ジーアの優しいお仕置き
ジーアが軽くステッキを振るとオリハルコンがあっと言う間に集まってくる。
「今ならアダマスだって簡単に集められそう」
オリハルコンを目の前の鏡に触れると音を立てて割れてゆく。
「集中力もハンパない」
不思議な気持ち。
なぜこんなに落ち着いているのだろう。
今はもの凄くジーアとの繋がりを感じている。
最初、出会ったばかりの頃は半信半疑の気持ちだった。
でも。
魔法少女を続けていくうちにいつしかジーアに変身することが当たり前になっていた。魔法を現実の世界で事実として受け入れていた。魔法はあって当たり前。そんな気持ちになっていた。
そして。
ジーアと繋がれなくなった時。ひどく不安になった。心細くなった。魔法が使えないこと変身できないことが不安で堪らなかった。
それもこれもみんなドリーチェのせい。
そのおかげって言い方間違っているかもしれないけど、私達はもっと強く深く繋がれたと思っている。
だからかな。私は怒っていない。心は鏡の水面のように穏やかなの。
『閉じ込めてやる』
ぬいぐるみの山の中から声が聞こえる。
今、心が乱れているのはドリーチェの方。ま、心があればの話しだけど。
再び真っ黒の空間に包まれる。
しかし。私は何も恐れてはいない。
それにしても。
焦る敵というのは同じ技を繰り返すもの。
「こんなの簡単よ」
オリハルコンが空を斬る。シェの空間なんてネギを切るより簡単。
『ヴィエ!!!』
そんなに驚かなくてもいいよ。
怒っていないって言ったけど前言撤回。
私はね。静かに怒っている。怒りを越えた怒りなの。
あなたに言っても理解できないでしょうけどね。
『おまえキケン』
再び空間。でもね無駄なの。効かないよ。
そんな攻撃で私達の絆を壊すことなんて出来ないの。絶対にね。
『うげぇぇええ』
やっとシェの目の前に到着。
「さ。お仕置きしようね。優しくするから」
ジーアが片手で空を払うと山積みだったぬいぐるみ達はキレイな一列に並んだ。
その中心にいるのがシェだった。心なしか震えているように見えるのは実際に震えているからだろう。
真正面に立ったジーアは見下ろして
「見つけた」
『ぎゃあぁぁぁ』
「そんな声出しても惑わされないよ」
『お、おとうちゃ〜ん』
鏡の中に逃げよう走り出すシェ。オリハルコンは追うように伸びて
『ぐぎ!!!』
ぬいぐるみに突き刺さる。そしてそのままジーアの元までシェを運んでゆく。
「おかえり」
『・・・・・・』
「もしかして私のこと怖いなんて思ってないよね?」
『・・・・・・・・・・・』
「言ったよね。怖くなんてないのよ。私はと〜っても優しい、そしてと〜っても可愛い魔法少女なのよ。そんな私にあなたの態度は失礼じゃないかな」
シェは何も答えることもなく、じっとジーアの顔を見つめている。ピクリとも動かないただのぬいぐるみにしか見えない。
けれどジーアには分かる。微かにドリーチェの気配を感じている。
「まあ黙っているならそれでもいいけど。大声で泣かれても困るしね」
微かな細かい震えが手に伝わってくる。
このドリーチェは本当に弱いのかもしれない。おまけに精神年齢も人間にたとえるなら幼稚園もしくは小学一年生くらいに感じる。
だからと言って相手の本質は見えていない。まだ何かを隠している可能性だって十分に考えられるんだ。
こういう場合。気を抜いた方に勝負の女神は微笑まない。セオリーなんだ。
だから私は一瞬たりとも気を抜くことなんてしない。
「そろそろ終わりにしましょう。覚悟はいい?」
『・・・・・・いやだ。いや〜』
「やっと喋った。でもね。ジーアと私の絆を傷つけようとしたことって絶対に許せないんだ」
『おとうちゃん・・・おとうちゃん』
「だからって私達の絆はそんなに簡単には壊れない。そうだ。最後にお礼を言わないと」
『・・・お礼?』
「そう。シェのこと褒めてあげるのよ」
『ほめる?ほんと?』
「ええ。だってあなたのおかげで私とジーアの絆は前よりもずっと強くなったの。新しい可能性だってみえた。ありがとう。そしてさようなら」
シェが言葉を発する前にオリハルコンは形が分からなくなるくらいバラバラにする。
ジーアの周りには綿埃がはらはらと落ちてゆく。
「分かってるんだ。これで終わりじゃないことくらい。そろそろ本気出して欲しいな」
はらはらと散る綿埃は再び集まって
『ナデナデしてくれない。うそつき』
目の前にあるぬいぐるみがどんどん重なってゆく。
ほらね。鉄板の展開は絶対のセオリーだよね。
『からだ壊した』
「そうだね」
『おかえし』
巨大化したぬいぐるみは何をモチーフにしているのか分からないカオスだ。
ジーアを目掛けてくる大きな手。
「遅い。欠伸が出ちゃう」
『この。この』
何度手を振りかざしてもジーアにはスローモーションに見える。
『くそ、くそ』
「ねえ。いい加減飽きたから終わろっか」
ジーアはオリハルコンにさらに魔法力を注いでゆく。どんなに使っても減っている気がしない。自分の限界なんてとっくに越えている。それなのに溢れてくる。
オリハルコンはジーアの身長以上に大きくなる。
「すごい。私どうしちゃったんだろう。自分が怖い」
シェの目の前で構えると動きが止まる。
「あなたのマルヴ。私が浄化してあげる」
ジーアは小さく呼吸を整えるとオリハルコンを一直線に走らせる。
バラバラと崩れるぬいぐるみ達。パタパタと床に落ちてゆく。
「・・・え?おかしい」
真っ二つにした。けれど
「マルヴがない?」
手応えを感じない。
「そんなこと絶対にない。だってドリーチェなのよ」
ぬいぐるみはどれもピクリとも動かない。
「こうなったら」
ジーアは全部のぬいぐるみを確かめるように真っ二つにしてゆく。
しかし。
「やっぱりない。なきゃ駄目なのに・・・私、何と戦っているの?」
ジーアは必死に一つ一つ手に取って確かめる。
「駄目だ・・・ない」
マルヴがないどころかシェの気配も完全に消えていた。
「ホントにオバケなの?」
これで解決した、でいいのだろうか。本当にそう判断していいのだろうか。
「それに・・・」
ジーアはまだ鏡の空間にいる。たくさんのジーアの姿が映っている。
「空間が解除されない。まだ終わっていない?」
・・・あ〜あ。失敗しちゃったよ
「だ、誰?」
鏡に映っていたのはジーアではない。
まさか・・・今までのってフェイクだったの?
・・・あんたがジーアか。顔、覚えたよ
鏡に映っているのはジーアと同じ青い色の瞳なのに透き通っていない。忘れられた湖のような色。無数の瞳がジーアのことを見ている。
・・・まあ、実験は成功かな
「ドリーチェなの?お前はドリーチェなの?」
・・・そうだよ。僕はドリーチェ。名前はクーイグ。マルヴもある
「クーイグ」
・・・覚えてくれた?
「覚えたわ。シェはどこに行ったの?」
・・・ああ。それなら足元を見てよ
ジーアは言われた通り足元を見ている。
「これは・・・」
拾い上げる。
「ぬいぐるみの目?」
・・・そう。シェの正体。
「どういうこと?なんで?」
・・・言ったでしょ実験だって。知りたい?知りたいよね
「教えてくれるの?ヘーンもだけどあなた達って親切だよね」
・・・ヘーンが甘やかすからシェは失敗したんだ
何がどうなっている?私はドリーチェと戦っていたんじゃない。
この目のパーツと戦っていた?どうりで簡単に決着がついたはず。
でも。
魔法力はまだまだある。これからが本命のドリーチェ登場ってところでいいのだろうか。
・・・僕はまだそっちに行けないんだ。だからシェを造った。僕のマルヴを少し削ってね
マルヴを削る?そんなことできるの?魂と同じくらい大事なものじゃないの?
・・・僕と戦いたかったら月蝕まで待っててよ。それじゃ
「ちょっと待って。まだ聞いたことに答えてもらってない」
たくさんの瞳がジーアに集中する。
クーイグがどんな姿をしているのかすら分からない。ただ瞳だけが映っている。
・・・僕はね。優しいんだ。だから身体を欲しがっていたそれをシェに変えた
どういうこと?ぜんぜん分からない。
・・・ま。そういうこと。さて僕は失礼するよ。この空間は壊しちゃっていいよ
「ま、待って・・・待ちなさい!」
ジーアの言葉は届くことなく鏡にはジーアの姿。
空間だけが残ってクーイグの気配は完全に消えていた。
「これが今日の相手?やっぱりオバケで合ってたっていうの?」
なんだか相手の掌で遊ばれている気分がする。
「もの凄く腹が立ったんだけど・・・壊していいんだよね。なら・・・」
ジーアは今の気持ちを音に変える。
その音は口惜しさと腹立たしさが混ざったような音。
鏡は次々ひび割れて、やがて空間は崩壊してゆく。
「・・・終わった」
目に映るのは夜の学校の廊下だった。
鏡はひび割れていた。それにたくさんの切り刻まれたぬいぐるみの残骸。
「解決した、でいいんだよね。今夜。オバケ騒動も終わる」
ジーアはその場で両手を拡げて
「お願い。全てを元通りに。スラーン」
祈りと共に鮮やかなピンクの光が学校を包む。
目を開けると鏡は元通り。無惨な姿だったぬいぐるみ達も元に戻っていた。
ジーアは一つ一つ丁寧に廊下に並べてゆく。
「あれ?これ」
その中で一つ。片目のぬいぐるみを見つけた。
手の中にあった目のパーツを当ててみる。
「少し違う・・・かな」
パーツを差し込んでみたけど明らかに違う種類のパーツだった。
「お前は身体を探していた。ホントはどんなぬいぐるみだったの?でもこれで我慢しようね」
ジーアはそのぬいぐるみも同じように廊下に置いて学校を後にしようとした。
「・・・一緒に来る?」
返事はない。きっとシェは自分の身体が欲しかっただけなんだ。
その願いをドリーチェに良いように扱われたってことなのかな?
手に取って抱きしめてみてもドリーチェだったシェの気配はなかった。でも放っておくこともなんとなくできないジーアだった。
今はただのぬいぐるみ。けれど問題を起こした張本人。安全だと分かっていても自分の目の届くところに置いておいた方がいいような気がしていた。
「この騒動でなくなったぬいぐるみはこの一つで解決した、ってことにしよう」
ジーアはシェを抱えたまま廊下歩く。
「これから月蝕が終わるまであなたこのことは私が監視する。お仕置きはこれでいいよね」
☆★★★☆☆
「おかえりなさい」
「ああ。ただいま」
僕が家に着いた頃にはもう時間は天辺を少し越えていた。学校を出てすぐ元に戻って家路に着いたのだ。
通りには人の姿はほとんどないし、車だって走っていない。おかげで自分の足音が不気味なほど響いていた。
こんなところで職質でも受けたら・・・そうならないように気にしながら無事到着。玄関を開ける前に持って帰ってきたぬいぐるみを隠して今に至る。
「お茶でも飲む?」
「お茶よりコーヒーがいいな」
「今から?まあ、飲みたいならいいけど眠れなくなっても知らないわよ」
「まだ眠くないんだ。それとカフェインの量なら緑茶だって負けてない」
「そうなの?」
「だからどっちを飲んでも一緒ってこと」
「ふ〜ん。なら私もコーヒーにしようかな。話してくれるんでしょ、今夜のこと」
「今でいいの?」
「そのために起きて待ってたんだから」
「いいよ。その前に風呂に入りたい」
僕は玄関から真っ直ぐ風呂場に向かってそのままシャワーだけで汗を流した。
熱いシャワーを浴びながらさっきまでのことを思い返す。
また新たなドリーチェの存在が分かった。クーイグだったっけ。目だけしか見えなかったから全体は想像するしかない。口調から察するに少年を連想させる。
シャハトの時に思ったことがだんだん現実になっている。
頭を使ってくる。かなり厄介なことだ。
マルヴを削る?そんなこともできるのか。
またシェのように遠隔操作で自分自身は傷付かない。これじゃ何時まで経っても終わりがない。これから続くのだろうか・・・
このことは早速グループチャットで共有しておいた方がいい。
それに一つ分かったこと。
やはりドリーチェの狙いはジーアなんだ。だから日本に集中して現れる。
そのことに対して何も答えが出ていない。
友とは誰だ?友とはなんだ?
「ふぅ・・・さっぱりした」
鏡・・・今夜はもういい。と言いたいところだがやはり生活に鏡は必需品だ。
映っている僕は・・・いつもの疲れた中年の顔のはずなのに
「いつもよりハリがある?」
疲れている顔なのにどこか充実した疲労の顔だ。それはジーアのことを解放できたこと、それに『声』という特殊能力に目覚め始めたことが関係しているのだろう。
ただの疲労じゃない。これは達成した充足感の疲れなんだ。明るく疲れている。
「良い匂い・・・」
ドアを開けると鼻を翳める。
「ずいぶん長かったわね」
「そうか?気分がいいからかな」
「気分がいいとお風呂って長くなるの?」
「そういうことにしておこう。いただきます」
コーヒーを一口。ますます気分が軽くなる。というか今は本当にリラックスしている。
このところずっとモヤモヤしていたからな。
「それで?解決したの?」
妻は唐突に聞いてきた。時計を見るともう深夜一時を越えていた。いくら明日休みだと言っても寝ずに答えを待っていたんだろうな。
「ああ。終わったと思う」
「それで?真相は?」
一番気になるよな。人為的だったのか。本当にオバケの仕業だったのか。どっちの結果も嫌だがはっきりした方が気分はすっきりするだろう。
「ぬいぐるみはみんなの元に返る。そして二度と同じことは起こらない」
「聞きたいのはそこじゃないんだけど」
「だろうね。いたずらだった」
「それって人?それとも・・・」
僕は解決のために嘘を言う。
「これはもう終わったことなんだ。もうない。だからこれ以上追求しない。それは学校サイドが決めたことなんだ。本当は口外しない約束だったんだが、君にはちゃんと伝えるよ。なんたって僕の行動を認めてくれたんだから。約束して。誰にも言わないって」
「分かったわ。この話はここで終わりってことでいいんでしょ」
僕の中ではどう切り出すか決めていた。
「先生と一緒に学校を見回っていた。夜の学校ってホント静かでオバケが似合う。そんなことを思ったよ。そしてあのビデオにもあった廊下に出た時・・・」
僕は敢えて区切って響子の目をじっと見つめる。彼女の瞳の奥には恐怖という感情が湧き上がっているのが分かる。
「驚いたんだ。先生と二人で」
微かに身体が反応している。すまない。これ以上ビビらすのは反則だ。
「オバケで驚いたんじゃないんだ。廊下にはなくなったぬいぐるみがキレイに並べて置いてあったんだ。手紙と一緒に」
手紙と聞いた瞬間。響子の瞳は安心と怒りが浮かんでいる。
「誰かのいたずらだったの?」
「まあ、そうなるね。いつ学校に潜入したかは分からなかった。手紙には要約すると『もうしません。今まですみませんでした。ちょっとしたいたずらだった』って感じで書いてあった。最後には『もうしません』ともあった。あとは学校に任せることにした。警察に被害届を出すのか、様子を見てから判断するか」
「犯人はなんで急に?」
「さあな。もしかして僕達が集まっていたこと、ビデオのことを知ったからかもしれない。証拠があるんだ。いたずらでもいくつも罪を重ねている。刑事事件としても立件には十分ってことを悟ったのかもしれない」
「だったら徹底的に見つけるのが筋じゃないの?」
「僕もそう思う。けれど判断するのは学校であって僕じゃない。もし生徒だとしたら将来に関わってくる。確かに悪質ないたずらだと思う。けれどそういうことをしたい年頃でもあるんだ。もうしない。その言葉を信じるのも学校としてはあるのかもしれない」
「生徒じゃなく変質者だったら?」
「そしたら即警察だな。でも本音を言えば騒ぎを大きくしたくないってところだろうな。オカルト話で最後はうやむやに終わる。それを狙っているのかもしれない」
「学校としては無責任過ぎると思う」
「僕も同じ意見だ。でも何度も言うが学校判断なんだ。だからもし響子が誰かに喋ったら尾ひれがついてマスコミがやって来る。そしたら生徒の学校生活は慌ただしいものになる。それこそ学校としては避けたい事態だと思う」
響子は何かを考えている。彼女ならきっと理解してくれると思う。いや期待する。
「分かった。納得しなきゃならないってこと。私だってマスコミなんてごめんだわ」
「まあ、しばらくは様子見が続くだろうけどいずれ風化してゆくと思う」
残ったコーヒーを飲み干す。
「そろそろ休もう。なんだか眠くなってきた」
「そうね。明日、っていうか今日はどうするの?」
「特には考えていない。今度こそ家族で一緒に外食とかどうだろう」
「いいわね。綾にも言っておく」
「ああ。じゃあおやすみ」
「おやすみ。お疲れさま」
自分の部屋に戻る前に隠していたぬいぐるみを回収した。
「さて」
机を前にしてあらためてぬいぐるみを見つめる。
「ジーア。聞こえるかい?」
『お疲れだったわね』
「・・・良かった」
『何が?』
「だっていつものジーアに戻ったから」
『仁がいなかったら私はどうなっていたか・・・とにかくありがとう』
「いいんだ。僕達はパートナーだろ。僕は君が困っていたら助けるんだ」
『なんかカッコいいこと言ってる。もしかして私のこと口説いている?』
「そうだな。そうかもしれない」
『ちょ、ちょっと急に変なこと言わないでよ』
「言ったのはジーアだよ」
『そうかもだけど。びっくりしたのよ。仁ってロリコンだよね』
「それを言うか。認めることも否定することもしない」
『変なの。それより今日はびっくりすることだらけだね』
「ああ。本当に。声についてはこれからだ。それとクーイグの言っていたこと」
『マルヴを削る』
「そう。そんなことできるんだ。今度はどんな手を使ってくるか分からない」
『ますます厄介だね』
「そうだ。それとやはりジーアのことが目的なんだってはっきりした」
『私にどんな価値があるっていうのかな?』
「それについてなんだけど。友って誰なんだ?」
『それは私には分からないの。前のジーアの記憶だと思う。真っ黒な記憶。でも私には開くことができない。ドリーチェによってこじ開けられそうになった。あの空間で。自分のことがなくなりそうになった。恐怖と不安。いろいろ心が乱れていた。だから仁にも冷たく当たってた』
「当たりたかったらいくらでも当たってくれ。僕は大人なんだ。それくらいの耐性はできているつもりだ」
『ありがとう。でもそのことについては分からない。過去の私には友と呼んでいた存在があった。それがどれくらい過去のことなのか。いずれ答えは見つかると思う。だって向こうから勝手にやってくるんだから』
「そうだな。だったら僕の前に現れた時に聞いてみよう。案外親切な奴らだから」
『親切・・・笑っちゃうね』
「言われてみるとそうだな。同意するよ。それとシェは今ここにいる。もうただのぬいぐるみだけどなんとなくね」
『仁の瞳を通して見える。確かにもう力を使うことはできない。仁の手元にあるのが正解だと思う。もしまた動き出したら今度こそ本当におしりペンペンだね』
「ああ。その時はペンペンだ」
僕達はお互い笑う。こうやって笑うなんて何時以来だろう。今までのストレスが解消されてゆくのを感じる。やっぱり僕達は笑っていないといけなんだ。いつもいつだって。辛いときだって笑っていないと駄目なんだ。今はそのことを痛感している。
「今日は終わった。おやすみジーア」
『仁もゆっくり休んで。おやすみ』
僕はぬいぐるみを机の上に置いたまま明りを消してベッドに入る。
夢なんて見ない眠り。それは今までのストレスを忘れるような安心した眠りだった。
朝。僕は起こされる。起こしたのは娘の綾だった。
「・・・おはよう・・どうしたんだ?珍しいじゃないか」
「お母さんが起こしてこいって言うから。それでお父さん。なんでこれ持ってんの?」
なんのことかさっぱり理解できない。眼鏡も掛けていないから状況だって分からない。
「なんのことだ?」
「これ。私のなんだけど。返してもらうね」
眼鏡を掛けたところで綾は部屋を出ようとしていた。
「あ、ぬいぐるみ」
「なんでここにあるの?失くしたと思ってたのに」
たまたまの偶然とは恐ろしい。まさか綾のモノだったとは。
僕の返事なんて聞くまでもなくドアは閉まる。
特に実害があるわけじゃないから問題ないと思う。それに僕が持っていても綾が持っていても近くあることには変わりない。もし悪さしようものならお尻ペンペンで済むだろう。
まだ寝足りないが起きることにする。
さあ。今日は気分よく休日を過そう。
僕はすっきりした気分でベッドを出て顔を洗いに部屋を後にした。
今日は新月だそうで。
読んでいただきありがとうございます。
これから天気も回復するそうなので久し振りにスカイツリーに行こう。
下町ってけっこう好きな私です。
新宿の高層ビルなんて正直見飽きています。
スカイツリーから浅草、そして上野からの秋葉原。
いつもの散歩コースです。
頭をリフレッシュして次を考えよう。
読んでいただけることに感謝して物語を紡いでいます。
次回もよろしくお願いします。




