魔法少女の夏休み 9
「大丈夫、あたいが連れてってやる」
ジーアはただ頷く。
あまりにも急なことで周りは必要以上にシンとしていた。
ブーアはジーアの呼吸が落ち着いてきたのを確認すると
「みんな待たせたな。ジーアは大丈夫。きっと必要以上に気が高ぶったんだと思う。イルカさん達もあたい達の急な来訪のために道中を邪魔して悪かった。それで、もし本当にいいのならこのままあたい達にも同行の許可をいただきたい」
イルカ達はしばらく魔法少女達を見ている。ガイアーンが前に出る。
「さっきも言ったが運命ならワシらが拒む理由はない。行きましょう。あんたはさっきこの子の質問に対し答えはないと言った。しかし長に会えばその答えだって分かるかもしれない。保証はできんが長は随分長くこの世界を見てきているからの」
場の緊張が少しほどける。みんなホッと胸を撫で下ろした。
ミアンはいつもの調子に戻って、
「ねえねえ、長って何歳くらいなの?ガイアーン」
「こらミアン、呼び捨てはまずいだろ。すみません。まだまだ子供でして」
ティーナはミアンの頭を掴んで一緒に頭を下げた。
「よいよい。長か。確か今日で八百五十歳だったかな」
思いもよらない返答にジーア以外の魔法少女達はみんなびっくりして声を上げる。
「は、八百五十歳?」
「そんなに生きられるものなの?」
「・・・あたいより随分上だね、こりゃ。ええと何歳差だ?」
「今日で、とおっしゃいましたが今日が長の誕生日なのでしょうか?」
グローの質問にガイアーンは首を立てに振る。
「そう。これから長の誕生会があるの。今日はこの海の生き物という生き物が全部じゃないけど集まるのよ。凄いんだから」
ラグが説明する。更にガイアーンが付け加える。
「人間が参加するのは極めて珍しい。長もお喜びになる」
またまたグローたちは驚愕する。
「あの、もう一ついいですか?珍しいってことは人間が参加するのはわたくし達が初めてってわけじゃなさそうに聞こえるんですけど、もしかして・・・」
グローが言い終わる前にガイアーンが言う。
「何人かいると聞いたことがある。確か・・・前回は何百年も昔のことだったと記憶している。詳しいことは分からんが」
「もしかしてそれって浦島太郎だったりして」
ミアンは笑った。みんなも『まさかな』って感じだが何となくしっくりくる。
「『鶴は千年。亀は万年』って言葉もあるくらいだ。もしかして長って亀なんですか?」
ブーアは浦島太郎から連想して質問した。しかしイルカ達みんな首を横に振って、
「違うよ。長はね、あ、会ってからのお楽しみにしようかな」
ラグが悪戯っぽく言う。
「そうくる?うわ〜なんだろ、すっげぇ気になる」
「まあそう言うな。どうだティーナ、一杯賭けるか?」
「お、いいなそれ。ブーアは何にする?」
「そうだな、あたいは・・・・・お、おい、やっぱやめとくか」
「どうしたブーア?」
「だってなあ」
ブーアが指差す先には仁王立ちになっているグローの姿がある。
「あなた達楽しそうね。一体何の相談しているのかしら?」
「え、い、いや、ちょっとした、遊び、だよな、ブーア」
「そうそう。でもやめた」
「当たり前ですわ。長の神聖な誕生会です。その品のない行動はいただけませんね」
二人とも声を合わせて「ごめんなさい」と謝った。
「あと少しよ。さあ行きましょう」
ラグの掛け声とともにみんな一斉に移動を始める。グロー達はその後をついていく。
海は相変わらず静かで、更に深いところに進んで行く。太陽の光りは弱くなり、その先の海は漆黒という闇が濃くなっていくようだ。それでも僅かな光が魔法少女を映し出している。そして進めば進むほど海の生き物達の種類や数が増していく。みんな目指すは同じところのようだ。イルカ以外はグロー達の姿を見かけると物珍しそうに近づいてくる者もあれば警戒して距離を持つ者とその反応は様々だ。魔法少女達だって図鑑でしか見たことないような生き物達に会ってドキドキしっぱなしだった。
「おい、姉ちゃん達も行くのか?」
随分野太い声で話しかけてきたのは体長八メートルはありそうな大きなホホジロ鮫だ。もちろん話しかけられた相手はティーナだった。
「おい、ミアン。イルカ以外とも話ができるようだぞ」
「ティーナに話しかけてるんだからこっち来ないでよ」
「なんだよ、冷たいこと言うなよ。私はお前の魔法がすげぇって話しただけで何で私だって分かるんだよ」
「だってジーアが言ってじゃん、鮫みたいだって。仲間だと思われてんじゃん」
などと相手に気付かれないように小声で話していると
「何だ俺様の声聞こえないのかな?それとも俺様が鮫だからってビビってんのか?」
挑発に弱いのがティーナの悪いところで
「別にビビってなんかないし、声だって聞こえてるし」
「ほう。だったら何で無視した。人間ってのは俺様達のこと怖がるんだよ、けどたまにチャレンジャーな奴がいる。あんまり生意気だと食っちまうがな」
鮫は『二ヒヒ』と不気味に笑い、更にティーナに近づいてきた。
「ちょっと近づいてくんな。私はいいけどみんなあんたの言うように怖がってんだよ」
鮫はティーナの言葉には耳を貸さずに更に近づく。ミアンは余程怖いのだろうかティーナだけ置いて距離をとった。
「ちょっ、くっつくなよ。何なんだよお前。おいミアン待てって」
「あたし鮫嫌い。ティーナに任せたから」
「はあ?何言ってんの!ってお前、離れろって!うわ!本物の鮫肌だ。痛いっつうの」
イルカ達の群れとミアン達魔法少女はドンドン先に行ってしまう。結局ティーナは一人取り残される。
「お〜い、ミアン、グロー、ブーア、おいったら、みんな待ってよ、待てったら」
更に鮫はティーナに身体を寄せる。
「お前なぁいい加減にしろ!何なんだよ一体?」
「威勢がいいところがいい」
「はあ?何か勘違いしてないか。私はお前達の仲間じゃなく人間なんだよ。お前だってさっきそう言ったろ。だから離れろって。見ろ、みんなに置いてかれちゃったじゃんよ」
「お前は俺達に似ている。人間って分かっててもなんかそそるんだよな」
鮫にそう言われティーナはサブイボが全身を駆け巡る。
「お、同じ肌の感触。なあお前、俺達と喋れるんだろ。だったらこのまま姿も俺達みたいになっちまえよ。そうすりゃ問題なんか無い。晴れてお前は俺の嫁さんになれるってな」
ぷっち〜ん。
「誰がお前の嫁なんかになるかよ!」
ティーナは全身の熱をグングン上げていく。ティーナの周りの海水だけユラユラと揺らめきだす。鮫はビックリして距離をとった。
「あ、熱!これじゃ近寄れねぇ」
「ああ、近づいて来なくて結構。それでもまだ私にしつこくするなら、てめえを煮魚にしてカマボコの材料にしてやる。分かったらあっち行け!」
鮫は慌てて退散する。
ティーナの言葉が耳に入った魚達はもの凄い勢いで一斉に泳いでいった。当然だが『煮魚はごめんだ』とか『カマボコって何なんだ』とでも言いたそうに。
コツン!
「あだだ・・・誰だ!私の頭叩いたの。覚悟はできてるんだろうな」
ティーナが振り向くとそこには
「あたいだ」
「ブーア?何でここにいる」
「何って、助けに来てやったんだ。何をそんなに興奮してる。落ち着け。見てみろ。周りの魚達みんなビックリしてるだろ。ただでさえあたいらは部外者で警戒されてるのに煮魚なんて言うなよ。悪魔かお前は」
ブーアだと分かると少し安心したのかティーナは魔法を止めた。
「・・だって鮫の野郎が・・ゴニョゴニョ・・・だから・・・ゴニョゴニョ・・・」
「え?何だって?」
「だから、悪かったって。ごめん。魔法なんか使うことなかった。みんなにも謝る。だからこのことグローには言わないでくれ、頼む!」
ブーアは軽く『プッ』と笑う。
「らしくないな。ティーナがそんなこと言うなんて。よっぽどこの旅行気に入ってるんだな」
「そ、そりゃあ楽しくなってきたし・・・それに私、ジーアのことが心配で」
「ジーアが?」
「・・・ああ。だっていつものジーアと違ってるし、それに泣いてたし、何かすっげぇ悩みとか持ってたらさ、聞いてあげたくて。ほ、ほら私達仲間だろ。みんなで魔法少女やって、でも人間としての生活もあって。ジーアは・・特に仁さんは家庭だってあって。私達より悩むこと多いのかなって思ってさ。私だってブーアにいろいろ聞いてもらってるだろ。あれってさ、すっげぇ楽になるの。ただ聞いてもらえるってだけで。だから私でよかったら、いろいろ聞いてあげてもいいかなって。普段こっちが迷惑ばっかかけてるし。やっぱ仲間として当然かなって。だからさブーア頼むよ」
ティーナはブーアを前に手を合わせる。
「ティーナ、あたいに言わなくても大丈夫だと思うな」
「どういう・・・」
背後から『オホン』と咳払いが聞こえる。
「聞かせていただきました」
「グ、グロー・・・いつの間に?」
グローは腕組みはしていたけれど
「ちゃんとみんなに謝ること。あと、ジーアのこと任せましたよ」
「いいの?・・・あ、ああ。分かった。みんなを怖がらせたこと謝ってくる。サンキュ、グロー」
「ジーアにお礼言っとくことね。頼みましたよジーアのこと」
「ああ。任された。ジーアは私に任せとけ。じゃあ私大急ぎで言ってくる」
ティーナは肩の力が抜けいつもの調子に戻って行ってしまった。
グローとブーアはお互い顔を見合わせてニッコリ笑いながら
「寛大な心に感謝する」
「そうでもありません。ただティーナもちゃんとみんなのこと見てるんだなって。そう思うと安心もしました。それからわたくし達って一体どっちで繋がってるのかって」
「どっちって?」
「普段の人間としてか、それとも魔法少女としてか」
「やっぱりあたい達は魔法少女としてじゃないかな」
「そうでしょうか。魔法少女にならなければわたくし達は出会えなかったのでしょうか。わたくしはそうは思いません。もし魔法少女にならなくてもわたくし達はどこかで出会うのでは、そういう運命もあるかもしれません。ジーアは言ってました。魔法少女って何なのって。わたくしもずっと疑問でした。でもなってしまったのもわたくし自身の運命としたら。現実って一体何なのでしょう。ジーアがその答えを見つけてくれるような気がしてならないのです」
「長に会えば分かるさ」
「ブーアは答えられないから?」
「あたいだって長から見ればまだまだ少女みたいなもんだからな」
ブーアに笑いのツボが刺激されたのか
「(くくく)・・・おほほ・・くくく・・ブーアったら急に変なこと言わないでくださる・・くく・・」
「笑い過ぎ。グローだってあと何十年かしたら『くま』みたいになっちまうんじゃ」
「(コホン)・・・そんなこと、『有栖』にとっては果てしない遠い未来の話ですわ」
「・・・遠い未来か・・・そりゃそうだよな。ははは」
二人は声を出して笑っていると声が聞こえる。
「ん?ミアンか?」
「どうしたのミアン」
「どうしたってこっちが聞きたいよ。もう着いたよ。早く来てよ」
「着いた?」
「そう。みんな待ってるよ。グローはあたし達のリーダーなんだからいてくれなきゃ困るんだから」
ティーナも会話に加わる。
「私が顔繋いどいてやろうか?リーダー補佐として」
「勝手に補佐にならなくても良くってよ。わたくし達すぐに追いつけますから。それに補佐なんてティーナには役不足ですわ」
「何だって?私だと役不足だって?そんな風に思ってんだ私のこと」
すかさずブーアが間に入る。もうコントの一つのようだ。
「はいはい。おしまい。まったくお前達二人仲がいいのか悪いのか。それにグロー訂正だ。今の会話は間違ってる」
「どういうことですの?間違ってるって」
「こういう場合は『役不足』ではなく『役者不足』というのが正しい表現だ」
「役者不足?どう違うのですか?」
「よく考えてみな。役が不足しているということは『リーダー補佐』では見合っていないということ。つまりそれより上の役『リーダー』が相応しいと言っているんだ」
「まあ!わたくしとしたことが。まだまだ知識ではブーアには敵いません。わたくし、もっともっと勉強しなければなりませんわね」
グローはブーアに向かって笑みをこぼした。あらためてティーナに言う。
「やり直しです。補佐ですらティーナには役者不足です」
「わかったわかった。だったら早く来てよ」
ティーナは溜息をついた。グローとブーアはみんなの待つ長の元に急いだ。
今日はひな祭り。
読んでいただきありがとうございます。
小さい頃はお雛様飾ってたな。
私はどっちかというと食べ物の方が魅力でしたが・・・
三月ですね。春ですね。不思議とワクワクします。
物語もワクワクです。長はどんな話をしてくれる?(まだ出てない)
さて。白酒でも飲んで続き書こうかな。
次回もよろしくお願いします。




