それぞれの自己犠牲
第二十七話 火雨家
「おい、黒池!」
「ぅ、うぅ……」
冷たいタイルの感触がする。
聞き慣れた声がする。これは……師匠の声だ。
僕は……死んでしまったのか?だって、師匠は獅子ヶ鬼剣一さんで……。
「いつまで寝ているッ!」
「ぐえっ!?」
鞭で叩かれ、思わず目が覚めた。
バシィンッ!と体とタイルを叩く音で歩いて行く人たちがこっちを見る。
ここは……コンクリートがある……ということは、現代に戻ってきた?桜花さんは?白鬼はどうなった?
「師匠……師匠ぉっ」
「な、なんだよ……もう。こんなにボロボロになって……いつの間に戦ってきたんだよ?」
ぼろぼろと涙を溢しながら師匠に抱きつく。
それよりボロボロって……?
「え?……あっ!クロガネ!」
「クロガネ?」
「はい……実は……」
僕は江戸であったことを全て伝えた。
僕の剣が壊れてクロガネに変えてもらったこと、面狐さん、昔の師匠に会ったこと、そして桜花さんのこと、白鬼のことを。
僕の剣がクロガネに変わっていることから、あの出来事は夢ではないことを証明している。
「……なるほど。お前だけ江戸に飛ばされたと」
「はい……タイムパラドックス、起こってませんか?例えば……いつ僕のことを知ったのか、とか」
「……。起こっているな。確かにお前のことは面狐の家で見た。だが、お前との出会いにはそこまで影響はない。安心しろ」
「そうですか……わかりました。あの、師匠、白鬼と桜花さんの家のこと……ご存知ですか?」
「もちろん。面狐がいつも言ってたからな。『また白鬼が現れたようだ。今回も火雨家が追い返してくれるだろう……だから安心しなさい』って」
「……。桜花さんは、あの白鬼の……乗っ取られた人のことをお兄さんと呼んでいました。……師匠なら事情をご存知なのではと思いまして……」
「……あぁ、知っている」
師匠は駅のベンチに座り、僕も隣に座った。まだ足が腫れている……。でも眠っていたからか、少しだけ楽になった。キツく結んだ靴紐のおかげだろう。
「火雨家は昔から鬼、妖怪退治のスペシャリストでな……。あの日も変わらず追い返していた。だが……病弱な人間がいると知った白鬼は、その男に呪いをかけて乗り移った。体が弱いからな。人格が消え、髪は白く染まり、体だけが残されたんだ。最後に、火雨桜花に言ったのは……『桜花……お前の手で私を殺せ』だったそうだ」
__________
「……私が鬼となってもなお、あまり殺さず、早く終わらせて欲しかったのはそのためだ……」
……優しい心を忘れないように。
それが桜花が俺たちに反撃しかしなかった理由……。
「これを受け取れ」
桜花は、座っていた椅子の後ろに向かった。戻ってくると、その手には剣が……あれは……。
「皇希の剣!?」
「わっ、黒池さん、ここに来たの?!」
「『ドラゴンソウル』……今までその名前を知る者はあの不思議な男しかいなかった。私と出会ったときに彼の剣は砕けた。そして新たな剣を手に入れた。私は白鬼に鬼にされたあと、鍛冶屋に戻り、刃こぼれしていたこの剣を盗み出し……修理した。一度しか使えないだろう。ここぞというときに使え」
皇希の剣を受け取る。
魔力は全く感じないが、皇希の優しさだけは伝わってきた。これを持っていると、保護者並みの安心感を得られそうだ。
「ありがとう」
「……」
「納得いかないのですか、無奏」
「当たり前やろ。桜花様にこれまで騙されてきたってことやで」
「……そうですね。……予定とは少し違いますが」
「え?」
イカヅチが前に出る。
完全に油断していた俺たちは、反応することができなかった。
「本当は戦って弱体化したところを狙いたかったのですがねぇ……桜花様、まさかこのことも見越していたのですか?さすがですね」
「イカヅチ……?何言っとるんや……」
「桜花様……いえ、憐れな娘よ。その力……貰い受ける!」
イカヅチは何かの札を取り出し、掲げる。それを見たレインは目を丸くした。
「それは!」
「アメルの人間たちに頼まれて火雨桜花という鬼をこの場所に縛り付けたのは、お前の両親ですよ、レイン・ラプル。そんなあなたならわかりますよね?」
「どうしてお前がそれを持っている!それは……それは父さんと母さんの……『禁呪・封力/転力』!ダメだ、それを使うな!」
「もう遅い」
全てを飲み込む黒を吐き出す札。
俺はムジナと共に桜花を庇うように前に出るが、あの札は場所など関係なく力を吸い取ろうと量を増していった。
「う、あ……きゃああああっ!!」
「桜花!」
「桜花さん!」
桜花はみるみるうちに黒に包まれ、片膝をついた。
無奏がイカヅチを羽交い締めにするが、レインのような防御の魔法を使い、無奏も行動不能に。
まさかこんなことになるなんて思っていなかった。イカヅチのことは怪しいと思っていたが……裏切るなんて!
「あっははははは!これが火雨桜花の……いや、白鬼の力!呪いに満ち溢れている……!」
「レイン!あれ、何だよ!」
「『禁呪・封力/転力』……あれは裏と表で力を封じたり、相手の力を奪って自分の力にしたりできる、チート級のリバーシブルアイテムだ……。父さんが言ってたよ……どうして一度に両方使えるようにしてしまったんだ!ってね」
「本当にそうだよ!分けろよ!」
一生懸命に桜花の背中をさすっていると、震えも無くなってきたし、黒も薄まってきた。だが、これは力が吸いとられるのも佳境になっていることを示していた。
「もう地下に用はない……残念ですが、ここでさよならです!」
「あっ、おい!待て!無奏、何とかしろ!」
「ダメや……この術は強すぎんねん……!触れたら死や!」
「ああっ、もう!ムジナは!」
「呪い嫌ぁ~い!!永遠に呪われるなんてやだよ!」
「だああ、もおお!そうだった!……くそっ!」
俺も立ち上がろうとしたが、疲れが祟って立つことすらできなかった。桜花の元まで歩けたことが奇跡だ。
「では……これにて!面白いものを見せてくれたお礼に、あなた方には『死』をお贈りしましょう!」
「はあ!?」
イカヅチがパチン!と指を鳴らした直後、ゴゴゴゴゴ!と地面が揺れ始めた。
まさか……崩壊させるのか!?ここを!?宇宙といい、地下といい……何で俺たち、崩壊オチが多いんだ!?
「あわわ、あわわわわっ!逃げないと!」
「落ち着け、ムジナ!……でもまぁ実は俺も内心焦ってる。どう戻るのかがわからないからな!」
「二人とも、月光のこと忘れてないだろうな?」
「「あっ」」
忘れてた。
「……一度崩壊しても、廻貌の力で戻る……。でも……崩壊は崩壊。ここにいたらみんな仲良く下敷きに……げほっ」
「桜花!立ってはダメだ!」
「いいの……私が悪いのだから……」
「桜花……」
「一度崩壊したのは知ってる?……クリスタリオならわかるはず」
「……。壁に埋まってたのって、そういう?」
「……」
クリスタリオは答えない。図星なのだろう。
「とにかく、月光を回収してここから出よう!」
「逃げる算段はあるの?」
「当然!」
「途中で回収していくなら、私と同行した方がいい。私には地下のどこにでも行き来する権限がある」
「よし、それで行こう!……無奏、それでいいか?」
「……なんでや。なんでこっちに聞くんや……敵やろ……なら放置した方がええんとちゃうんかいな?」
「無奏も戦い終わればっ、ほらっ、仲間!な!」
「おぉ~」
いや、おぉ~じゃないぞ、ムジナ。
あと無奏の場所がわかってちょっとドヤるんじゃない。
「話は終わった?行くわよ」
「桜花」
「何?」
「……その話し方のほうが、桜花らしくていいと思う」
「……!……ふふ、ありがと」
「行こ!楽器がある部屋だよ!」
「あぁ、そうだな。頼む、桜花」
「えぇ。……無奏」
「自分で行けます」
「わかった」
桜花が刀を地面に刺す。
すると、薄ピンクの光が辺りを照らし、その光はどんどん強くなっていった。
「うわっ!」
目を開けると、教会のような広間に着いていた。
ピアノ、そして見覚えのある……。
「うえぇっ!?出た!急に出た!」
「月光さん!」
「ムジナ、ちょ、突っ込んで____ぐへっ」
ムジナが月光に突っ込んだ。結構年を食った月光の体がグラつく。
「逃げるよ!」
「逃げるってなんで……それに、あれは____」
「そんなのどうでもいいから!みんな、手は繋いだ?」
「あぁ、大丈夫だ。月光、説明してる時間はない。とりあえず地上に帰るぞ」
「地上だって!?」
「事情はわかってる。だが、ここにいると瓦礫で死ぬぞ!」
「……わかった。やってくれ、ヘラ。……って、廻貌は?」
「問題ない」
廻貌は恐らくクリスタリオと同じように死にはしないし折れもしないだろう。
まずこの地下のサイクルに廻貌が必要だからだ。
「いくぞ……!」
テレポート、発動。
どこかに引っ張られる感覚がする。いつもは何も起こらないのに。ペナルティってやつだ。
……ハッと、我を取り戻すと、そこは入り口の林の中だった。成功だ!……だが、こんな大人数のテレポートだ。俺の体力、魔力ともに限界を迎えていた。
「っぐ……!」
「ヘラ!」
膝をつく。頭がグワングワンして、喉も乾いた。そういや何も飲んでないな……。
「大丈夫だ……さぁ、出よう」
「うん……で、どうやって出るの?」
「……」
「……」
「…………。」
「いや、考えてなかったの!?」
「ノープランだ」
「えええええ!?」
「叫ぶな……頭に響くだろ……」
「ご、ごめん」
何も考えていないのは本当だ。……何か……何かヒントがあるはずだ……!地下から無理矢理外に出る方法が……!!
「なんや、困っとんのか」
半笑いで黒い翼を羽ばたかせて舞い降りたのは無奏だった。
「無奏!お前、先に行ったんじゃなかったのか?」
「桜花様を見届けてから行くつもりやったんや。それより、上に行かれへんのか?」
「誰かさんに削られた魔力のせいでな!!」
「おおこわ、そんな怒らんといてーや」
「怒りたくもなるわ!……いや、待てよ?無奏……こいつのせいで俺のヨジャメーヌは折れたんだよな……?」
じっと目の前の天狗を見る。無奏は気味悪がって後ずさった。
「な、なんやねん……」
「……無奏!」
「なんや!?」
「俺たちに、風を……俺たちを吹き飛ばしてくれ!!」
「はあ!?」
「廻貌を大空に飛ばせたんだ、地上までくらいならいけるだろ!」
「いや、いけるけども……」
「頼む!生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ!!」
「ヘラ……」
この通りだ!と座ったまま頭を下げる。皇希に教わったんだ。頼むときはこうしなさいって。ムジナが心配そうに見てくる。確かに俺らしくはない。でも……こうでもしないと。これで無奏が折れてくれなかったら、みんな仲良く下敷きになって死ぬだろう。
「なんでお前がその頼み方知ってんねん……。……わかった、わかったわ!顔、上げ!口は閉じろよ。噛んでも知らんで」
「やった!ありがと!」
「……無理して笑うな。疲れてるなら寝とき。全員纏まっとれ。……いくで!」
俺が立ったのを見たあと、無奏は天狗の葉っぱを取り出して一度だけ扇ぐ。それは竜巻を作り出し、俺たち全員を巻き込んだ!
「んんん……!」
無奏の言う通りに口を閉じる。ムジナの方を見ると、目を瞑って手で口を押さえていた。
「……っ」
薄目で下を見る。
崩落は、もうすぐそこまで迫っていた。
無奏は……動かない。
「無そっ____むぐっ」
口を塞がれる。
塞いだのは月光だった。
「……」
「ん、んーっ!」
月光は目を閉じ、ゆっくりと首を左右に振った。
……諦めろ。
そう言っているかのように。
「……はは……もう見えなくなっちまったな」
無奏が呟いたように見えた。
「いつも『強いやつは俺のことを無視する!火雨サンもそうやし、ノートもそうや!死神、お前もそうなんやろ!?見えないふりをする!弱いもんはいらんってな!』って思ってた。そんな目でムジナを見てた。……でも違ってんな。……ムジナは……こっちを見る努力をしてくれた。それだけで……嬉しかってん。ありがとうな。俺は……最高のまま、死ぬわ」
無奏の黒い翼が光となって消えていく。
その表情は遠すぎて見えない。だが……消え行く光は……悲しげに、そして誇らしげに見えた。
どうも、グラニュー糖*です!
現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!
こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。
本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!
なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!
ではでは〜




