魔法少女の夏休み 11
「ずるいですわ。二人とも。わたくしも混ぜていただかないと」
二人の後ろから声が聞こえる。ジーアもミアンもグローのことを迎え入れて
「・・・グロー・・・もちろんよ」
三人は互いに寄り添い、そして頬を寄せ合った。
それを見ていたティーナとブーアも
「おいおい、私達は仲間、なんだろ。だったら私も」
「あたいだってみんなと同じ魔法少女だからな」
5人はお互いの頬を寄せ合う。いつしかみんなの顔には笑顔が浮かんでいた。
「ちょっとくっつき過ぎじゃありませんか」
「いいじゃん、いいじゃん、私ら仲間だろ、って、おいブーア、なんかビール臭いな」
「分かるのか?この飲み助め。そうだ。海に入る前一本だけ飲んだ」
「私には駄目って言っといて自分はいいのかよ」
「だってあたいらしかいない時だもん。ティーナも地上に戻ったら飲めばいい。グローに感謝するんだな。白ワインもあったりして。なかなか玄人好みの用意だったな」
「マジか。いいねえ、いいねえ。グロー、サンキュウ」
「何がですか?言っときますが春日がみんなやったことですから。わたくしではありません」
「いいって。グローも可愛いとこある。この、この」
「ちょっと、顔をグリグリしないで」
「もう、ちょっとは静かにしてよ。長の話聞くんじゃないの?」
「ミアン、さっきはよく分からないけど悪かったな。大人と子供。同じ人間って考えたらその違いって何なんだろうな。私も知りたくなった。だから仲直りしようぜ」
「別にあたしはティーナと喧嘩したわけじゃなくて、折角こんな素敵な体験してるんだから同じ視線、同じ立場でいたかった、それだけ。だから仲直りとかそんなの関係ない」
「そうか。私もそれでいい。で、ジーア、どう気分は?」
「・・・まだよく分からない。フワフワして、何だか夢をみているよう」
「でもさっきより随分視線がはっきりしてきた」
「うん・・・落ち着いてきた。それよりみんなさっきはごめん。何か、訳分かんなくなっちゃって。でもね、みんなとこうやって頬を寄せ合っていると、こう、なんかね、心が温められていくようで、それがすごく安心するの」
「そっか。なあジーア、言いたいことあったら遠慮なく言っていいんだぜ。だって私達は事情がどうあれ仲間じゃないか。な」
ティーナはジーアの頬をグリグリした。
「くすぐったい・・・ティーナの頬、温かい。ありがとう・・・心配してくれて」
今度はジーアがティーナの頬に軽くキスをした。それを見て更にみんな頬を強く寄せ合った。
後ろから『オホン』と声がする。
「魔法少女のみなさん。仲直りは済んだかの?」
その声にみんな振り返り慌てて横一列に並び直した。
ジーアが一歩前に出る。
「・・・長さん・・わ、私・・・」
「キトでよい」
「・・・分かったわ。私はジーア。初めまして、キト」
「ジーアか、これでみんなの自己紹介は終わったの。さてジーア、おぬしの心の闇、ワスに上手く答えられるか分からんが聞いてくれるかの?」
キトが言うとジーアはビックリして
「あ、あの、分かるんですか?私が聞きたいこと。まさかキトも魔法が使えて、そして心が読めるとか」
キトは一瞬キョトンとして真っ黒な目玉をキョロキョロさせたがすぐに
「ふぉふぉふぉ、ワスは長く生きとるだけで魔法なんて使えたためしがない。聞いたんじゃよラグからのぉ」
「そう、ラグから・・・そうなんだ」
ジーアはラグのことを目で探す。
すぐに見つけるとニッコリと笑った。ラグもそれを見て優しい表情で頷いて答えてくれた。
「さて、始めるかの。その前に、ジーアとその仲間達。ワスは今までの長い時間で得た知識だけを話すのであってこれが本当に正しいことかなんて分からぬ。しかしワスの話すことによって少しでもこれからの指針になればワスも話す甲斐もあるが無駄になることになるかもしらん。時間だけ虚しく過ぎていってしまうことになるかもしれん。それでも構わぬか?」
みんな黙って頷いてからグローが前に出る。
「わたくし達のために時間を与えてくださりありがとうございます。せっかくの誕生日をこんな形で中断してしまうことみなさん許してくれますか?」
今度は海の生き物達に向かって話す。グローは反応をじっと待った。やがてガイアーンが代表するように前に出る。
「ワシらは構いません。何度も言うがこれが運命ならその運命に従うまで。これも何かの縁。ワシらも長の話を聞きたいと思います」
そうしてみんな黙って頷く。グロー他みんなも同じように黙って頷いた。
みんなの周りは深海の静けさというよりも時間の静けさのような完全なる静粛に包まれていた。
みんなが長に集中する。
ジーアは合図かのように長を見てそれから軽く頷いた。
「では始めるかの」
長の言葉は海のスミズミまで行き渡るような感じで静かに、とても静かに話始める。
「何故生きるか。その問いは生きているからこそ可能な質問であり、また生きているからこそ答えは多岐に渡り存在する。従ってどれが正しいかなんて一概に言えるものではないということは誰にでも理解することが出来る。生きている間のテーマでありテーゼでもある。そしてその質問は死とともにその者からは消え去ってしまう。
では何故このようなことを考えるのか。いやむしろ考えなくてはならないのか。それは生きることが永遠ではないからだ。必ず限りがきて終わってしまう。
このワスも同様にの。
問題はここにある。この『何故』という言葉だ。この言葉は実に利用価値があるときもあれば実に厄介なときもある。まさに神と悪魔の関係のように表裏一体なのだ。ワスも生きている間何度思ったことか、特に若かりし頃などはな。
ある時ワスは先代に同じようなことを聞いたことがある。だからここからはワスの言葉というよりは先代の言葉として受け取って欲しい」
そこまで言うとキトは思い出すように空を見つめる。
「先代ってやっぱエビなのかな?」
「気になるでしょうが黙ってティーナ」
「あたしも知りたい」
「ミアンも静かに」
グローに促され二人とも口をつぐんだ。
長は魔法少女達のやり取りを見てから続ける。
「先代は大きなウミガメじゃ。たしかワスが出会った時はもう千歳を越えていたはずじゃ。実に物知りで人間の言葉すら喋れるくらい凄いお方じゃ。ワスなんてまだまだ足元にも及ばん。先代は度々陸に上がっては人間達と話して知識を得ているとも言っておった。
ある時、先代は実に興味深い一人の人間の男を知ることになる。
彼はいつも粗末なナリをしていたが生きること、人々の幸せを願う心は人を越えていたように感じたそうだ。彼はいつもたくさんの付き従う人間で囲まれていた。人間だけではない動物達も彼の言葉に耳をすますべく従っていたそうだ。何でも高貴な生まれで一国の王子だったと聞いている。
先代も噂を聞き彼と話したくなったそうだ。そしてその願いは叶えられることとなる。
ある日先代は彼の噂を聞き海岸で彼が来るのを待っていた。彼の方も海の長が会いたいという噂を聞きつけそこに一人で現れた。とても綺麗な夕焼け空の日だった。
二人はお互い出会えたことにいたく感動し、ついつい話が弾んでしまう。
何時しか日は落ち、空には満天の星が瞬き出し、潮が満ちてきて満月が水平線からすっかり顔を出した時先代はこう切り出した。
『あなたには生きる意味というものが分かっておられるのか?』と。すると青年は笑ってこう言った。
『私なんかよりあなたの方が何倍も生きておられて、それでもなおその答えを見つけることができていないのに、未熟者の私に辿り着けるはずがありません』と。
『しかしあなたはそのことに答えるだけの何かがあるはず。でなければどうしてあなたに他の者達が興味を持つのでしょう』
『真理は一つではありませんが、私なりに答える術があります』
『それをぜひ聞かせて頂くことはできるだろうか?』
青年は清々しい高貴な笑顔でこう答えたそうです。
『私はこういう時必ずこの話をすることにしています。私自身この話のことを「毒矢の喩え」と呼んでいます。』
『毒矢の喩え。興味ありますな。ぜひ聞かせてください』
青年は頷いて話し始めた。
『目の前に毒矢に刺さった人がいたとします。そして医者はその人を介抱しながらこう聞くのです。「この矢は何処から飛んできたのですか」「矢は何の為にあなたに放たれたのか」「この矢は何で作られているか」「どんな形の弓であったか」「それが分かるまで矢を抜いてはいけない」と矢や弓や毒のことばかり聞きます。
もうお分かりかと思いますが原因を追求することよりしなければならないことがあります。
医者が真っ先にしなくてはならないこと、それは矢を抜くことです。そうしなければその人は死んでしまうからです』
と、まあこんな会話が展開されました。あ、ちょっと失礼」
キトは一気にそれだけ喋ると深呼吸して何かを思い出すように遠く視線を落とす。
そして再開。
魔法少女達だけじゃない、そこにいる全ての者達が静かにその続きを待っている。
「青年はそこまで話すと今度は先代にこう聞いた。
『あなたならこの話の真意を理解することができるでしょう。そこで今度は私が聞きます。この話で人々を納得させることができるでしょうか?』
『つまりあなたが本当に言いたいことはこう言うことか?生きることとは毒矢を抜くことであり、矢のことを知る必要がない、と』
『まあ、そんなところです。矢のことを知ったところで目の前にあることを解決しなければ何も始まらない。人の生き死にの根本を知った所でそれが生きることと等価値だとは思えないのです。問題なのはいかに現実にある苦しみを無くすかということです。人は生まれた時から苦悩を背負っています。何故生きるのか。何故死ぬのか。そういったことに常に頭を悩ませます。しかし考えてばかりでは何も先には進みません。時というのは常に未来に向かって進んでいるからです。決して立ち止まることはありません。ならば「考えるな」とは言いませんがそればかりになっては駄目なのです。今、自分が何をすべきかをしっかりと見定めることこそ限りある人生を有意義に過ごすことができる手段ではないでしょうか。悩むことは決して悪ではありません。私はこのようなことを聞かれるとこの話を持ち出して決して正しく答えようとはしません。例えこのことの真理を知っていたとしてもです』
『なるほど。それも一つの真理、ですね。多分このようなことに答えを積極的に求めるのは時間の無駄使いかもしれません。目の前の苦しみを、確かに一理ありますな。それからさっきあなたがおっしゃっていることですが、やはり全ての人を納得させられるかどうかは分かりません。何故なら人は常に悩む生き物だからです。悩むこと自体が苦悩だとしたら人によっては更に悩みを大きくしてしまう可能性もあると思うからです。でも一つ言えるとしたら、あなたの言葉は私には十分理解出来たということです。だから諦めないでください。そのこともまたあなたの苦悩の一つなのでしょうけれど』
先代の言葉に青年は優しく微笑みます。先代も生きることの儚さと素晴らしさをあらためて認識したそうです。そして二人は朝日が昇るまで話をしたそうです。その時流れ星がたくさんだったとも言ってました」
キトはジーアの目の前までやって来ると
「こんな話じゃが分かるかの?」
今度は他の魔法少女達にも目線を送って反応を待っている。
「えっと、キトには分かるの?」
「ふぉふぉふぉ、ジーアよ、ワスは生きることに対しそんな真理は追求しておらん。ただ今を生きてるから生きとる。それだけじゃ。真理なんて人それぞれ。ただ今話したのは正直言って深く考えたところで答えなんて見つからんということじゃ。それに答えを知ったところで今ある苦悩が解決するわけではない。解決とは別なんじゃよ」
「解決とは別?」
「そうじゃ。もし答えがあるなら今を一生懸命生きなさい。そうすればもしかしたら問題が解決するかもしれん。また答えがなかったとしても決して落胆しないことじゃ。問題なのは頭ばかり悩ませてもその苦しみからは解放されんということじゃ。しっかりと前を見て自分を信じて生きること。これこそが解決の一番の近道。ウジウジと悩んで留まっているより一歩でも先に歩き出した方がかえって心が軽くなるというもんじゃ。違うかの」
「つまりはこういうことだな」
ティーナが言う。みんな目を丸くしてティーナのことを見る。
「おいおい、何だよ、その目は。私が分かり易く言うとだな、つまり。今回の旅行はジーアは最初全然乗り気じゃなくてウジウジしていた。でもしょうがなく来てみると自分の心とはウラハラに意外と楽しいことに気がついた。悩んでいたのが嘘だったくらい来てよかったと思えてきた。思い切って一歩踏み出したからそのことを体験することができた。みんなでの思い出作りは間違ってなかった。だから悩んでいたのがバカバカしく思える。どう?」
みんなは目からウロコが落ちるように『おお』と賞賛にも似た声が上がった。
「分かる、ような気がするティーナ」
「気がするだけ?ジーア」
「もう一つ何か足りないような」
「ブーアは分かるのか、それ?」
「言いたいことは何となくですが伝わります。しかしブーアの言う通りですわ」
「だからそれって、じゃあグローが説明してよ」
「あたしも今ひとつピンとこない」
「ミアンも・・・はあ、私は何となく分かるんだよな、その感覚」
みんなのやり取りをキトは見て
「ふぉふぉふぉ、まあ解釈はそれぞれじゃ。彼女の言葉にもう一つ付け加えるとしたら」
魔法少女達はキトの言葉に瞳をキラキラさせる。
「人は何か目標を見つけた時、理想の結果に向かって走り出す。そしてその結果がどうあれ、それまで辿ってきた道を振り返る。そこには自分の頑張ってきた軌跡が見えるはず。それが正しいことだったか間違ったことだったかはその時になって初めて気がつく。そこでやっとまた新しい未来を見ることができるようになる。人生なんてその繰り返しなんだって気付くであろう。だから物事の根本について考えることは言わば後ろを向いて歩いているようなもので、いつかは先が分からなくなって転んでしまう。生きてることで一番重要なことは転ばないことである。しっかりと前を見ることで未来への道筋が見えてくる。そんなのは正しいことじゃない。ワスはそう思う。だから悩みの無い人生が無いように、答えの無い人生も無いということじゃ。だからジーアが旅行に対し前を向いて歩き出した途端、全てが変わって物事の良い所が見えるようになったんじゃないかの。けれどもこれからも生きている限り苦悩を切り離すことはけっして出来ないんじゃがな。そうなったらまた頑張って自分の力で前を向いて歩けるよう努力するんじゃ」
キトの言葉に魔法少女達はお互いの顔を見合わせて軽く微笑む。
ジーアは一歩前に出る。
「キト、ありがとう。私ね。まだ全然答えなんて分からないの。でもねキトの言葉は分かる。どんな時でも生きてる限り前を見て歩かないといけない。これはブーアにも言われた。ちゃんと足元を見ていないと転んじゃうって。私自身の人生転ばないようにちゃんとしないといけない。それにジーアだって生きてるの。今は私を通してこの世界で生きてるの。だから私がちゃんとしないといけないって分かったの。私が生きることがジーア自身生きることに繋がっているから。それでもたまに立ち止まったりすると今まで見えなかったモノが見えてくる。私はねこう思うの。立ち止まったっていいんじゃないかって。そこで見えるモノに対して悩んだっていいんじゃないかって。それも悪くないって思えるようになったの。だって私の人生なんだもん。前を向いて歩く私もいる。けど立ち止まって悩む私もやっぱり私なんだって。今はそのことが分かってすっごく心が軽いの。けどこの軽さは私一人では無理なの。一人だったらその重みにいつか押し潰されてしまう、さっきみたいに。だから私には仲間が必要なの。ここにいるみんなが必要なの。私が私自身に押し潰されそうになったらみんなが私の心を温めてくれるのが分かったの。一人で生きることなんてきっと出来ない。だから私もこれからはみんな心が冷えきった時温めてあげられるようになりたい。それが今分かったの」
ジーアはそこまで一気に喋るとキトに更に近づいて
「私、こんなお礼しか出来なくて、チュ♡」
ジーアはなんの迷いもなくキトにキスをする。やがて青かったキトの身体はドンドン紅くなって、まるで茹でたてのエビのように真っ赤に染まってしまった。
「ふぉふぉふぉ。魔法少女とはいえ何とも恥ずかしいの」
キトは嬉しそうに言う。
それが誕生会の始まりの合図かのようにファンファーレが今までの沈黙を破ってこの広い海に響き渡る。
暗かった海が一気に明るくなり、集まっている生き物達は種族の壁を越えた宴が始まった。
みんな踊るように泳ぎだす。
誕生会が始まったのだ。ここには笑顔しかない。さあ楽しみましょう。
書いても長い。読み返しても長い。おまけに読み難い。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっとだけお釈迦様よりお言葉を借りています。
無断拝借してすみません。でもこの話を使いたかった。
海の話が終われば・・・いよいよ一区切り。
これまで付き合っていただいた皆さま。
最後までよろしくお願いします。←懇願
ではまた次回にお会いしましょう。




