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第7話 帰還

一話抜けておりました。すみません。

冒険者ギルドへ戻った。

クエストの報告はしなくてはならない。特に、今回は異常事態が多すぎた。


「…水たまりダンジョンに、エレメンタルが!?」


受付が小さな声で叫んだ。

慌てて口元を抑える。

周りにそう聞かれていい話ではない。


「トーテムと衝突していました」

「そ、祖霊が?…その、トーテムは、どこへ行ったのですか?」


ノクスはちらりと受付に気づかれない程度に横を見た。

アッシュが、こちらをガン見していた。


「…どっか行ったみたいです」

「…そうですか」


ノクスをあっさりと受付は信じた。

「トーテムは巡るものですからね・・・ああ、守ってくださってよかった」


ノクスは小さくため息をついた。


「…疲れました……」

「お疲れ様です」


受付が苦笑いする。


「大変でしたね」

「乾季が悪化しそう」

「…雨季、早く来るといいですね、ノクスさん」


ノクスはふらふらと帰宅した。

中古の賃貸の一戸建て。

奨学金は苦しいが、付与術師として道具とかの手入れ用のスペースが欲しくて、ここにした。

設備はしっかりしてるのに、いわくつきのおかげで意外と安く借りている。


「…ただいまー…」


一人暮らしで誰もいないのはわかってても、玄関をあけるといつもこの言葉が出る。


「おかえりなさーい」


さっきまで一緒に歩いていたのに、いつの間にか中にいたアッシュが返事をしてくれた。


「ぶふっ」


思わず吹き出す。


「どうした?」

「いや、なんか、面白かった」


ノクスは口元を抑える。

トーテムが不思議そうな顔をして、首をかしげていたが、すぐにくるりと身を翻した。

「わーい、おうち!おうちだ!」


トーテムは元気に家の中へと駆け込んでいった。

廊下できょろきょろしたーかと思うと、一つのドアに向かって吸い込まれるように消えていく。

流石実態を持たない祖霊というべきか。


「ちょっと!こら、人んち勝手に探索するな!」

「おっとこっちトイレ?」


トーテムが消えていったドアとは違う方向から声がする。


「突き当りの部屋にいろ!人んち勝手に覗かない!」

「はーい」


ノクスは溜息をついた。

ブーツを脱いで、玄関から板張りの床へと踏み出す。

かつて東方の蛇のトーテムをまつるクランが居住に用いていた、靴ではなく裸足が基本の家の構造だ。


突き当りの部屋はリビング。

ドアを開けると、そこにはトーテムが待っていた。

ちょこんと椅子に座っている。

座っているように、見える。


「やあ。やっぱりおうちはいいね!」


トーテムがテーブルに肘をつく。


「俺も人間だったからおうちの良さはわかるよ」


ノクスは軽く目をみはった。


「人間だったのか?」

「どうだろうね?」


曖昧にトーテムが首を傾げた。

自分で言ったくせに。


「どっちだよ」

「どっちでもいいよ」


ノクスはアッシュの対面の席に腰をおろした。


「…あの、今日はありがとう」

「ん?いいんだよ、トーテムは人の子を守るもの」


金色の瞳が柔らかく細められた。


「火のエレメンタルなんて俺が特に最も人の子を守るために戦わなきゃいけない敵だからね」

(…いろいろ、あったんだろうな)


アッシュは500年前の戦争の歪で生まれたと自分で言っていた。


(…すごく人間をいつくしんでる、みたいな気がする)


人の子、という言い方とか。


「でさ。俺って恩トーテムだよね」

「ん?」


人の子を慈しんでいたトーテムの口調が変わった。

何だか嫌な予感がした。


「恩トーテムだよね?」


半透明のトーテムが、ずいとテーブルに乗り上げて迫ってくる。

圧のある笑顔。


「やめろ。行儀悪い!」

「あはは。ごめんね。でももう一個お願い聞いてほしいんだ、人の子。いや、ノクス」


アッシュが続ける。


「あのね。能記だけじゃちょっと危ういんだ」

「何が危ういんだよ」

「他のトーテムどもに『人間に世話をさせてる』って思われちゃう。ぼこぼこにされるかも。だから関係儀礼が一個ほしくて」


アッシュが苦笑いした。


「…関係儀礼、ね」


付与術士学校にいたころに学んだーいやそれ以前の。

故郷の記憶を思い出す。


(-ノクス。人は今や技術に染まり切った。我々こそが、真の祖霊のー)


思い出すだけで、重苦しい気分になる。


「…どんな、儀礼だよ」

「恋人になって」

「!?」


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