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僕は魔法少女に変身する  作者: マナマナ


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65/74

winter vacation 1

 水無月有栖が目を覚ました時には飛行機は日本の領海内に入っていた。

 静かな音楽が目醒めの合図のように流れている。

 四ヶ月振りの日本。

 二週間程ある冬休みを利用しての帰国だった。


『当機はあと一時間程で羽田国際空港に着陸します』


 アナウンスが流れる頃にはすっかり身支度を終えていて窓から見える日本の姿を眺めていた。


「水無月様。おはようございます。コーヒーはいかがですか?」

 キャビンアテンダントが長旅を感じさせない爽やかな笑顔で聞いてきた。

「お願いします。できればコーヒーよりアールグレイの方がいいのですが」

「かしこまりました。ご用意致します」


 しばらくするとテーブルのセッティングが始まって簡単な朝食が用意される。

 そこにはリクエストしたアールグレイがポットごと置かれた。


「着陸態勢に入るまでお寛ぎください。失礼します」


 会釈で返してからカップにアールグレイを注ぐ。

「・・・美味しい。神谷さん驚くかしら。それにみんなの元気な顔を見るのも楽しみです」


 久し振りに見る富士山。本当に帰って来た、という気持ちが実感として感じられる。

 やっぱり日本人なのですね。

「雪がすごい。真っ白。きれい」


 一週間もすればクリスマスがやって来る。

 本来ならクリスマスも新年もアメリカで過すつもりでいた。

 世界は冬休みや年末年始の休暇で賑わい始めている。

 そんな中

 バラバラになった魔法少女達が帰国することをチャットで知ったからには有栖だって帰らないワケにはいかない。

 帰国は急遽決めたことだった。


「わたくしが最後。日本を出た時は最初だったのに」

 久し振りにみんなと会えることにワクワクが止まらない。

 それにどれくらい成長したのかをお互いが知る良い機会になりそう。


 着陸を示唆するアナウンスが流れる。

 有栖は姿勢を正してその瞬間を静かに待った。


 静かに目を閉じると新境地での体験したことを思い出していた。何も問題のない学校生活。友達だってたくさんできた。中でも一番の仲良しはクラスが一緒で寮の部屋も隣りの『藤本麻衣』だった。彼女も日本から交換留学で来ていた一人で同じ日本人ということですぐに打ち解けることができた。

 彼女も休暇を利用して有栖より先に日本に帰っていた。その時はこっちに残るつもりでいたから自分が帰ってきたことは伝えていない。

 有栖は彼女の住所を教えてもらっていた。突然、新年の挨拶に行く。そういったサプライズは面白いだろうな、そんなことを考えていた頃には飛行機は既に着陸を終えていた。


 着陸したことを待っていたかのようにスマホが震える。慌てることなく対応する有栖。それは相手が見ずとも分かっていたからだ。


「春日。ご苦労様」

「お嬢様。お久しゅうございます」

「そうですね。春日もお元気そうで安心しました」

「はい。お心遣いありがとうございます。それでは迎えに参ります」

「お願いします」


 到着ロビーで春日と有栖は合流した。たった四ヶ月。されど四ヶ月。

「お嬢様・・・」

 有栖の姿を見た春日は一瞬大きく目を丸くしてすぐにいつもの笑みに戻った。

「驚いていますね」

「はい。とても」

「ぜひ感想を聞かせていただきたいです」

 春日は軽く咳払いをして

「実に良く似合っています」

「ありがとう。わたしくも意外でした」

「旦那様と奥様が同じことを言うとは限りません」

「一応報告はしました。けれど反応がありません。わたしくの性格からして予想外だった、ということでしょう」

「神谷様達も驚かれるでしょう」

「わたしくも同じことを思っています。だから会うのが楽しみです」

「これから如何なされますか?」

「わたしくが戻ることは知らせては・・・」

「はい。言いつけ通りまだ誰にも。これからすぐにでも連絡しますか?」

「いえ。連絡はわたしくがします。サプライズです。でも。その前に屋敷に帰ります」

「お嬢様ならそう言うと思っていました。荷物の方はもう運んであります」

「では参りましょう」


 車に乗り込むと春日はすぐに発進させた。

 通り過ぎる車窓の景色を有栖は見て

「ずいぶんお店とか変わりましたね。少し離れていただけなのにわたくしの知らない街になっているような気がします」

「時代の流れがますます早くなっている証拠です」

「そんなに急いでどこに行こうとしているのでしょう」

「ワタシの個人的意見ですけどよろしいですか」

「面白そうです。聞かせてください」

「今の時代。文化のサイクルはどんどん加速しています。それが良いことなのかそうでないのか。誰が決めているのか、と考える前に気がついたらそうなっていた。というのが正直なところです。長く一つのものに興味を持つのではなく、興味はただ目の前を通過するだけの存在。だから次から次へと変わっていかないと自分を見失ってしまう。そんな人達が多いように思います」

「生き急いでいるみたいに聞こえます」

「ワタシのような年寄りから見たらの意見です。お嬢様にはきっと違う景色が見えているのでしょう。だからといってどっちが間違っていてどっちが正しいかを決めるのはその時代を生きた人の主観でしかないのでしょう」

「確かにわたくしと春日は生きた時間の違いが大きいと思います。必要なのは世代は関係なくお互い歩み寄る姿勢を失ってしまったからかもしれません」

「お嬢様はいろいろ分かっておられる。ワタシも若者に対し自分勝手に線引きをしていることに否定はしません。しかしこっちが歩み寄っても若い人はそうじゃない。むしろ遠ざかってゆく」

「それは個人の問題も大きいと思います。年上との接し方が分からないのです。身近に歳の差のある人がいないせいもあるのでしょう。人同士のコミュニティはこれからますます狭くなってゆくかもしれませんね」


 いつしか車は渋滞にハマっていた。二人のたわいもない会話も終わって今は静かな時間が流れている。


「そう言えば九様は帰って来れなくなったと連絡がありました」

「え?そうなんですか」

 有栖はグループチャットをあらためて見直す。

「これが送られた時はまだ飛行機の中・・・気が付きませんでした」

「なんでも仕事が抜けられないとのことです」

「そうでしょうね。これからやってくるクリスマスにニューイヤー。搔き入れ時ですから」

「はい。しかし権田原様と四月一日様はもう戻っています」

「知ってます。向こうにいる時に鏡一郎君から連絡があって日本に帰るから温泉紹介して欲しいって」

「それはどちらかというとミアン様でしょうね」

「そうですね。相変わらずなところは変わっていませんね」

 二人は静かに笑った。

「それにしてもなかなか動かないですね。なにか音楽でも掛けましょうか」

 春日の提案に有栖は思い立ったように

「ねえ。わたしく、久し振りに街を歩いてみたいです。どこか適当なところで下ろしてもらってもいいですか」

「え?危ないですよ。もしお嬢様になにかあったら旦那様になんて言ったらいいか・・・」

「大丈夫です。危ないことは何もありません。その気になったら変身してやり過ごせばいいのですから」

「そうでしょうけど・・・」

「もう決めました。お父様にはわたしくからちゃんと説明します。夕食までには戻ると伝えて下さい」

「分かりました。一度言い出したらテコでも動きませんから。旦那様には適当に誤魔化しておきます。決して危ないことはなさらないでください。危なくなったら変身してすぐに逃げてください」

「ありがとう。やはり春日はわたくしにはなくてならない存在です」 


 ハザードランプが点灯した大きくて真っ黒なリムジンが路肩に停車すると潜水艦が浮上したみたいな威圧感が周りを圧倒している。

 春日は品よく後部座席の扉を開けると中から出てきた有栖は眩いばかりの金色の髪靡かせてる。

 外は冷たい。吐く息がとても白い。

「寒くありませんか?」

「これくらい平気です。もっというなら向こうの方が寒いです」

「そうでしたか。確かニューヨークには寒波がやって来たとニュースで見ました」

「春日も気をつけてください」

「はい。お嬢様も」


 そのまま歩道を歩く有栖の姿に誰もが振り向いていたことは言うまでもなかった。

 やがて人混みの紛れて有栖の姿は消えていってしまう。

 春日は一人車に盛り込むと再び渋滞の海の中に戻っていった。


☆☆☆


 今日が土曜日ということもあって渋谷の街はたくさんの人でごった返していた。

 有栖は今まで一人で来たことなんてなかった。というかそもそも渋谷という街自体初めてと言ってもいいくらいだ。普段の買い物は銀座ですることが多い。

 だからといって怖いことなんて思っていない。むしろ興味津々でついいろいろ見てしまっていた。


 有栖が髪の色を変えたのは向こうで知り合った同級生達の影響もあった。


 別にこれといった偏見は持っていなかったが初めて親元を離れての一人暮らしは彼女の価値観を大きく変えた。週末には大体どこかでパーティーが催されていて社会勉強と称していくつか参加したことがきっかけとなった。

 とあるパーティーでお菓子の中にウイスキーボンボンがあった。

 有栖はただのチョコレートとして食べてうっかり飲み込んでしまったのが彼女の人生を変えた。

 ウイスキーボンボンはその名の通り中に少量のお酒が入っている。だからといって子供が食べることは禁止されていない。


 だが。少量のアルコールは有栖の性格を一遍させた。


 自分でも驚くほど気が大きくなってしまい何がどうなってこういう結果になったかあまり覚えていないがとにかくなにかゲームをして負けた方が髪の色を変えるというものだった。

 有栖はゲームには勝った。負けたのは『藤本麻衣』だった。

 彼女がどうしても罰ゲームは嫌だとゴネた結果。気が大きくなった有栖が代わって髪を染めたのだった。


 朝、軽い頭痛と共にやって来たのは頭の中が真っ白になるくらいに驚愕だった。

 しかし

 冷静になって見ていたら

「これはこれでありかも」

 そうして今日に至る。

 今では結構気に入っていてサロンであらためてキレイに染め直したくらいだった。

 

 センター街を一人で歩くのは初めてだった。人の密度に面食らっていた。

 けれど、どこもかしこもクリスマス色で染まっていることが面白くも感じていた。

 そのまま通りを気ままに歩いてスペイン坂に入ってゆく。ここがそういう名前だなんて知らないけれどこにもたくさんの人の往来で歩き難かった。


「あのお店で休憩しましょうか」

 スペイン坂の真ん中辺りにあるカフェに目が止まる。紅茶ポットの形をした看板が掛かっているからにはきっと紅茶がウリなのだろうと思ってのことだった。

 見ると中は満席で待っている人もいたが人数からしてすぐに案内されるだろうと予測して列に並んだ。

 もちろんお店で並ぶことだって初めての体験だった。

 そうこうしている間に自分が日本の空気に馴染んできていることを肌で感じていた。


 十五分してカウンター席に案内された。

 ダージリンを注文して周りを見てみる。


 ここにいる客層は自分と同じかちょっと上の人がほとんどだった。そんな中目に留まった人物がいた。

「あれは神谷さん?」

 若者の中にいる中年男性。目立つというよりは影みたいに身を潜めているように見えた。

 若い人に囲まれているせいか居心地の悪さが背中から伝わってくる。

 誰かと話をしているみたいだ。

 ここからだと人がいて全体を見ることができない。ただ表情からして楽しんでいるように見える。

 一緒にいるのは家族なのか、友人なのか、それとも会社の同僚ということも考えられる。他の魔法少女のプライベートな姿を見たのは初めてだったし、むしろ見ていいのだろうかとも考えていた。


「お待たせしました」

 ダージリンが到着。

「ありがとうございます」

 有栖の声に反応したのか周りを見回している。

「まさか聞こえたのかしら?でもきっとわたくしのことなんて分からないでしょうね」

 つい言葉になってクスクス笑ってしまう。

「そうだ」

 スマホを出して神谷宛に

『本日帰国しました。九さんは残念でしたけど久し振りに皆さんに会えることを楽しみにしています』

「さて」

 どうやら届いたらしい。視線の先でスマホを確認している。

「あら」

『有栖。おかえり。僕からもいろいろ報告がある。今夜辺り『くまや』でどうだろう?』

 クスクスと笑いが止まらない。見るとスマホを置いて会話の中に戻ってゆく。


「これならどうでしょうか」


『実は今近くにいます。もし迷惑でなければ挨拶をしたいのですが可能ですか?』

 確認すると今度は本格的に店の中を見ている。けれど有栖はカウンター席。正面を向いてしまえば後ろ姿になる。こうなったら見つけることはできないはず。


『どこにいる?良かったら手を振ってくれないか?』

「やっぱり分かりませんね」

『神谷さんの視界にいますよ』

 今度は慎重に観察すると立ち上がってウロウロ。

「種明かししましょう」

 十分楽しんだ有栖は振り返って手を振る。

「あら?気が付かないのかしら」

 神谷の視線の中に入っていたはずなのにスルーされる。

「仕方ありませんね」

 有栖は立ち上がって

「こっちです」

 声を掛けるとやっと目を合わせることができた。神谷は一瞬止まって眼鏡を外して掛け直す。

 その顔はどう見ても驚いているが近づいて来る。

 本当に有栖なのか、ということを確認したいのだろう。


「有栖?どうしたその頭」

「久し振りなのにずいぶんなご挨拶ですね」

 お互い歩いてさらに近づくとあらためて言葉を失っているように見える。


「これが今のわたくしです。別に反抗期とかじゃありません。なりゆきです」

「そ、そうか・・・髪の色が変わっただけでずいぶん印象が変わるんだな。今時の若者って感じがするよ」

「今時は置いといて若者なのは事実です」

「そうだな。もしかして一人なのか?」

 さらに周りを見る。誰を探しているのかは聞くまでもない。

「はい。ちょっと日本に気持ちと身体を馴染ませたかったので途中で車を降りました」

「春日さんがよく許したな」

「春日だからです。それよりプライベートなのに急に話し掛けてすみません」

「今日は仕事で渋谷に来ているんだ」

「そうなんですか?今日は土曜日です。休日出勤ということでしょうか」

「ああ。その通り。年末が近いから忙しいんだ」

「それはご苦労様です。ではもっとすみません。お仕事中に話し掛けてしまって」

「いや。用件は終わって今は休憩しているから問題ない」

「そうですか。なら良かったです。お連れの方もいらっしゃるみたいですし・・・」

 有栖が最後まで言う前に

「神谷さんの知り合いですか?」

 そう言って近づいて来たのは

「ああ。偶然会ったんだよ。こっちは同じ部署の『立花』さん」

「初めまして。というかあなたは高校生?」

「いえ。中学生です。水無月有栖と言います」

「・・・水無月・・・ってもしかして」

「はい。多分想像していることは正解かと思います」

「そうなんだ。神谷さんとはどういう関係です?仕事繋がり、じゃないですよね」

 確かに親子ほども歳の差があるのに知り合いとはなかなか不思議なことなのだろう。


 二人は顔を見合わせてどんな説明するか考えていた。


「そうですね・・・知り合いであり一つのことに向かっている仲間、といった方が分かりやすいでしょうか」

 有栖は答える。けれど間違ってはいないが正しく伝わっているとも思えない神谷だった。

「捕捉しておくと共通の目標があって僕達はチームを作っているんだ。年齢だっていろいろ。僕よりも高齢の方もいるし、小学生だっている。立花さんと同じくらいの女性だっている」

「ますます謎ですね。共通の趣味とかですか?神谷さんの意外な一面を見た気がします」

「まあ、そうだろうね。でも。プライベートなことだからこれくらいで勘弁してもらいたいけど」

「そうですね。これ以上は止めておきましょう。私だってプライベートはあまり会社の人には知られたくありません。でも神谷さんは少しだけ知ってますよね。だからおあいこってことで」

「ああ。立花さんと同じようにこのことはここで収めて欲しい」

 スマホを見る立花さん

「そろそろ会社に戻りましょう」

「もう時間か。悪い有栖。また連絡する」

「はい。こちらからも今後のことについて連絡を差し上げます」

 二人はコートを片手に店を後にしてゆく。

 その後ろ姿を見送って有栖は冷めてしまったダージリンを一口だけ飲んで自身もコートを羽織ると店を後にした。

 

 再び通りを抜けて坂道を歩いて行くと代々木公園に出た。

 ここも土曜日ということで賑わっていた。どうやら何かイベントをしているみたいだった。


『真冬の激辛達の集い』


 横断幕にはそんな文句が書かれている。

 たくさん出店していてそのどれもが求める人で賑わっていた。


「美味しそうですね。みんなこうやって休日を楽しんでいるのですね」

 こういった所に来るのも初めてのことだった。日本で一人で行動することなんてほとんどなかったから目に映るもの全てが新鮮に見えている。

 ただ歩いているだけなのに楽しい。


 また・・・あの時、海の時みたいにみんなで来ることができたらいいのに。


 そんなことを思って歩いていると

「お嬢様。そろそろご満足いただけましたか?」

「春日。やはり待っていましたか」

「はい。それがワタシの仕事です」

「相変わらず過保護ですね」

 有栖は再び車に乗り込んで家族の待つ屋敷に向かった。

 もう渋滞はなくなって車はナニモノにも縛られないクジラのように真冬の道を軽快に進んでいった。

お盆も終わって日常が戻ってきました。

読んでいただきありがとうございます。

今回はグローに焦点を当ててみることにしました。

しかし

季節が飛び過ぎている。ここは悩みました。

ハロウィンにした方がいいのかな、とか。

でもまあ、これで進めようと決めて書いていきます。

どんな話に広がって行くは相変わらず書いてみないと分かりません。

こんな作り方。いずれ破綻しそう。でもそんなことないように最後まで。

また次回も覗きに来てもらえると嬉しいです。

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