魔法少女の夏休み 10
ラグの言う通りそこにはもの凄い数の海の生き物達が集まっていた。
グロー達が到着してもまだ後から後からその光景は続いている。
「うぉ〜すっげぇ。こんなに集まれるものなんだ」
ブーアは思わず感嘆の息を漏らす。グローも大体同じような反応をしている。
それから声がする。ミアンだ。
「こっちこっち。みんなこっちにいるから。って分かるかな」
沢山の魚群の向こう側から声がする。しかしその姿はまだ見ることが出来なかった。
「そっちから見えてるのか?こっちからじゃよく分からん。どこだ、ミアン」
「ブーアこっち真っ直ぐ前見て。あたし手振ってるの見える?」
「え?どこ?・・・あっ、ああ、見えた。でも遠いな」
「早くみんな待ってる」
「分かったよ。けど、これはなぁ。なあグローやっぱティーナに代行してもらうか?」
「ブーア、さっきも言いましたけどティーナには役者不足です。何とか前に行ってみます」
「そうだよな。よし分かった。あたいに任せな。ちょっと魔法使うけどいいよな」
ブーアはグローの返事を待たずに腕輪に祈りを込めると海底の砂が魚群の間を迫り上がって、やがて砂の回廊を造り出した。その光景は神話にあるモーゼが海を割ったように魚達を両側に寄せていた。
「みんなごめんよ。ちょっと通してもらうだけだから」
ブーアは魚達に言いながらグローの為に道を開けた。
その間、魚達は口々にいろいろ言っている。
『人間だ』とか『何でここにいる』とか多分そんなには歓迎されていないだろうということが分かる。
しかし
ガイアーンの言葉を借りれば『運命ならそれに従う』抗う術なんて何もない。だから堂々としようとブーアはグローの心に語りかけていた。グローも静かに頷いて運命というものを受け入れていた。
「待たせたな、みんな」
「みなさん。お待たせして申し訳ありません」
それからブーアは後ろを振り返って道を開けてくれたみんなにお礼を言って頭を下げた。
そしたらよく分からないが拍手が起こる。魚達がどのように拍手をするかなんて分からないがそれに似た空気が流れる。魔法少女達は顔を見合わせて微笑んだ。
ラグがやって来て
「さあ着いたわ。もうすぐ長がここに来る」
「そう言えばジーアの姿が見えないけど」
「ブーア、ジーアならあっち」
ミアンが指差す方を見てみる。
そこは深い海底の行き止まりなのか、とても大きな岩の壁があり、そこだけ明かりが灯っている。よく見るとそれは自分自身で光を作りだせる者達が集まって祭壇らしきところを照らしていた。淡い光のせいか海の中だけどそこだけ浮いているように見える。そこにジーアがいた。横になって眠っているようだった。
「あんなところに。何で?」
ティーナとミアンは首を横に振る。ラグが代わりに答える。
「ガイアーンがジーアはあそこがいいって。だから私が連れてったの」
その時だった。一瞬、時が止まったような、場の空気が変わったような感じになる。そこにいる海の生き物達が固唾を飲む音が確かに響いた。
「な、何?この感じ、あたしの魔法に似てる」
「ああ、ミアンのあの魔法に似てるな」
「でもミアンがやったんじゃないんだろ」
「もち。あたしじゃない」
「長がいらっしゃったのかしら」
グローの言葉にガイアーンが答える。
「その通り。長の到着だ。みなさんあまり緊張せぬようにな」
今度は魔法少女達が固唾を飲み、長の姿を見ようと視線を凝らす。
やがて周りから歓喜の声がこだまする。どうやら長は現れたようだ。しかしいくら魔法少女たちがみんなと同じ場所を見ても長を見つけることが出来なかった。
「え?え?どこ?長はどこにいるの?ティーナ分かる?」
「私も探してるけど分からん。ブーアはどうよ」
「分からんなぁ。最近視力がめっきり落ちてな。グローは?分かったか?」
「わ、わたくしにも分かりません。ラグ、本当にいるの?」
「いるよ。あ、そっかみんなにはまだ長のこと話してなかったよね。初めてだと絶対見つけられない。だって長ってね・・・・」
「ちょっと待って」
ミアンはラグの前に出てきて、それからカードを展開した。
「どうしたよミアン、カードなんか出して」
「ティーナ、ちょっといい。っていうかあたしに任せて。あたしの魔法で長を見つけてやるんだから。いいでしょグロー。それくらいなら魔法力あんま使わないから、お願い。それに私達がホントに魔法少女だってことみんなに教えてあげたいし、ね」
グローはちょっと迷ったが決意したかのようにラグに言う。
「ラグ、わたくし達が本当は何者か。人間だけどただの人間じゃないってこと、みんなにアピールしても構わないかしら。わたくし達は魔法少女。だからここまで来ることができた」
「分かったわ。私もこの目で見てみたい。ガイアーンいいですよね」
「そうじゃな。長よ、この者達はこう申しているが構わないだろうか?」
するとジーアのいるあたりから声がする。とても霞んでいて小さい声が。
「ほほう。この子の他にも人間がいるのか。それもただの人間ではなさそうだ。面白い。その魔法とやらでワスの姿見つけるが良い」
「い、今の声って?」
「長の声ですよティーナ」
ラグは可笑しそうに話した。魔法少女達はお互いの顔を見合わせて
「ミアン、あなたの魔法に託します」
「よっし。そうこなくっちゃグロー」
「おいおい頼むぞ。失敗は勘弁な」
「そんなことしないもんティーナじゃあるまいし」
「そうだ。ティーナじゃあるまいし。頼んだぞミアン」
「ちょっとあんた達、何それ、それじゃまるで私がいつも失敗してるみたいに・・・」
ティーナがムッとしたところにブーアが肩を叩いて
「言葉の文だ。冗談に決まってるだろ」
「だからってみんなして・・・ゴニョゴニョ」
ティーナは口を尖らせてそれ以上は言わなかった。
グローがミアンに言う。
「ミアン、始めて。みんな待ってます」
「うん。じゃあいくよ。カード達、長を見つけて欲しいの、お願い」
展開されたカードがシャッフルされると同時に銀チラのようなエフェクトが周りを取り囲む。
そして一枚のカードがドローされる。
「来た!『芒に月』 満月よ、長を照らして」
満月の描かれたカードは本当の月明かりのような優しい光を放ち、一直線に長のいる場所を照らし出す。
その姿を周りにいる魚達は驚きの眼差しを持って見ていた。
「あそこ。ジーアのちょうど上あたりなんだけど・・・これって合ってるの、ラグ?」
「合ってるわミアン。長よ」
「え〜あたしまだ分かんないよ。ほんとにいる?」
「ええ。もっと近くに言ってみたら分かるわよ」
ラグに言われミアン達はジーアの近くまで泳いで近づいていく。4人の魔法少女達はジッと目を凝らす。
やがてそれぞれ視界にカードの光に青く反射する小さくて動くものを捉える。ミアンは更に近づいてその姿を確かに確認することができた。
「え???えっと・・・長・・・さん?」
するとその声を待っていたかのように『ふぉふぉふぉ』と笑い
「よ〜見つけた。褒めてやろう。そうだ、ワスが皆から長と呼ばれているキトじゃ」
更に残りの三人の魔法少女達もミアンと同じ位まで近づいてくる。そして一同『え〜!』とビックリし声をあげる。
魔法少女達の目の前にいたのはそれはそれは小さな青い色をしたエビだったからだ。
緊張気味のグローが一歩前に出る。軽く呼吸を整えてから
「は、初めまして。わたくしはグローと申します。魔法少女達のリーダーです」
「ふぉふぉふぉ、魔法少女とはいかに。ワスも長く生きとるが遇ったのは初めてじゃ」
ミアンがグローを追い越して満面の笑みをこぼしながら
「あたしはミアン。こうやってみんなと話せるのもあたしの魔法のおかげなんだ」
「魔法でのぅ。凄いもんだな、人間の力というのは」
長に関心されるとミアンは『エヘヘ』と得意そうに笑った。更にブーアがミアンの脇から
「これは人間の力じゃない。あたい達は魔法少女達の力を使うための依り代なんだ。だから人間にはこんなことできない」
「ほう。ワスもまだまだ知らんこと多いのう。おぬし、名は?」
「し、失礼した。あたいはブーアって言います。今はこんなカッコしてるけどホントはこの中で一番の年寄りで人間で言うところのおばあちゃんなんです。いつもは畑仕事とか、家の手入れとか、山に入っていろいろ採ったり・・・」
ブーアにしては珍しくアタフタとしている。ティーナはニヤニヤ笑いながらブーアの肩に手を置いて
「なに緊張してんのさ。あんたにしちゃ珍しいことだけど」
「当たり前だろ。この海の長なんだ。こんなこと一生に一度あるかどうかくらいのことなんだから、そりゃあたいだって緊張する。むしろミアンなんかはフレンドリー過ぎて見ててハラハラしっぱなしだよ」
「私だって別に緊張してないし。それより残念」
ティーナはちょっと悪戯っぽく唇を尖らせた。
「残念?何だそれ」
「だってさ」
急に小声になってブーアの耳元で囁いた。
「さっき私達、長がどんな生き物か賭けをしようとしてたじゃん。まあグローに怒られて結局流れたけど。でも私の中では続行中だったわけ。私、絶対長は大きなクジラだと思ってたんだけどな。それが外れたから残念なの。だってなぁ、居酒屋にある川エビの唐揚げに出てくるようなエビだとは幾ら何でも思いつかないだろ」
ブーアは『かかか』と笑い出した。
「ああ、そんなこともあったな。忘れてた。しかし幾ら何でも川エビの唐揚げは失礼じゃないか?こんなこと絶対グローに言ったらまた怒られるぞ」
しかし二人の会話はバッチリ長も含めグローにもミアンにも聞こえていた。
「人間はエビが好物だからの。魔法少女の皆さんはどんな風に食されるのかな?」
長の言葉にみんなドキッとする。
「あなた達が品の無い話をするから長の気が悪くなったじゃありませんか」
「わ、悪い、まさか聞こえてるとは・・・なあブーア」
「あたいはお前の話を聞いただけ。責任取れよ」
長はまた『ふぉふぉふぉ』と笑うと
「よいよい。別にそれが悪いと言っているわけじゃない。事実を言ったまで。生きるためには食べることは必要不可欠だからの。ワスは色々なエビの調理法を知っている。だから気にせんでよい。ただの興味本位だからの」
グロー、ティーナ、ブーアの三人は長にどう答えようか思案している中、ミアンはお得意の考えなしの行動に出る。
「あたしはやっぱフライかな。ウスターソースもいいけど、やっぱタルタルソースをたっぷりかけて、が最高。あ〜何かお腹減ってきちゃったかも」
「バカ、ミアン、なに正直に話してんの。すみません。まだまだ子供でして」
ティーナはミアンの頭を持って一緒に下げた。
「長が聞きたいって言ったから正直に言ったんじゃん。それってなんか問題なわけ?ティーナってさ、普段は威張ってるけど自分より立場が上の人にはペコペコしてるよね」
珍しくミアンが反撃してきた。それが意外だったのだろう。ちょっと面食らったが
「な!ミアン、私のことそんな風に思ってんのかよ。ったくこれだから子供は。いいか、大人には大人の事情ってもんがあるの。私だって一応社会常識くらいあるからね」
「ふうん。大人ってさ大変そう。あたしずっとこのままの方がいいや」
「そうはいかないのが人生だ」
ブーアが間に入る。そしてミアンの頭を撫でながら
「大人にならない子供はいない。いつかは嫌でも社会に押し出されてしまう。ずっと同じ場所に留まることは出来ないんだ」
「分かってるよ、そんなこと。あたしが言いたいのは人によって態度を変えるのが不自然だってこと。自分の人生なんだよ、自分の生きたいように生きて何が悪いのさ」
ブーアはミアンとティーナを交互に見て
「珍しいなミアンがそこまで言うなんて。しかし今は長の前だ。不謹慎な態度は控えようじゃないか。ティーナもいいな、大人なんだから」
「ま、まあな。私はただ大人ってものをミアンに教えたかっただけ」
ここで一段落かと思われたがミアンは止まらない。
「あたしが言いたいのはそう言うことじゃない。いっつもあたしやグローのこと子供扱いしてるじゃん」
「しょうがないだろ、実際子供なんだから」
「実際はそうかもしれないけど、でも、今あたし達は同じじゃん。同じ魔法少女じゃん。なんでそうやって実際の自分でいつも区別するの?あたし達仲間だよね」
「だから、ミアンは一体何が言いたいわけ?」
「ティーナもブーアもお母さんと一緒。あたし・・・ううん、鏡一郎もね、いっつもお母さんに言われてる。『もっと勉強しなきゃ大人になって困る』とか『ゲームばっかりやってるとロクな大人にならない』とかって。そりゃ大人にならなきゃ分からないことだってある。毎日毎日、太陽が昇れば嫌でも一歩進んでいる。でもさ人生の目標って何?大人になることなの?大人になりさえすれば解決するの?みんなだって大人になる前は子供だったのに大人になったらそれで終わりなの?あたしも知りたい、大人になること、それに生きることの意味。ジーアはさ、実際は大人なのにそんなこと大人になっても考えてる。あたし何となくジーアの気持ち分かるの。だから自分が大人ってだけであたしを子供扱いして欲しくない。あたしだって一人の人間なの・・・上手く言えないけど・・分かって欲しい」
ティーナもブーアも心の中では『やっぱり子供だ』と思っていた。しかしそのことをあらためて口にすることはしなかった。大人だから。
ミアンはジーアのところまで泳いでいく。そしてじっと静かに横になっているジーアの隣に座り、頭をジーアの背中に軽く押し当てる。
「ジーア、あたしもジーアの気持ち分かる。だからさ、長に聞こうよ。もし本当に答えがあるなら」
ジーアはミアンの言葉に答えるようにゆっくりと向き直ってミアンの頬に自分の頬をくっつけると
「・・・ミアン・・・私達って一体何なのかな。うん。聞こう、長に、ね」
「今って運命だよね。きっと素敵な答えが待ってるよ」
ミアンとジーアはさらに頬を寄せ合って長の言葉を待った。
やっとここまで来た。
読んでいただきありがとうございます。
長い長い道のりを一緒に歩んでいただきました。
もっと端折っても良かったのかもですが
どうにも指が勝手に・・・
これから何を話してくれるのかな。楽しみです、私も。
共感していただけると嬉しいのですが・・・
それは次回を読んでからですね。
次もお待ちしております。では火曜日。




