見上げると星空・・・きれいだね
ジーアの真下にはたくさんのドリーチェの悲鳴にも似た音が壕の中に響いている。耳にしているだけで感情が揺らいでしまう。
そこには悲しみ、絶望、嘆き、そして怒り・・・負の感情が渦巻いていた。
「く、苦しい・・・彼らの気持ちが・・・うぅ・・・」
ジーアの肉体には実質的な攻撃はない。その代わり精神の方が貪られる感覚がする。
「・・・くぅ・・・これじゃブーアは耐えられない・・・きっついな・・・いつまで持つかな私・・・」
こういった攻撃はこの間くらったばかり。
もしかしてこれってドリーチェの新たな戦法なのでは。
そんなことを考えては気分を紛らわすことに努める。じゃないと簡単にドリーチェ達の感情という名の攻撃をまともに喰らうことになる。
こんな気持ち。戦争を知らない私だって飲まれてしまう。
けど。
ここにあるのは当時の彼女達の本物感情。嘘偽りのない本物の感情。
ドリーチェ達は一体なにを求めている?
「ホントに倒していいの?ホントに倒すべき敵なの?」
だんだん分からなくなってくる。
「・・・ごめん」
ジーアは一旦壕から出る。
あ〜あ。任せてなんてタンカ切っておいて逆戻りだなんて・・・
「・・・ジーア。辛い思いさせてすまん」
「・・・私こそごめん。ブーアの気持ち。今はすごく分かる」
「ホントはあたいがみんなのこと帰してやりたい。でも駄目なんだ。身体が動かなくなる」
「無理しないで。私が意気地なしなだけ。相手はドリーチェ。だから私達じゃないと駄目なの」
「・・・耐えられそうか?」
「耐えてみせる。じゃないと私が来た意味がないよ」
ジーアは壕の中に入る前に星空を見つめる。
この星達は何年も何百年も何千年も変わらずに地上に美しい光を届けているんだ。あの光のように静かに感情を抑えるんだ。
「よし。落ち着いた」
気持ち新たにもう一度壕の中に入ってゆく。
「今。みんなのこと救ってあげる。苦しみから解放してあげる」
オリハルコンを展開して一番近くにいたドリーチェに
「すぐ終わるから」
言葉を掛けてる。そっとドリーチェにオリハルコンを触れると
「え!・・・ちょっと・・・」
マルヴは簡単に破壊できる。けれど消えてゆく瞬間の叫び声がジーアの心に重くのしかかる。
「・・・きっつ・・・」
一つ倒したことで他のドリーチェの嘆きが強まったような感じがする。
「こんなことならいっそイッキに・・・」
この時、ジーアが見た景色・・・目を疑う。
「うそ・・・なにしてるの?なにがしたいの?」
あるドリーチェは勝手に自爆して散り散りになったかと思ったらすぐに再生して再び嘆きの声をあげる。また他のドリーチェはどこにあったのか短剣で自分の腹を裂く。内蔵こそ出ないが苦しんだ挙げ句再びキズが癒えると同じような嘆きの声。
それが目の前で繰り広げられている。何度も何度も。
「・・・・・・・」
確か史実では集団自決を迫られた。具体的な内容は知らない。けれど今目の前で起こっていることが事実なのだろう。
これを一晩中続けているの?
「ご・・・ごめん」
ジーアは耐えられずにまた壕から出てしまう。
「ブーア・・・」
耳を覆っているブーアに寄り添うと
「・・・許してくれ。あたいも死のうとした。でもそうする前に敵国に捕らえられたんだ」
「ブーア・・・もう終わったことなんだよ」
「終わっていない。ずっと。六月になるとどうしても思い出してしまうんだ」
「六月って・・・聞かせてくれないかな。できれば詳しく」
「ジーア・・・そんなこと知っても・・・あたい達の苦悩は消えやしないんだ」
「うん。私にだってどうすることもできないことくらい分かってる。でも必要なの。じゃなきゃドリーチェを倒すことなんて私には出来ないよ」
そっと肩に手を置いて
「見て。空の星々を。涙が溢れないように・・・・・・って良い歌詞だと思う」
「涙すら涸れたんだ。あたい達は」
「でも見て。今なら流す涙、あるんじゃない」
同じように見上げる星空は静かな囁きでブーアのことを迎えてくれる。
「・・・確かに・・・あの頃はいつも死が隣り合わせだった。生きている心地すらしなかった」
「ブーア・・・辛いかもしれないけど・・・一緒にドリーチェを倒すんじゃなくて癒してあげよう。私が力を貸す」
見つめるブーアの瞳にはまだあの時の光景が映っているように見える。
「今のあたいに出来るかな」
「出来る。じゃなくてやらないと駄目なの。こんな苦しみから早く解放してあげるの。彼女達は今もまだ苦しんでいる。ドリーチェになっても苦しみを訴え続けているの」
「死んでも苦しむ。生き残った者も苦しむ。嫌いだな。どっちも」
ドリーチェ達の声は続いている。ブーアは振り返ってその声を聞く。
「六月になってあたい達は突然解散させられたんだ」
「・・・解散」
「それがどういう意味かわかるかい?みんな無事に家に戻されたなんてキレイごとじゃない。過酷さを増してゆく戦場の真ん中に放り出されたんだ」
ジーアは言葉を失ってしまう。
「ごめんな。聞いているのは辛いだろ」
「・・・・・・口惜しいね」
「あたい達は捨てられた。これからいくつも未来が待っているのに。若い命が簡単に失っていった。逃げること生きること。みんな必死になった。誰が悪い。何が悪い。何を恨む。そんな考えすら持つ余裕もなかった」
「・・・ブーア・・・ううん。くまさん。ありがとう話してくれて。戦争のことは教科書の中の歴史の1ページくらいしか認識がなかった私には何かを言葉にする資格はないよ。今でも世界のどこかで戦争があって。でもそれは画面の中でしか認識できなくて。一歩外に出たら日々の日常に追われてすぐに忘れていた・・・」
沈黙がジーアの心を包む。
「星を見上げていれば涙は溢れない・・・いや・・・あたいはずっとそうやって溢さないように我慢していたのかもしれないな」
ブーアの瞳に少しずつ光が戻ってくる。
「ジーア。あたいは戦争のない世の中を願っている。簡単に実現することはないかもしれない。でも未来があればいつかはそんな世界がやって来る。そう信じて今まで生きてきたんだ。だから決めたんだ魔法少女になったあの時から将来のある人達のために世界を守るって」
「・・・ブーア」
「ジーアの言う通り。今は彼女達の苦しみを終わらせること。そして新しく生まれてそんな時代を生きて欲しいって願うよ。長の話にもあったよな。目の前の苦しみからの解放」
「うん。私にできることはそれくらい。だから・・・」
「ああ。一緒に」
二人は同時に差し出した手を握って
「終わらせよう」
「ああ。ジーアが来てくれてよかった」
二人同時に壕の中に入ってゆく。
ブーアの姿を見たドリーチェ達はさっきよりも大きな声で唸り出す。
「どうやって終わらせる?」
「いつもだったらまとめてだけど・・・それは私にはできない。私の新しい魔法が効果あればいいんだけど」
「さっきも言ってた新しい魔法ってなんだ?」
「結構苦労したんだ。まだきっかけだけど。新しい魔法は音。声じゃなくて音なの」
「音?」
「うん。心の音。気持ちの音。それが相手にどういう効果があるかわからない。けど音が伝わったら何かが起こるの」
ゆっくり壕の中に降り立つ。ドリーチェ達は二人に向かってくる。ジーアは思わず飛び上がって避けたがブーアはそのままドリーチェ達にされるがままになっていた。
「ブーア!」
見ているとブーア自身に攻撃しているわけじゃない。ブーアの身体を登っては落ちてゆく。それをひたすら繰り返しているようにジーアの瞳には映る。
ジーアは見る。ドリーチェ達。そして反対には壕の穴。そこから見える星空。
「もしかして・・・みんなここから出たいの?」
そうか・・・彼女達にとってこの場所は地獄にも等しい場所なんだ。せめてそこから出ることができれば
「ブーア。方法が見つかった」
大声で呼び掛けると心にブーアの言葉が響いてくる。
「今から言うことお願いしたい」
『ああ。なにをしたらいい?』
「ブーアって確か土を操れたよね」
『できる』
「だったら土を使って壕の外までハシゴを作ることできるかな?」
『そんなの簡単だ。でもそんなことしたらドリーチェ達は散らばってしまう』
「そうなったら最初みたいに壁を作ればいい。彼女達はそこから出たがっているの」
『わかった』
ブーアから眩い緑色の光。それから地響きと共に土で出来たハシゴが壕の外に向かって伸びてゆく。
ハシゴに気付いたドリーチェ達は我先にと言わんばかりの勢いで登り始める。
しかし。
土のハシゴは重さに耐えきれずに崩れ落ちてしまう。
「一人ずつ・・・そんな言葉。伝わらないか」
ブーアはもう一度ハシゴを作る。けれど結果は同じ。何度も何度も同じことを繰り返す。
「駄目なの?」
『金属ならよかったのに。ラチがあかないな』
「なら方法を変える。ブーア。ありがとう。もういいよ」
再び合流して
「どうするんだ?ジーア」
「彼女達はずっとこの穴から空を見ていたんじゃないかな。もっと広くて安心できる場所を求めている。上手くいけばいいけど」
ジーアはステッキを持って
「光ならこのステッキでも」
ジーアは両手にステッキを持って目を閉じて願う。
心の中に広がる気持ちを音に乗せてゆく。
ステッキは反応するとたくさんの光が壕の内側に広がってゆく。
「こ、これは」
ブーアの瞳に映ったもの
「・・・きれいだな」
その言葉にジーアも目を開ける。
「上手くいったみたい・・・ホントきれい」
二人の目の前にはジーアの作り出した満天の星が壕の中を照らしている。
「静かになった」
ブーアの言葉の後には静寂がある。星の声と同じくらい静かで穏やかな。
一粒の涙が溢れる。
「ブーア・・・」
「・・・・・・・・・」
「分かるよ。私も聞こえる。彼女達の声」
「もう我慢はしない。これで解決なんて簡単に言えない・・・けど」
ドリーチェ達の呻きや嘆きは壕を出て星空の元で安堵の声となって魔法少女達の心に響いていた。
「あれを・・・」
ジーアが見たもの。
ドリーチェ達は今まで縛られていた場所からの解放と共にどんどん霧散してゆく光景だった。
「みんな・・・」
ブーアの涙は涸れることなく地面を濡らしてゆく。
「これで終わったなんてことはない。あたい達の生きた証はここで終わったのかもしれない。でもやっとみんな未来に向けて歩き出せた。あたいはそう思うことにする。だからあたいも生きるよ。胸を張って」
二人の目の前には無数のマルヴが地面を覆っている。真っ赤なマルヴは彼女達が流した血の色のように見える。
「ブーア。あとは私に任せて」
「あたいも手伝うよ」
「ううん。もうマルヴだけ。ねえ。終わるまで外で待っていて」
「分かったよ。あたいは・・・待ってる。本物の星空の下で」
ブーアの姿が見えなくなるとジーアはオリハルコンを展開。
「これで本当に生まれ変われる。平和な世界で会えるといいね」
深呼吸して心の中を無にしてからジーアはオリハルコンでマルヴをイッキに壊してゆく。
粉々になったマルヴが微かな光を最後に消えてゆく。
まるで地上を照らす真っ赤な星達のような光がジーアの瞳に映って消えてゆく。
「キレイな魂達・・・きっと。願いは叶うよ」
全てが終わった。壕の中にはどこからか風が吹いて中の空気をイッキに穴から地上に押し出すように流れていった。
ジーアが外に出ると
「終わったな。ありがとうジーア」
ブーアは笑っていた。
「ブーアこそ涙はおしまい?」
「ああ。星がいつもよりキレイに見える」
「ホントきれい。いつになったら平和な世界になるのかな」
「いつか。そう信じている」
「そうだね。私もそう思うことにする」
それからブーアはどこに持っていたのか
「もう一度会うことができたら一緒に飲もうな」
泡盛の入った一升瓶を壕の中に置く。
その姿を見て微笑むジーアだった。
「帰ろう。ジーアはどうする?このままくまの家で泊まってもいいし、一杯付き合うのもいい」
「どっちの誘いも嬉しいけど。明日は仕事なんだ。だからこのまま帰る」
「分かった。ジーアならそう言うと思ったよ」
「じゃあ」
「ああ。ほんと助かった」
「いえいえ。魔法少女として使命を果たしただけだから」
「それにしても見違えたよ。成長したな。あたいも頑張らないとな。みんなの足を引っ張るわけにはいかないから」
「そんなことないよ。今度こそ。またね。ブーア」
「ああ。またな」
お互い別々の方向に飛んでゆく。
ジーアは一旦止まってもう一度じっくり星を見る。
それから再び帰るために全力で飛ばす。
夜は静かに深まってゆくだけだった。
☆☆★★☆★
「ただいま」
僕が玄関を開けたのは零時を過ぎる頃だった。
「おかえり」
「え?まだ起きていたのか?」
「なにそれ。せっかく待ってたのに」
「ごめん。もう寝ていると思ったんだ。ありがとう。待っていてくれて」
妻はそのまま何も聞かずにコーヒーを淹れてくれた。
「そうだ。お土産あるんだ」
僕は帰り際にくまさんからもらった長命草茶を渡す。
「これは?」
簡単に説明すると驚いた顔して
「え?あれから与那国島に行ってたの?」
そりゃ驚くのも無理もない。けれど嘘を付く。
「これは今夜のお礼にジーアからもらったんだ」
「じゃあジーアが与那国島から帰ってきてあなたにこれを渡したってこと?」
「簡単に言うとそういうことだけど、説明は難しいんだ」
「そう。じゃあ有り難くいただきましょう」
「そうしてもらえるとジーアも喜ぶと思うよ」
妻は大きな欠伸をして
「あなたの顔見たら寝ようと思ってたの。もう限界。おやすみ」
出来上がったコーヒーを目の前に置いて部屋に戻ってゆく。
ホントは聞きたい。でも我慢している。
しばらくは妻に甘えることにする。そして本気で怒ったら本当のことを話そう。
「はぁ〜美味いな」
一口飲んだらイッキに疲れが襲ってくる。
朝。シャワーを浴びて会社に行こう。
そう決意してコーヒーを持って僕も部屋に行った・・・のに
「・・・朝?いつの間に」
気が付いたら朝になっていた。目覚ましを掛け忘れていたが普段の生活リズムのおかげで目を覚ますことができた。かなり早い時間だけど。
月曜日。朝の電車はなにかと不具合が起こりがちなもの。
その余波は僕も被っていて、緊急停止のあと、そのままの状態で運転再開を待つ羽目になった。こんなに混んでいるんだ。具合が悪くなるのは仕方ないことだが、線路にモノを落とすなんて本人のちょっとした注意でいくらでも予防できるのでないだろうか。
いつも余裕を持っているおかげで会社には難なく到着する。
「主任。おはようございます」
振り返ると
「ああ。立花さん。おはよう。今朝は電車大丈夫だったかい?」
「全然問題なかったです。それより問題なのは何故なにもリアクションしてくれないんですか」
「え?」
なんのことだ?しばらく考えて
「あ・・・あれか」
立花さんが言っていることはジーアの写真についてだった。
ここんとこゴタゴタが続いたおかげで写真のことは覚えていたが立花さんのことはすっかり失念していた。
「すまなかった。ちょっと家庭でゴタゴタしてて」
ここは素直に答える。
「既読が付いたってことは見てはくれたんですよね」
「見たよ。驚いたよ。あれって本当なのかな?合成とかAIとか。でも本当に忙しかったんだ。娘のことで学校にも行かないとならなかったし」
「分かりました。いい訳はもういいです。それで主任はそう考えているんですか?」
「いや。ただの一般論を話しただけさ。まだ僕自身の意見は言っていないよ」
「ならそのことを聞きたいです。お昼一緒にどうですか?」
「ああ。今日はちゃんと弁当を持ってきたんだ」
「お弁当を食堂で食べてもいいと思いますが。それとも一人の方が落ち着きますか?」
この問題は早急にミアンに頼まないとならないだろうな。あれから一体どんな尾鰭がついていることやら。
ここは現状を知る必要がある。
「わかったよ。食堂で話そう」
「分かりました。それではのちほど」
立花さんは先に行ってしまう。その後ろ姿に溜息をつく僕がいた。
いろいろな自然現象があった先週でした。
読んでいただきありがとうございます。
梅雨も明けていないので青空が懐かしい今日この頃です。
今回はなるべく重くならないように書いたつもりですがやはり難しいですね。
いろいろ思うところはあります。
次回は元気で明るい話にしたいと思っております。
それでは次回の予告『ミアンの・・・』何にしよう・・・
変わるかもしれませんが、よろしくお願いします。




