やると思った
第三十三話 vs.サメ
「なんで!?なんで効かないんだよ!?」
サメは悪魔でもなければ人間でもない。魚だ。そんなただの魚が魔法を受け止めるなんてありえない。宇宙から来たからなのか?もしかして宇宙のなんちゃらパワーとかで無傷なのか!?
「レイン……お前とはもっと話していたかった」
「なんだよ、もうお別れムードなのかよ!オレが負けるとでも思ってるのか!」
「あぁ、そうだ。俺にはハコフグの宝の力と、ヌタスがライルって女の子に無理やり発動させてる魔法で守られてんだよ。ちょっとやそっとの魔法じゃ俺には勝てねーよ」
「お前はヌタスが悪いやつとは思わねーのかよ!」
オレの質問にサメはフッ、と笑う。何が面白いんだ。こっちは命を懸けて聞いてるのに。
「もちろん思っているさ。スグリって人から聞いたよ。レイン、お前が随分と世話になったカリビアってのが城に囚われてるそうじゃねーか。だが、あのカリビアはこの魔界を狙う『ノート』っていう悪い神の手下だそうじゃねぇか。お前はそれをわかってるのか?助けるのは、ノートの手助けをするってことじゃないのか?」
「ノートは関係ないだろ!それに……フローラとウィル、サニーと情報交換したときに聞いたさ。でもカリビアはそれを知らなかった!ヌタスのヤローに聞かされるまでは、軍人としての自分を悔やみ、社会のためになることを……鍛冶屋として生きていくって言ってた!それなのに閉じ込めるなんて、ヌタスはクソ野郎だ!最低野郎だ!!」
「……それがお前たちの総意か。だが、それはそれだ。ここでお前らを落とす」
「くそっ……戦闘は避けられないか……!」
サメはボクサーのような体勢のまま、右手で一発殴ろうと力を込めた。オレは翼を広げ、飛んで避ける。翼を見たサメは少し驚いたが、一歩踏み込んで次は左の拳を突き出す。もう一度避ける。次は右。避ける。……その繰り返しだ。
「やる気はあるのか、レイン!」
「ある!でも……友達になれたばかりのサメに、傷をつけたくない!」
「……っ……優しすぎるんだよ、お前はッ!」
そうだ。オレは優しすぎる。言ってしまえば、この魔界の皆がそうだろう。
サニーにもスノーにも贖罪を課さずに、家族として迎え入れた。いや、元々家族なのだが、オレたちが合流するまでに、オレたち三人はとんでもなく悪いことをした。
オレはとある街での虐殺行為。結果的な話だが、やってしまったことには変わりはない。
サニーは黒池やシフ、イリアなどを呼び込んで魔界に侵攻してきた。ノートに弱みを握られていたとはいえ、やったことは大罪に値する。
スノーはオレたちの目の前で両親を殺した。しかも生まれたてでだ。やったのはスノーに生まれる前から宿っていた呪い、『化け物さん』……今はレチタティーヴォとアリアという名前をもらっているが、化け物は化け物だ。魚を丸呑みしたりする。
そんな三人だが、罪を償ったりはしていない。それを決めたのはオレだ。
……他人に優しいのではない。もしかすると、オレが『贖罪する姿』から目を背けたいから、オレはオレのために優しくしているのかもしれない。
しかし魔界にもイレギュラーな奴は存在している。吸血鬼リメルアやヘラだ。
吸血鬼は、あまり周りに干渉しないのが多い。むしろ人間界の子供に手を出すことがあり、その人物の人生を大きく変えることもある。黒池やキリルが被害者だ。だが、何かの心変わり、頼まれたりして手伝ってくれることもある。それがリメルアだ。しょうがないわね、と手伝ってくれるのだ。
一方、厄介なのはヘラみたいなタイプ。自分がやったことを理解し、自ら贖罪しようとする奴だ。止めようとしても『今やるべきこと』と定めているので止まらない。そして今のヘラは『ムジナを守ること』を実行しているのだが、それが揺らぎ始めている。反動で暴れ出さないといいのだが……。
「優しさで……悪魔なんかできるもんか……っ!」
「じゃあ何で!」
「オレは……オレは逃げるだけの悪い子だ!悪いから……悪魔でいられる!呪術ができるだけなら人間と同じだ!」
「意味がわからない!」
「わからないだろうな!オレもわからない!だけど……だけど!オレはその答えを出した!行くぞ、サメ!お前の考えを改めさせてやる!」
オレは駆け出し、レイピアに魔法をかける。
……心を込めて。
叩きつけるように振り下ろしたレイピアを、サメは拳で受け止めた!オレはヤバい!と後ろに数回飛んだ。
「ぐっ……何だよ、それ!」
「マジックアイテム……ちょっと変わったメリケンサックだ。残念だったな」
「メリケンサックぅ!?」
メリケンサックって人間界の武器だろ?なんであんなに魔力が渦巻いてるの?
「それどこで見つけたんだよ……」
「前から持っていた。レジスタンス時代からな」
「魔力って宇宙にもあるの!?」
「このメリケンサックだけがおかしいんだろ」
「納得できない……」
とにかく悪魔以外が魔力を持つ物を持っていると、何かと問題がある。早く倒して引っぺがさないと。
地下でヘラに宇宙の話を聞いた。サメはかなりの戦力で、兄貴肌、頼れる、運動神経抜群、すごい動体視力、見られるだけで動けなくなるなどという怖s……強さを持っているそうだ。
「俺が倒せるか、レイン!!」
「当然!オレたちの邪魔をするって言うなら、たとえ仲間だろうと、オレは容赦しない!」
「来いッ、レイン!!」
「うおおおおおおっ!!」
腕が変な方向に曲がろうと、肩がつったとしても、オレはレイピアに魔力を込めることも、突き刺すことも微塵も手を緩めない。
「これが……オレの……覚悟だッ!!!」
サメも右の拳を全力でこちらにぶつけようと、肘を引いた。
そして、二つがぶつかり合う時が来た。
レイピアの切っ先はサメの頬を切り裂き、サメの拳はオレの頬を熱く焼いた。
直後、空気を震わすほどの衝撃波が遠くで戦っている仲間たちの方まで届いた。
大地は怒りに震え、草木は悲鳴を上げる。結界までもが身をそば立たせた。
「……」
「……」
「どうして手加減をした」
どちらとも取れない低い声が響く。
それは誰も聞き取れない。なぜなら、衝撃波の爆音のせいでここにいる敵味方全員の耳が麻痺しているからだ。
「それはこっちのセリフだ」
金色と銀色の髪が光を反射して輝く。
互いの足元では、赤い水溜まりがポタポタと時を刻むようにその身を拡大させていった。悪魔と宇宙人の血が混ざりあっていく。
オレたち二人は、一瞬たりとも目を逸らさずに睨み合っていた。しかし、憎むような目ではない。互いの健闘を称え合う目をしていた。
「嘘だな。お前の力じゃ、いつかは限界が来るだろ……サメ」
その言葉に、サメは目を見開いて閉じた。
ふ、と笑ったその頬には血がつぅ、と流れている。
「……チッ、バレてたか。さすが『悪魔サマ』だな」
「偽物の力じゃ、本物を持つ悪魔には敵わない……それをわかってオレに戦いを挑んだんだろ」
「お前になら勝てる自信はあった」
「よく言うぜ」
オレはレイピアを地面に置き、あぐらをかいて座った。手を体の後ろに回し、体重をかける。「はぁ~……」と空を見て深呼吸し、首だけサメの方に向けた。
上を向いた時に血が首の後ろへと回っていったが、気にしない。
「何やってるんだよ。ここは仮にも戦場だぞ」
「お前の一撃、よく効いた」
「!」
「もう一発受けてたらひとたまりもなかったと思う」
「……あれが俺の全力全霊だ。今の俺では悪魔のお前を半殺しにしかできない」
「でも半殺しにはできる」
「レイン……」
「……サメ。それでもヌタスの味方をするのか?本当にお前はあいつの言いなりになるのか!?あいつには、サメを縛りつける権利は無いだろ!」
サメに詰め寄りながらヒートアップしたオレは、いつの間にか立ち上がっていた。
サメは驚いてたじろぐ。
「ぅ……それはわかってるが……勝てない限りは何を言っても同じだよ……」
「なら言うだけじゃない、やってやるんだよ!!力を見せつけるんだ!襲われたときは一人だったんだろ?でも今はオレが……オレたちがいる!みんなでヌタスをやっつけて、カリビアを助け出すんだ!!」
オレを半殺しにできる男が勝てない相手に向けて言っている。無謀で無駄かもしれない。でも……でも、カリビアが助けを求めてる。求めてなくても、絶対に助け出す!それが部屋を貸してくれたカリビアへの恩返しだ!
「ヌタスなんかに、怯えている暇なんて、ない!!サメ、助けたい命があるなら、守りたい命があるなら、自分で動け!宇宙で何があったか知らないが、ここは魔界だ!奇跡でしか勝てないなら、魔法でそんなお約束をねじ伏せる!!わかったか、サメ!!!」
げほ、げほと噎せる。叫びすぎたようだ。
ちら、とサメを見る。
歯を食いしばり、足元を見ている。その顔に一瞬ゾワッ、とした。蛇に睨まれた蛙、とでもいうのだろうか。血の気が引いた。
この目はきっとヌタスに向けてなのだろう。とても恐ろしい、ハンターの目だ。
「……その……言い過ぎた。ごめん」
「いや……レインの言うとおりだ。俺はただもう一度負けることに怯えていただけなのかもな。次負けたら本気で殺される……そう思ってのことだろう。その時はムジナにでも魂が拾われるんだろうよ」
「そうはさせない。みんな一緒に帰る」
「レイン……そうだな。奇跡を……魔法を信じよう」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




