夜の学校
夕食になってもまだ帰ってこない娘。連絡はあったがそれだけで全てが許されると思われるもの違う。やはり僕が父親として言った方がいいのだろう。
何か問題が起こった後では遅いのだ。
「ちょっと出掛けてくる」
「今から?どこに?」
「学校だ。先生もいる」
「だからって・・・やっぱり危ないの?」
「なんだろうな。先生とは意見が合うんだ。同じ畑の人間って感じがする」
「だからってなんであなたが出向く必要があるのよ。そんなの学校に任せておけばいいことじゃないの?」
「僕が頼んだんだ。先生は今夜泊まり込むって。もしかしたら悪質ないたずらの可能せいだってある。もしそうならすぐに警備会社に連絡できるように対策だってしてあるんだ。それに明日も休みだし。ここは一つ保護者の代表ということで確かめておきたいって思ったんだ。大丈夫危ないことなんてない。今夜には解決するだろう」
「なんでそんなこと分かるのよ」
「なんでだろう。でも分かるんだ」
「・・・・・・・・」
僕は嘘と真実を混ぜて話す。先生は来ない。でも解決する。僕がジーアなんだ。魔法少女なんだ。これ以上誰にも無用な心配は掛けたくない。僕ならそれが出来るんだ。
真っ直ぐ妻のことを見る。きっと僕のこと理解してくれると信じている。
「・・・わかったわ。でも約束して絶対に危ないことはしないって」
「言っただろ。今夜でカタが付く。誰も傷付かない。誰も記憶に残らない。もう何も心配なんてしないで済む」
「・・・・・・・信じてる。だから・・・うん。気をつけて・・・いってらっしゃい」
玄関を出て扉が閉まって妻の姿が見えなくなって
「ごめん。嘘ついた。でも今夜で終わらせる」
謝罪と決意を言葉にして歩き出した。
★★★★★★
夜の学校はひっそりしている。
それなのに僕が来たことを歓迎しているみたいに見える。
ドリーチェが待っている。僕が・・・ジーアが来るのを待っているんだ。
ずっと戦っている。ストレスフル。働き過ぎ。鬱病一歩手前。
だから今日の僕はいつもよりひと味違うぞ。
くだらない騒ぎを起こしているドリーチェに怒りの鉄槌を下す。
そして。早いところ家庭内の問題の解決したいんだ。
人気のない場所を探してジーアに変身する。その前にジーアに話し掛けた。
「ジーア・・・きっと困ったことになっているんだろ。僕の手にはステッキがある。僕達はまだ繋がっている。絶対僕が助ける。失ってしまった君の笑顔を絶対に取り戻す。力を貸してくれ。信じているジーアのこと。魔法のこと。それと・・・信じて欲しい僕のこと」
返事はなかったが想いは届いていると信じている。
「行こう」
ステッキを構えて心から願う。いつものように淡い光が僕を包み込む。
「よし。先ずは飛び越えなくちゃ」
フェンスを飛び越えるために大きく華麗にジャンプ。
ゴス・・・
「あたた・・・・???」
華麗に飛び越えるどころか頭から豪快に壁に突っ込んだ。抱える頭で状況を確認する。
「・・・う・・そ。変身できてない?」
失敗?こんなこと今までなかったことだ。
「もう一度」
再び光に包まれる。
「よし。今度こそ」
ゴス・・・
「・・・・・・・・」
ステッキを振る。光に包まれる。でも変身は出来ていない。
「くそ。こうなったら」
挫けてたまるか。僕自身で飛び越えてやる。
しかし。現実は甘くはない。どう頑張っても手すら掛からない。
フェンスが高過ぎるのか、それとも僕の体力がないせいなのか。
あんなに大口を叩いて出てきたんだ。なんとか中に入らないと。
フェンスは諦めて学校の周りを歩く。どこかから中に入る手段はないものか。
今のご時世を考えるとそんな都合良くいくはずなんてない。
おまけに誰かに見られたら不審者として通報される可能性だってある。
今夜。解決するって息巻いているんだ。手ぶらで帰るなんてできない。
くだらないことして待っているんだろ。僕のことを。いやジーアのこと。
今回のことはもしかしてお前のせいなのか?
ジーアがいつものジーアでないのはお前のせいなのか?
ヘーンのように『術』を使っているのか?
「だったら・・・・・・・・」
『だったら?なにしてくれるの?一緒に遊んでくれるの?』
いきなり声が聞こえる。周りを見てもドリーチェの姿はない。
「『だったら」の先が聞きたいなら顔を見せろ」
『怖い顔。怒るの?もしかして怒るの?』
「怒る?そうかもな。いたずらしたら怒られるんだ」
『怖い。怖い。いやいや。ごめんなさい、ごめんなさい』
なんなんだ?本当にドリーチェなのか?まるで子供と話しているみたいだ。
この状況が僕の感覚を鈍らせる。ヘーンの時とは違って緊張感がなくなってゆく。
「待ってたんだろ。僕のこと。いやジーアのこと」
『ジーア?ジーアって誰?怖いの?』
さっきから何を言っている?
僕には相手の心理状態が分からない。分かるはずもない。だって相手はドリーチェなんだ。惑わされるな。これだって相手の作戦なのかもしれない。
「ジーアは怖くない。優しい女の子なんだ。おっちょこちょいな時もあるけど」
『優しいの?だったら遊んでくれる?』
「そうだな。先ずは学校の中にいれてくれないか」
『いいよ。遊んで、遊んで』
裏門が音もなく開いてゆく。
こんな誘いに乗って平気なのだろうか。でも入るには今しかない。
「ジーアはきっと遊んでくれるよ」
返事はない。一応周りを確認。誰もいないし車の一台だって走っていない。念のためスマホを見てみるとちゃんと繋がっていることに安心をもらって僕は一歩踏み入れた。
どんなドリーチェが待っている?
僕はそのことで頭がいっぱいだったから重大なことを忘れていた。
1体のぬいぐるみが出迎えてくれている。何のキャラクターなのか全然分からなかったが強いて言うならウサギ?
自分が無知なのか、感心がないのか。多分どっちも正解なのだろう。
『え?』
ぬいぐるみは僕のことを見て明らかに震えている。一歩進むと一歩下がる。
何度か繰り返した後
「逃げる必要はない」
『怒るって言った。怖いよ〜。ジーアはどこなの?ジーアは優しい』
「今から目の前で会わせてあげるよ」
ステッキを出して心から願う。いつもみたいにピンク色の光に包まれる。ドリーチェの目の前で変身って、まさにヒーローモノの醍醐味じゃないか。
『キレイな光』
そんなの当たり前じゃないか。この光は科学では説明のできないんだぜ。
『・・・ジーアはどこ?女の子、いないよ』
その言葉に唖然とする。
やはり変身できていない。僕に『三度目の正直』が訪れることはなかった。
『おじちゃんは嘘言ったの?』
なんてことだ。ジーア、頼む。返事を。とにかく今はこの場をなんとかしないと。
生身でドリーチェとやり合うなんて不可能だ。たとえ目の前のぬいぐるみがそうだとしても本当の姿は絶対他にあるに違いないんだ。
それで最後には巨大化する。ヒーローモノの定番。
変身できていないのに、なんで突っ込んでいった?
やはりストレスが判断力を鈍らせているんだ。魔法を使えない僕は戦う術なんて持ち合わせていないんだ。
辛うじて会話が出来ることが唯一の救い?・・・でいいのか?
「な、なかなか面白かっただろ。ホントはジーアが出てくるはずだったんだ。おじちゃん下手だから失敗しちゃたな。ははは」
あ〜。なんて情けないことをドリーチェ相手に話しているんだ・・・
これって絶対後になって後悔するやつじゃないか。激しく自己嫌悪。
『もう一回やって。ジーアと遊びたい』
「そうだな。でもおじちゃん下手だから時間が欲しいな」
今は時間を稼いでなんとかジーアに繋がるんだ。
「そうだ。その前に名前を教えてもらえるかな?そうすればジーアも出てきやすくなるよ」
『名前?』
「そう。僕のことは・・・おじちゃんでいいから。それと怒らないって約束する」
『ホントに?ホントに怒らない?』
「おじちゃんは嘘は言わないんだ」
『あたちの名前は「シェ」だよ』
「『シェ』ちゃんか。いい名前だね」
『変な名前だって。みんな言うよ』
「そんなことないよ。可愛い名前だよ。変って言ったみんなのこと。おじちゃんが怒ってやる」
『可愛い?『シェ』は可愛いの?』
「うん。可愛いよ。そうだ。他のぬいぐるみってどこにあるのかな」
『会いたいの?』
「会いたいな。おじちゃん、みんなに会うために来たんだよ」
『じゃあこっち』
ぬいぐるみはクルッと回れ右して歩き出す。僕は一定の距離を保ったまま付いて行く。
『シェ』と名乗るドリーチェは精神年齢も幼いのだろうか?
夜の学校は必要以上に黒くのっぺりしている。それにところどころで光っている赤色や緑色の明りが不気味さに色を添えている。
見上げる校舎は迫ってくるような圧迫感で僕のことを見下ろしているみたいだ。
ぬいぐるみが近づくと玄関は音もなく開く。自動ドアなんかじゃない。
『シェ』は当たり前のように中に入ってゆく。歩く速度は変わることなく一定で僕との距離も一定に保たれている。
『ここ』
ぬいぐるみの手が差した方向には
「鏡?」
『中にいるよ』
鏡の真正面に立っているにも関わらず僕とドリーチェの姿は映っていない。代わりにあるのは真っ黒な色だけ。
シェはそのまま鏡の中に入ってゆく。僕は目の前で止まる。
『こっちだよ。みんなの前でまたやって』
向こう側から声だけが聞こえてくる。試しに恐る恐る指で真っ黒な鏡を触ってみる。
一瞬。ゼリーみたいな感触がした。その奥があることは間違いない。見ると指は無傷だった。ならこのまま入っても身体には害がない。そう結論付けて
「じゃあ。おじちゃん入るよ」
『早く早く』
別に溺れるわけじゃないのに無意識に息を止めて目を閉じて真っ黒なゼリーの中に身体を滑らせてゆく。
温かくも冷たくもない。ただ感触だけがダイレクトに伝わってくる。
そして。
身体がふと軽くなった。どうやら通過できたらしい。ゆっくりと瞼を開けると
「・・・・?え?」
中にはたくさんの鏡が展開している。遊園地のミラーハウスのようにも見えるが実際はもっと複雑で僕自身の立ち位置すら見失ってしまうそうだ。
『こっちこっち』
声の方に視線を合わせると今までのぬいぐるみだろう。一ヶ所に集まっていてみんな僕のことを見ている。舞台から見える観客席みたいだ。その光景が無数に鏡に反射してどれが本物なのか分からなくなる。
こんな光景。乗り物酔いでも起こしそうだ。
「しっかり見ようとするから駄目なんだ」
僕は眼鏡の外した。不利になることは分かっている。けれど見えていても僕の方が圧倒的に不利なことに変わらない。だったらむしろこっちの方がマシに思えてくる。
こんなところまでノコノコ付いてきて・・・・・・完全に判断をミスっている。
見た目で警戒心が薄れてしまっていたらしい。仲間がいればこんな判断ミスはしなかった。
頭を振る。
駄目だ駄目だ。自分のミスを人にせいにするなんて大人がやる所業じゃない。素直に受け入れるんだ。僕が馬鹿だったと。
『みんな待ってる』
「わかった。でもまた失敗したらごめんよ」
ステッキを構える。時間を稼ぐためにゆっくりと思いつくだけ適当に動いてみる。
ぽすぽすと乾いた音がする。どうやらぬいぐるみ達が手拍子でもしているらしい。
『早く!早く』
シェは一人ではないのだろうか?いくつのも声が重なって聞こえてくる。
そろそろ変身しないと・・・自信はない・・・・・・限界か・・・くそ・・・何も策が思いつかない。
「いっくよ!変身」
やぶれかぶれ。思いっきりステッキを振り下ろす。ピンク色の光が僕の身体を包み込んだ瞬間、観客達のボルテージは最高潮を迎えたような熱気すら感じる。
・・・・・・ええい。ままよ
光が収まった。どうか・・・上手くいってくれ。
『わぁ!すごい』
恐る恐る目を開ける。ぼんやりした視界で自分の手を見て
「え?」
急いで眼鏡を掛けてもう一度手を見て、それから周りの鏡を見る。
「・・・ジーア・・・変身できてる」
どうして急に?
「ううん。私、信じていたよ。絶対に変身できるって・・・」
感動のあまりつい言葉を詰まらせてしまう。
こんなに嬉しいことはない。私達は繋がっている。安心と安堵が心に満ちてゆく。
呼吸を整える。
これから目の前の敵。どうやったら倒せるのか。
でも。
今はドリーチェにこの姿を見せたかった。それは相手のことをもっと知る必要もあったから。
「お待たせ!ジーアです」
ウインクをしてみる。ミアンのようなエフェクトと一緒に。
『・・・・・・・・』
反応がない?もう一度。もっと派手なエフェクトを添えて
「ジーアです。初めましてシェちゃん☆」
『・・・・・・・・』
変身は成功したのにドリーチェの反応が悪い。さっきまでの友好的な態度とは打って変わって冷めた目付きがジーアに突き刺さる。
『・・・きらい』
「え?」
『きらい、きらい、きらい、きらい』
地団駄を踏む子供みたいジタバタする。
「な、なにごと?なんできらいなの?そんなこと言わないでよ。悲しくなっちゃうでしょ」
『いや〜〜〜』
ドリーチェであることを忘れて近寄ろうとすると
『来ないで!』
「だからなんで?」
『なんでいるの?』
「?・・・どういうこと?」
動きがピタッと止まるとぬいぐるみ全部の視線がジーアに集中する。
「な、なに?」
『あたちが閉じ込めたのに』
は?今なんて?・・・・・・・閉じ込めた?
『簡単に出れないのに』
もしかしてジーアが変だったのは目の前のドリーチェのせい?
許さない。だったら許さない。ジーアの笑顔を奪ったのは目の前のドリーチェ。
でも
こう言っているってことはシェはアルガトネオルに・・・・・・なんで他の魔法少女は気が付かなかったの?そんなに簡単に潜入できる、なんてことはないと思うんだけど。
ジーアが以前こんなこと言っていた。
『最近、アルガトネオルにも増えている』と。
つまり。紛れてジーアに近づいたってことだよね。
そして。どんな術か分からないけど閉じ込めたと。ジーアの肉体そのものなのか、精神的ものなのか。
肉体的にはないだろう。実際、昨夜までは会話が成立していた。
要約すると次第に取込まれていって、今は会話が出来ないほど完璧に閉じ込められた。
こうやって変身できたのは奇跡的なことだったのかもしれない。
ジーアは精一杯の力を使って私の気持ちに答えてくれた。思わずこぶしに力が入る。
だったら答えは簡単。
そこからジーアを助け出す。
「やっぱり怒っちゃおかな」
『!!!』
ジーアはキッと相手のことを見る。その視線に怖じ気づいたのか、シェが一歩下がる。
『お。怒る?怒らないって言ったのに』
「私はジーアを助けるの。だから怒るのよ」
すぐに答えることなく沈黙が支配する。
やがてぬいぐるみはぐったりと横になる。これは何を意味する?
『嘘つき!!!!』
シェの声が鏡に乱反響して響く。ジーアは耳を塞いだが次の行動に備えるために
「・・・オリハルコン。集まって」
魔法を発動する。
ステッキはジーアの言葉に答えるように廻り出す。
『また閉じ込めてやる』
オリハルコンの粒子が集まり始める。
『おとうちゃんと約束した』
父親?・・・・・・約束?
『お前を閉じ込めておとうちゃんのところに連れてゆく』
「そうなんだ。私を連れてったらいいことでもあるのかな?」
まだ十分に集まっていない。もう少し。
『あたち褒められる。いい子いい子』
くそ・・・時間いつもより・・・それに魔法力の減りが早い・・・
「私も褒めてあげようか」
『???怒らないの?』
「そう。今すぐアルガトネオルにいるジーアを解放したら私がいい子いい子してあげる」
『そんなのダメ』
「駄目?どうして?いい子いい子して欲しくないの?」
全然集まらないよ・・・もっと時間を・・・
『おとうちゃんに怒られる』
ぐったりしていたぬいぐるみは再び立ち上がって
『お前危険。ジーアなのにジーアじゃない』
「へえ、すごいね。そうよ。私はジーアの依り代。本体じゃない。でもジーアなのよ」
『???・・・お前も閉じ込めたらいい子いい子してくれるかな』
ゆっくりと近づいてくる。不気味に光るぬいぐるみの瞳。
ジーアの魔法力は限界に近づく。
「え?」
『???おじちゃんだ』
「な、なんで?勝手に?」
無数の鏡に映っている姿に驚愕。
「なんで元に戻った?」
変身が勝手に解除される。こんなこと・・・あってはいけないのに
『おじちゃん』
「な、なにかな?おじちゃん失敗しちゃった。ははは」
一歩、また一歩。ゆっくりと近づいてくる。
『おじちゃん。閉じ込めるね』
ま、まずい。非常にまずいことになっている。
「おじちゃん、疲れたから帰ってもいいかな」
返事はない。真っ直ぐな視線に恐怖する。
逃げ出したくても身体が言うことを聞いてくれない。魔法力を使ったせいもある。
でも。
本当は自分がこれから何をされるか分からない恐怖で震えている。
「そ、そうだ」
スマホを出す。
「け、圏外?」
もう成す術がない。
絶望だ。泣きたくても泣けない。叫びたくても叫べない。
『もう逃げれない』
シェの言葉が僕の恐怖をさらに煽っていた。
昨夜の満月。ブルームーン。皆さまは見たのでしょうか?
読んでいただきありがとうございます。
今日から六月ですって。いや〜びっくりです。
そして。今回は箱根からのアップです。
プチ旅行です。都内と違って空気が気持ちいいです。箱根観光して気分転換。
さてさて。どう展開していこうかな。
ゆでたまごでも食べながら考えます。
また次回よろしくお願いします。
あ、お土産何がいいかな←浮かれている。




