ユーリ教授
第二十八話 植物研究家
「うおっ!」
「っと」
「ふぎゃ!!」
俺、ムジナ、レイン、月光、ろくろ首、そして桜花は上空から地面に落下した。
風を巻き起こしたのは無奏だ。その本人は……。
「はっ!無奏は!?」
「……あいつは満足して逝った」
「えっ?逝った……って……」
「……もう聞くな。死神のお前ならわかるだろ?……桜花、本当に良いんだな?」
「ええ。あれが無奏の選択なら……私は止めない。否定するなら、それは無奏の意思をバカにすることと同じだから……」
……予想外だったが、桜花は冷静だった。
元は人間だったと聞いた。なら、妖怪である無奏が死ぬのは彼女にとって朗報なのだろうか……。
「よくわかってる。……まずは月光のために建物の中に入ろう。引きずるぞ」
「キミ!もうちょっと老人を労ろうとは……いてててて!」
「月が出てないお昼でよかったねー!」
近くにパン屋があったのでそこに入った。
無邪気についてきたムジナはパンに目を輝かせている。
「……ん。おっ?レインじゃないか」
「キリル!」
先客がいたようだ。俺もよく知っている人物だ。彼はロシアの警察で、皇希とは同業者という間柄だ。中二病寄りの彼は人間界よりこっちのほうが気に入ったらしく、居座っている。
「どこ行ってたんだ?一ヶ月も姿を見せなかったから心配したんだぞ」
「地下に行ってたんだ。サニーから聞かなかったのか?」
「いや……まず地下なんてあったんだな」
「知る人ぞ知る危険地帯だから……内緒にしててごめん」
「待て待て!普通にスルーしてたが……一ヶ月も経ったのか!?」
一ヶ月も経っていたなんて、下手すればカリビアさんが餓死してるんじゃないか!?いや、あの人は五年くらい寝てたし問題ないのかも……?
「時間の流れが違うからな。時間が必要な妖怪とかが棲みつくにはもってこいの場所だろ。な?ろくろ首」
「そんなこと言って!おねーちゃんを引き剥がそうとしたって無駄よぉ」
「もおおそうじゃないいいい」
この二人は置いておいて良いだろう。ブレないな、ろくろ首……。
「って、それより、そ、その『ジャパニーズYOUKAI(妖怪)』は!?」
「なにそのジャパニーズYOUKAIって……。腐れ縁ってやつだよ。悪いやつじゃない。保証する」
「保証!?うふふふ、これは結婚するしか____」
「それはないって」
「……」
「とりあえず俺の家に行こう。一ヶ月経ってもムジナの家はダメだろ?」
「だと思う……」
……と言っても、ここは地図で見ると真ん中よりちょっと西の街。最も南東に位置する俺の家に行こうとすると、テレポートくらいでしかヌタスやヘッジさんたちの目を掻い潜って移動することはできない……。
だが、今俺はほぼ満身創痍だ。魔力が……ない。
「こんにちは。君たち、お疲れのようだね」
声が聞こえた。
誰だ、と振り返ると、レジに向かっていた人が話しかけてきていた。その手には買ったばかりのパンがある。
白い髪の優しそうなお兄さんだ。眼鏡をかけており、バルディのような上質な服を着ている。というか本当に髪型と服の色を除くとバルディの色違いみたいだ。いや全く関係のない別人だろうけど。
「申し訳ないですが、会計をしながら話を盗み聞きしていました」
「……いや誰?」
「申し遅れました。私はユーリ……植物研究家です。みなさん、私の家で力を回復してはいかがでしょうか?なに、寮も営んでおりますので、取って食いやしません」
ユーリと名乗ったお兄さんはペコリと頭を下げた。
植物研究家。珍しい職業の悪魔がいたものだ……。
「教授……ってやつか」
「はい」
キリルが腕を組みながら呟く。
「教授なら怪しい人ではなさそうだ。信用しても良いと思う」
「学者さんなのね」
「ねーねー、お花畑作れる?!」
「あ、あはは……作りはできないけど守りはできますよ」
「わーい!」
……皆はそう言うが、俺は違った。一抹の不安を抱えている。あの笑みの裏に、絶対に何かを隠しているはずだ……!
「……」
「ヘラ?」
「……レインは加わらないのか」
「ろくろ首が離してくれないからな。なんか怖い顔して……ずっと掴まれてるんだ」
「ふーん……どうしたんだ?ろくろ首」
「……。私はあなたと同じ考えよ、ヘラ。気を抜かないで……あれはただの悪魔じゃないわ……」
耳打ちされた内容に、俺は目を丸くする。
「ろくろ首……お前……」
「どうも嫌な感じがするの……」
__________
「おおお!」
どこを見ても本、本、本!!
首を垂直に曲げないと天井が見えない。
綺麗に本棚に並べられた本は、どれも植物関連のものだ。しかも太い。
……ここはユーリの書斎。とりあえず体力は回復しておきたい。もしもの時のためにサニーに連絡しておけ、とろくろ首をサニーの元へと向かわせたのだ。
え?ろくろ首はサニーのこと知っているのかって?……。どうやら、オレのことを調べ上げていたようだ。まぁあいつのことだ。当然と言えば当然だろう。
書斎は大都市エメスにある何の変哲もない一軒家の地下にある。さっきまでいた地下と同じくらいの高さがあるんじゃないかと思ったが、あそこは『ワープホール』を経ての地下だ。まさに雲泥の差と言える高低差だろう。
ちら、とヘラを見る。嫌な予感はしていたが、ヘラは大量の本を見てテンションが上がっている……。
「ここからここまでが種についての論文で……あそこからこっちまでが枯れたあとの論文です」
「縦も全部?」
「はい」
「やば」
なにが「やば」だよ。JKみたいな反応すんな。
「飲み物を入れてきます。暫しお待ちを。読んでいても結構なので。では」
そう言ってユーリは書斎を離れた。地上階の台所にでも向かったのだろう。
この地下書斎に行く前に少しだけ部屋の中と外観を見たが、植物研究家というだけあって草だらけだった。……いや、雑草じゃない。しっかりと手入れされた草花だった。
「お花畑の論文あるかな~」
「こんだけあるなら一つや二つあってもおかしくないだろ」
「ムジナ、持ち上げてやろう」
「月光!おさわり禁止だ!!」
「うわー変態ー」
「……現行犯……」
桜花まで一緒になってふざけている。
緊張感がないとは言い切れない。なぜなら、今ここにいるメンバーでユーリに警戒しているのはオレとヘラだけなのだから。
「あった!なになに?『花畑になるための繁殖効率、メカニズムは』……ん???」
「なんか……よくわからないな」
「……つまり適切な環境で、人の手が加えられてない場所だろ」
「レイン!」
「お前ってそんなに賢かったっけ?」
「何回か言ってるかもしんないけどよ、呪術師は物知りじゃないとダメなんだ」
「物知り……」
「レインが、なぁ……」
「な、なんだよ、その目は!」
つくづく失礼な奴らだ。
「これがロシアの草花だ。こんなところにロシアの植物の本があるなんてな。しかも文字までバラバラだ」
「桜……懐かしいわね」
「四つ葉のクローバーのことまで書いてるんだな」
キリル、桜花、月光はそれぞれ本を開いて読んでいる。この人たちの本はどちらかというと図鑑なのだが。
「お待たせしました。紅茶にしましたよ」
「わーい!」
「こぼさないように気を付けないとな……」
「あ、問題ないですよ。もしこぼしたとしても、自動的に綺麗になりますから」
「最近の本、すごいな!?」
「たぶん魔法かと……」
「なーんだ」
なーんだっておい。魔界に毒されてきてるじゃないか?この警察官。
「……」
ユーリがいるうちに観察しておく。
……白い髪に、悪魔特有の赤い目……そして悪寒。オレはこんなやつをどこかで見たことがある。
確か……確か……!
「うわっ!変な味!!」
オレが思考の渦にのまれそうになったその時、ムジナがすっとんきょうな声をあげた。
「これは……相当だな……」
さすがのヘラでも微妙な顔をしている。いや……料理がプロってるヘラだからこそなのだろう。何が入っているんだろうと覗き込んだ瞬間、ユーリに白い陶器のカップを引ったくられた。
「申し訳ありません。淹れ直してきます」
「いや、俺が行こう」
「いえ、大丈夫です」
「……そ、そうか」
そうかじゃない!部屋の中を見るチャンスだっただろ!?
……と言おうとしたが、何を企んでいるのかがバレるのでやめた。前までのオレだったら耐えられていないだろう。絶対。
なので、ユーリが部屋を出てからムジナに話しかけた。
「うえ~まず~」
「ムジナ」
「なーにー?」
「何が入ってた?どんな味がした?」
「え?……なんか、血みたいだった……」
「ビンゴ……!!」
「え?え??」
「ありがとうな、ムジナ!これで確定だ!!」
「え、ええ?」
ムジナの背中をバシバシと叩く。
そして怖い目で見てるヘラの方へと向かった。
「おい……」
「それよりヘラ、あいつの正体がわかった気がするぜ」
「本当か!?」
「あぁ、お前がふざけて遊んでる間にオレは頑張って考えたさ……」
「ごめんって」
ユーリがいないかどうかを確認し、ヘラの耳に近づいた。
「……ユーリ、奴は……お前の大っ嫌いな吸血鬼だ。リメルアと同じ種族だ……!!」
「なんだと!?」
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




