


 時間の止まった世界で魔法が解けるまでの時間が出来た。


 時間が止まっているのに時間があるなんて不思議を通り越して不可解な現象だと誰もが口にしないが思っていた。

都内はここ何日かのゲリラ豪雨に加えて真夜中の地震と立て続けに落ち着かない日々が続いています。

読んでいただきありがとうございます。

雰囲気が最初の頃に戻ったみたいな感覚で書いています。

私は今下田にいます。そうです。やっと短い夏休みです。

はあ〜仕事し過ぎだろって思ってます。

リフレッシュして物語を進めていきます。

浮かれていますが次回も読んでもらえたら嬉しいです。

次のアップで8月も終わりか・・・よろしくお願いします。

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