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僕は魔法少女に変身する  作者: マナマナ


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ポーラスター

 窓から見える月が冴えている。白くて冷たい光がミアンの瞳の中に映っていた。


「明日。最後になる・・・よね。正直あたしももう限界近い。これ以上魔法を維持することは無理だと思う」


 ガラスに映る顔を見ている・・・

 ・・・・・・もの凄く食べていたのにはっきりと痩せている・・・


 ミアンの顔はもっとぷっくりとして肌だってツヤツヤして髪だって光っていないと・・・

 今はみんな影に潜むみたいにどこかに隠れてしまっている。


 やはり魔法をずっと持続させることなんて無謀なことしているのだろうか?

 おかげで礼苑と直接接触できたことは自分のことを褒めてもいいんじゃないかな。

「あと一日。頑張れ、あたし。ミアンもう少し、もうちょっとでいい。あたしに力を貸して。ちゃんと終わらせることができたら温泉行こうね。やっぱり温泉は冬が一番だと思うんだ。楽しみにしていて。有栖ネエに頼んだら凄いところ連れてってもらえるよ、きっと」

 

 今ここに映っている顔はあたし自身。アルガトネオルのミアンじゃない。

 こんな素敵な提案をしているのに返答してこないってことはミアンもあたしの計画に本気で付き合ってくれているってこと。ちゃんと見ていてくれる。

 だから

 もう少し頑張らないと・・・・・・全部自分で決めたことなんだ。


 失敗なんてしたら・・・・・・ミアンに顔を会わせることなんてできないよね。


 そんな結果なんて・・・・・・魔法少女を続ける自信さえ失くしてしまいそう。


「絶対に成功。そして温泉。あたしはずっとこうじゃなきゃ、前だけ見てなきゃ」


 明日・・・全てを終わらせる。礼苑のこと・・・そして紫苑のこと。

「ずっと友達でいられたらよかったのに・・・」

 笑顔なのに・・・なんで・・勝手に・・・


 ミアンは頬を拭ってゲームの特訓に戻っていった。


☆☆☆☆☆☆


 気が付くまでもなく夜が明けてゆく。

 昇ってくる太陽・・・少しずつ眩しくなってゆく朝日はこれから終わらせることの勝利の光なのか、それとも魔法少女として見る最後の光になるのか・・・・・・

 結果は終わってみないと分からない。だから今は前だけを見て、そして進むだけ。

「時間だね。行かなきゃ・・・っと、その前に腹ごしらえだね」

 決意は言葉となっていた。

 リュックにアケコンを入れて背負うと気合いが入るのを感じる。

 外に出て見上げる空は時が止まっているみたいに青色が固定されて映っていた。


「いらっしゃいませ」


 今朝はこの店でモーニングを食べることを前もって決めていた。

 お店の特長としてコーヒー一杯頼むとトーストが付いてくる。茹タマゴだってある。

 だが今のミアンの空腹を埋めるには頼りない。よって追加でカツサンドを注文。

 もう一つの特長としてメニュー表の写真はあまり参考にしてはいけない。

 出てくる品のほとんどがその上をいっているから普段なら食べきることは出来ない。

 でも今なら楽勝。これでも足りるかどうか不安が残るくらいなんだ。

「ご注文の品は以上になりますか?」

 料理をイッキに持ってきた店員さんに

「はい。もしかしたら追加で頼むかも」

 ミアンは笑顔で答える。ちょっとびっくりした顔で店員は戻っていった。


「やはり想像以上。今のあたしなら余裕だけどね」


 ミアンの食欲は日に日に増していた。テーブルの上は風が通り過ぎるようになくなってゆく。

 こんなに食べてもまだまだお腹には余裕があると感じるが今はここまで。

「すぐに減るんだろうけど。美味しかった。ごちそうさまでした」

 食後のコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れてから

 昨夜、紫苑と食べたお好み焼きのことを思い出していた。

 

 美味しかったな・・・

 あんなに大きかったのに二人共ペロッと食べたよね。

 紫苑のお婆ちゃんの驚いた顔が面白かった。

 あの笑顔は本物の笑顔だったね。

 いつだってあんな風に笑っていられる。そんな毎日であって欲しい。

 ミアンは心の底から思い描く世界が来ることを祈っていた。


「さ。食べたことだし。いろいろ終わらせるために行かなきゃ、ね」

 席を立って店を出る。相変わらず良い天気だ。

 でもミアンの心は今の空のように晴れ渡ってはいない。

 まだ

 あたしは靄の中にいる。それは紫苑も一緒。

 お互いこの空のように心を澄み渡らせないとならないよね。

 

 ミアンの歩幅はいつもより大きく力強くなっていた。


☆☆☆☆☆☆


 電車を乗り継いで会場に到着するとすでに見渡す限り人で埋め尽くされていた。

 みんな自分に気合いを入れているのが熱気として伝わってくる。

 精神統一をする者、持ち込んだパソコンで特訓している者、仲間で情報を共有している者。

 様々にこれから始まる闘いの舞台が開かれるのを心を躍らせながら待っていた。


 ミアンは周りを見渡してみたがさすがに紫苑の・・・いや礼苑の姿を見つけることはできなかった。

 今は夜ではない。

 ドリーチェが昼に出たことなんてこれまでただの一度だってなかったし、元々夜にしか出現することはないとも聞いていた。

 だからもし見つけたとしてもそれは紫苑であって礼苑ではない。

 どれくらい日が傾いたら出てくるのだろう?

 出てきたら時間を止めてなんとか紫苑の身体から引き剥がす。それが先決だと考えていたがその方法までは思い付いていない。

 それまでは予定通り予選大会を楽しむことにする。


 元々ミアンは格ゲーが好きだ。それは鏡一郎の影響もある。これまでも一人の時は部屋で変身して楽しんでいた。だがあくまでも追体験でしかない。

 アルガトネオルにハードを送ることが出来たらどんなに楽しいか何度考えたことだろう。

 

「よっし。ミアン。あたしの身体を通して感じてね。う〜・・・なんか緊張してきた」


 あたしはミアンそのもの。今は身も心もシンクロしていると思っている。

 だからこれは鏡一郎じゃなくミアンとして闘う。望んでいた大会に参加できるんだ。


「ふぅ・・・気合い入れて頑張ろう。え〜と、あたしのプールはどこかな」


 手元にある地図と会場案内図を見て目指すべきプールを探す。

 すでにどこも熱い闘いが繰り広げられ始めていて歓声と音が大きく響いている。

 声援だっていろいろある。

 そんな景色の中に自分自身を溶け込ませていることに気持ちが自然と昂揚してくる。

 テンションが上がってきた。音の振動が直接お腹に響いてくる。


「あんなに食べたのに・・・仕方ない」

 リュックから買っておいたおにぎりを出して頬張った。

「ついでにメロンパンも食べちゃお。頭に糖分補給は必須だもんね」

 これは言い訳ではない。

 空腹を押さえないと魔法が解けてしまう。そんな事態は絶対に避けなければならない。


 食べ終わる頃には目的のプールの近くまで来ていた。

「あ、ミアン」

 観客席から聞こえる声の方を見ると

「紫苑」

 手を振っているのが見えたのでそっちまで歩いてゆく。

「よかった。全然姿が見えなかったから来てないのかと思っちゃった」

「そんなことないよ。ずいぶん早くから来てたの?もしかして」

「ううん。今さっき。それでね。はいこれ」

 ミアンにトートバッグを渡す。

「これは?」

「差し入れ」

「ホント?嬉しい。今さメロンパンとおにぎり食べちゃって残り少なくて心細かったんだ」

 満面の笑みで受け取ると紫苑は手を伸ばして口元に触れて

「ここ。付いてるから・・・取れたよ。ミアンって燃費悪そうだもんね。昨夜同じソース味になっちゃうけどお婆ちゃんがね、焼きそば作ってくれたんだ」

 ミアンはバッグの中に顔を突っ込んで

「いい匂い。ソースの匂いって最高だよね。ありがとう紫苑、お婆ちゃんもありがとう。昨夜もごちそうになっちゃった。頑張らないとね」

「それ食べて頑張って」

「うん。なんかますます気合い入ってきた」

 対戦ボードを見るとそろそろ対戦時間が迫っていた。

「そろそろみたい。行ってくるね」

「いってらっしゃい。終わったら一緒にご飯食べよう。待ってるから」


 二人は手を振って分かれた。

 どうやらまだ礼苑は眠っているのか、それとも窺っているのか。

 とにかくまだ姿を現してはいなかった。


 プールに到着して点呼が始まるのを待っている。ここにいる誰かが最初に対戦相手。ざっと顔を見渡して思ったこと。それは自分が一番年下なのでは?周りは男ばかりで女の子は他にいない。

 だからか、いやに視線を感じるのも仕方のないこと。だって、可愛い娘には誰もが視線を奪われるものだから。

 しばらくして点呼が始まってミアンも呼ばれてから大きな声で答える。

 それは礼苑に聞かせるように意識しての大きな声だった。


 ミアン 一戦目


 相手はどう見てもサラリーマン風の中年男性。こんな時でもスーツを着ているのが妙に目立つがそれがスタイルなのかもしれない。眼鏡の奥から見える鋭い目。

 ミアンのことを見て勝利を確信しているみたい。明らかに格下の女の子。

 ボコボコにして現実の厳しさを教えてやる的な哀れみの視線があった。

 

「俺は『中間管理職』お手柔らかに」

「あたしはミアン」

 簡単に自己紹介。それからお互い自分のアケコンを接続。諸々セッティングと確認。問題なく闘いに向けての準備は整ってゆく。


 対戦が始まる。

 ギャラリーの声の中には紫苑の声もちゃんとあった。

 ミアンは深呼吸して今まで自分が育ててきたキャラに魂を込めるべく気合いの入ったスタート切った。

 

 今までの特訓が功を奏する。相手のランクは自分と同等だったにも関わらず一度も負けることなくストレートで勝利した。正直かなり余裕だった。


「よし」

 まだ一勝。それでも嬉しい。思わずガッツポーズ。それと賞賛する歓声。

 ミアンの耳にはちゃんと紫苑の声も届いていたから視線を送ると手を振って返してくれた。

 そして

 結果を申請するために対戦相手のことを見ると負けたことが相当ショックだったのか、上を向いたままボーッといていた。

「あの、あたしが結果申請してくるね」

 しかし返事はなかったので一人で行くことになった。

 他もこのくらいのレベルなら良いところまで行けるのでは?

 そんな余裕な気持ちが心に生まれていた。


 次の試合までの合間で差し入れの焼きそばを食べる。空腹の間隔がますます短くなってゆく。


 蓋を開けた瞬間。ソースの匂いに人の視線を感じる。

 けれどそんなこと気にしている場合じゃない。

 一刻も早く食べないと魔法が切れてしまいそうだった。大きく一口。

「まだほんのり温かいのが嬉しい。美味しい。どんどん食べれちゃう」

 たっぷり二人前はある焼きそばを瞬く間に平らげてゆく。最後に添えられていた紅生姜で口の中をさっぱりさせて

「・・・ふぅ。お腹いっぱい。これで頑張れるよ。ホントありがとう」


 トーナメントは進んでゆく。待っている間、他のプレーヤーの試合を見ていた。

「みんな上手いな・・・勝てるかな」

 

 そして呼ばれる。ミアン二回戦目


「焼きそばお嬢さん、よろしく」

「焼きそば・・・あたしはミアンだよ。変な名前で呼ばないで」

 アケコンをセット。接続してからのセッティング。順番は変わらない。


 結果は一敗したもののミアンの勝利。

 これだけ集中するとお腹も空くが頭も疲れてくる。

 次の試合まで甘いドリンクを飲んで待っていると紫苑が話しかけてきた。

「ミアン凄いね。見ているだけでも強いのが分かる」

「えへへ。そうでも・・・あるかな。ずっと特訓してたから」

「なんかね。ミアンのこと見てるとね・・・」

 なんだろう・・・紫苑の様子が・・・・・・

「胸の辺りが熱くて・・・・・・苦しいの・・・」

 ミアンは肌で感じる・・・この感じ・・・礼苑?

 会場の時間は夕方を示していた。

 俯いている紫苑・・・いや・・・もうここにいるのは礼苑なんだ。

 試合のことで頭がいっぱいだったミアン。

「うそ・・・どうしよう。まだ何も考えていないよ」

 反射的に立ち上がると礼苑も合わせるみたいに立ち上がって

「・・・闘う」

 そしてプールの方に歩いてゆく。

「ま、待って。そっちは違う」

 ミアンの声は聞こえているのかいないのか、それとも関係ないのか、礼苑の動きは止まらない。

 急なことでざわめきが起こり始める。

 礼苑は試合中の人を押しのけて画面の前に座った。

「まずい。騒ぎになってゆく・・・く・・・・・・こうなったら」

 また隠れられるかもしれない。でも今はこれ以上騒ぎを大きくすることだけは避けたい。

「カードよ。あたしの願いを魔法に変えて」

 残っているカードはたったの13枚。

「お願い。時間を止めて!」

 カードは三枚消えて時が止まった。あと10枚。

 視線の先には

「まだいるね・・・もう隠れたりしないでよ」

 

☆☆☆☆☆☆


「これは・・・」

 異変に位が付いたのはデスクに座っている時だった。周りのモノが全て止まっている。

「やっぱりミアンだったんだ。時間が止まっているということはドリーチェか」

 連絡も要請もない。けれど状況を知ってしまったら変身しないわけにはいかない。


 ピンク色の光が職場で弾けてゆく。


「なんで連絡してこないの?ドリーチェなら日本担当の私の出番だから。今から行くからね」


 ジーアはヘリポートに出ると意識を集中。

「お台場?まあいい。とにかく行ってみよう」

 軽く地面を蹴って宙に舞うと目指す方向に舵を取って飛んでいった。


☆・・☆・・★★


「礼苑」

 時の止まった世界でミアンは一か八か話し掛けてみると言葉無く振り返る。

「闘うんだよね。あたしと」

 じっと見つめている。隠れるような素振りは見せていない。

「紫苑の身体から出て」

 ミアンの言葉は伝わっていないのかアケコンを操作し始める。けれどここは時の止まった世界。当然ゲームだって動くことなんてしない。

「終わらせないとならないの。いろいろ。聞いたよ紫苑から。命まで掛けて守ったって。紫苑は実験から解放された。それなのになんでまだここにいるの?礼苑の魂のいる場所はここじゃないのに」

「・・・たたかい・・・は、まだ」

「どういうこと?」

 すぐには答えはない。画面をじっと見つめてアケコンを動かし続けている。

「あたしがあなたのこと元の世界に帰してあげる。だから紫苑の身体から出て」

 礼苑が隠れないのはまだ魔法が有効だから。あたしのこと魔法少女だと思っていないから。

「言ったよね。出てって。あたしだっていつまでも待っていられない」

 空腹が襲ってくる。けれど食べるものはもうない。

「・・・はぁ・・はぁ・・もう一回言う。出てって」


・・・お腹・・空いたな・・・もう無理かも・・・


「・・・・・・出ないならこっちにだって考えがある」

 残ったカード達に希望を託す。

「赤短鮮血」

 カード達は真っ赤になって上下に激しく動き始める。あとは指示を出すだけ。

「紫苑の身体ごとマルヴを壊す」

 次の瞬間。ミアンの身体が銀色の光を放って魔法少女の姿に戻った。

 その姿を見た礼苑は引きつるほどの声を出して紫苑の中に隠れようと動く。

「逃がさないんだから。いっけ〜〜〜〜〜カード達。紫苑・・・ごめん」

 最後の力を使ってカードを放つ。

「・・・そう・・・それでいい・・・」

 ミアンはその場に崩れ落ちるように倒れた。


「ミアン。ちゃんと捕まえたから」

「・・・ジーア」

 ミアンの目にはカードが刺さったマルヴを持っているジーアの姿が映っていた。

「守ったんだね・・紫苑のこと」

 なんとか笑うことが出来た。けれどもう魔法力が尽きようとしていた。

 やっと終わる。そう思ったのに

「ちょ、ちょっと何!このマルヴ」

 ジーアの手の中で暴れている。少しでも気を抜くと手から逃げ出してしまうかもしれない。

「ミアン、動ける?」

「駄目・・・魔法力ないよ」

「そんなこと言わない!まだ終わってない。私は状況が分からないから頑張ってよ」

「でも・・・動けない」

「まだカードあるでしょ」

 赤短鮮血はカード自体を動かす魔法。カード自体消費されるわけではない。

「魔法を使って!カードで魔法力の回復ってできないの?」

 ジーアの提案に

「はは、そんな風に考えたことなかった。これって目から鱗ってやつ?」

「そんなこと後でいい。こっちは押さえるので手一杯なの。協力して」

 ふらつく足でなんとか立ち上がって

「ジーアのこと信じる。やってみる」

 ミアンは気力を振り絞って

「お願いカードよ。あたしの魔法力回復して。半分でもいい。お願い」


 ミアン。こんな使い方間違っているかもしれない。でも必要なの。絶対に必要なの。私利私欲なんかじゃない。ドリーチェを倒すため。そして紫苑を守るため。


「ミアン駄目なの?」

 ジーアの声は届いていない。必死に願う。

「温泉!行くんでしょ!」

 思いっきり叫ぶとカードは光るのではなく炎を出して燃える。

 七枚のカードが燃え落ちると

「・・・戻った。少しだけどまだ魔法使える」

 残ったカードは三枚だけになった。

「よかった・・・で?このマルヴどうしたらいいの?」

「ジーア・・・そのごめんね。連絡とかしてなくて」

「そういうのは後でいいから。とにかくこんなの初めてなんだから」

「あたしだって初めて見た。マルヴだけでも動けるんだ」

 ミアンも一緒になって激しく動くマルヴに手を掛けた・・・・・・

「え?・・・聞こえる・・・礼苑の声があたしにも聞こえる」

 ジーアはミアンのことを見て同じように耳を傾けてみるが声なんて聞こえなかった。

「うん・・・そっか・・・そうだね。終わらせなきゃ駄目だよね」

「え?なに?なんのこと?」

「あたしにはこのマルヴの声が、礼苑の声が聞こえるの」

「声?」

 ここ最近。ドリーチェにしてもマルヴにしてもずいぶんいろいろなパターンを見てきたと思う。それはシャハトやヘーン、クーイグの出現によって変わったのだろうか。

 今回だってそういう存在の影響があるのかもしれない。

 ジーアは黙ってミアンのことを見守っていた。あんなに暴れていたマルヴは今は静かに二人の手の中に収まっていた。


「うん・・・わかった。あたしからもお願いがある。もう紫苑の中には戻らないで。礼苑の願いはあたしが叶えてあげるから。約束して。あたしだって紫苑のこと守りたいの」

 ゆっくりと瞼を開けるミアン。

「・・・終わったの?」

「うん。あたし達今から戻るね」

「戻る?」

「オーストラリアに」

「え?今から?本気?」

「うん。ジーアにお願いがある」

「え?」

「あたしの魔法そろそろ終わる。だから元に戻しておいて。ここにいる人達には関係のないことだから。それとあの子」

 止まったままの紫苑のことを差して

「紫苑って言うんだ。あたしの友達。魔法が解けたらもう戻らなくていいって伝えて欲しいの。駄目かな」

「それだけでいいの?」

「うん。時間がないから行くね、あたし達」

「私も一緒に行こうか?」

 ミアンは顔を横に振って

「ここからはあたしの担当だから。任せて欲しい」

 ジーアの返事を待つことなくミアンはマルヴを抱えたまま会場の外に出てゆく。


 魔法で止まった世界。でもすぐに動き出すだろう。

「今のうちに行こう。最後の魔法。カード達できるならじゃなくてやって。あたし達を今すぐ研究所に連れてって」

 ミアンの瞳の色は銀色に輝いている。本気も本気でこれから起こることに正面から目を向けている。


「3・2・1」


 指を鳴らす。ミアンがいるのは研究所の中で紫苑達の部屋だった。

 カードはもう一枚もない。本来なら魔法力もなくなっているはずなのにミアンを立たせているのは使命感という気持ちだけだった。


「着いたよ礼苑。これでいい?」

 ミアンはゲーム機にマルヴを置く。

 するとマルヴは吸い込まれてゆく。

「みんなを避難させないと」

 

 止まっていた時間が動き出す


「みんな。早くここから逃げて」

 ミアンは大声を掛けて出口を目指す。

 いろいろな声が聞こえるがいちいち説明している余裕はない。

 やがて響く不気味な音と振動。

 天井や壁に容赦なくヒビが入って崩れ始める。


 館内に響く非常ベルの音


 おかげでそこにいた誰もが出口に向かって走り出す。

 その姿を見届けてミアンは振り返って起こっている出来事を見守る。


 今の礼苑は身体を手に入れたドリーチェになっていた。

 その姿は彼が使っていた格ゲーのキャラクターだ。それが暴れて施設を破壊していた。

「礼苑・・・これが願いでいいんだよね」

 コマンド入力でもしているかのように次々とコンボを繰り出す。

「これで紫苑は解放されるんだね。これが本当の願いでいいんだよね」


 礼苑はあらかた破壊してしまうと最後に必殺技を使って完膚なきまでに破壊した。

 ここまで壊せばもう再起はできないだろう。それくらいの破壊だった。


「終わった?もうマルヴが限界みたい。黙っていても崩れてしまう。でもね。あたしも同じ気持ちだから嬉しいの。ドリーチェと共謀するなんて魔法少女失格かな」

 ミアンの言葉をじっと見つめている礼苑。

 自分が消えてゆくことが分かっているみたい。


「え?」


 差し出される手。ミアンは応える。しかし相手はビジョン。触れることなんてできないのにちゃんと相手の手を感じることができた。


「あたしの名前はミアン。ミアンって『希望』って意味があるんだ。だから次は能力なんてない普通の人に生まれてくることを祈るね」

 カードもなくなったのに

「あたし。今なら他にも出来そうな気がする」

 全身銀色に光る。髪からも粒子のように銀色が弾けている。銀色の瞳の色がさらに輝きを増してゆく。

「あなたは大事な妹を守るためにドリーチェになった。そういうのってあってもいいってちょっと思う。でもあたしは魔法少女。ドリーチェが元の場所に戻るための存在。受け取って礼苑。あたしからの手向けとして」

 ますます輝いてゆく。

 やがてミアンの頭上に大きく輝く星が現れる。

「ポーラスター。この光は傷付いたマルヴを浄化する。あたしのもう一つの魔法」

 眩いばかりの光が辺り一面包んでゆく。

 礼苑のマルヴは辿り着く場所に吸い込まれてゆく。

 最後の光を見送ると

「・・・友達にだってなれたかもしれないのに・・・・・・また一緒に対戦しようね」


 完全に終わった。

 ミアンはドリーチェを倒した・・・いや・・帰したと思いたい。

 こんなにも純粋なマルヴを持ったドリーチェがいる。

 大事な人を守るために。

「・・・終わったよ紫苑。もう自由だね」

 ミアンは一人出てゆく。


 鏡一郎はどさくさに紛れて建物の外に出た。


 壊れた施設を元通りにする気持ちなんてこれっぽっちもなかった。

 街は地震が起きたと大騒ぎしている。

 それならそれでいい。地震で施設は壊れた。これでみんな元の生活に戻るだろう。


 大きく背伸びをするとスマホが鳴る。

「あ、仁さんからだ。もしもし」

「鏡一郎終わったのか?」

「うん。たった今」

「一体何があったんだ?帰っていたことだって知らなかった」

「いろいろ。話すと長くなるよ」

「そうか。こっちも頼まれていたことは済ませておいた。魔法であの会場で起こったことはなかったことになっている」

「ありがとう仁さん。ちゃんと話したいけど疲れちゃたから今度でいい?」

「・・・まあ。そうだな。わかった」

「じゃあまたね」

 

 今頃紫苑はどうしているかな。今度こっそり見に行こうかな。

 でももう会わない方がいいのかもしれない。


 空を見上げても『ポーラスター』は見えない。代わりに見えるのは『サザンクロス』だった。


「ただいま。お腹減っちゃった」

またしてもこんな時間になってしまった。

読んでいただきありがとうございます。

明日は山の日だそうで。

登山経験も少しある私です。

今でも思い出すのは雲取山の出来事です。

まあ話すと長くなるので・・・ほとんどホラーに近い体験。

夏といえば怪談とかですよね。

そういえばホラーの募集してたような。書いてみようかな。

そんな余裕はない。今でも精一杯。

次も読んでもらえると嬉しいです。

平穏な夏を楽しみながら、また来週お会いしましょう。

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