Osb.13:ベクトルの迷子なのです!――逆流する飛沫、消失する重心
【場所】クライン・ヴォイド・サンクチュアリ・中央連絡路
視覚優位係数αが臨界点にある通路。足裏に感じる硬い感触と、視界を支配する「垂直の壁」が脳内で激突している。
新平
「(激しい呼吸)……はぁ、はぁ……。壁を走っているのか、床を這っているのか、もう分からない。ただ、汗が『上』に向かって流れて目に入る。……痛い。どうして、液体の流れる方向すら僕を裏切るんだ……!」
アリシア
「慣れてください。あなたの三半規管が、私の定義したベクトルと喧嘩をしているだけです。その乖離が、時給以上の価値を生みます」
咲姫
「サクッ!見てください、新平。逆流する滝の飛沫が、あなたの頬で『虹色の層』を作っている。物理を裏切り、重力を置き去りにしたその絶望顔。……至高なのです!」
【逆流のパニック:うさちぁんの終焉】
うさちぁん
「ひぃぃ……!お酒が……!樽の底にあるはずのお酒が、空に向かって盛り上がってるよぉぉ!飲めない!追いかけても、お酒が逃げていくんだよぉぉ!!」
果林
「うふふ。うさちぁん。この区画では、欲望の向きが重力を上書きするんです。もっと強く願えば、お酒の方からあなたの口に『落下』してくるかもしれませんよ?」
うさちぁん
「もうやだぁぁ!物理が意地悪だよぉぉ!!」
【放送席(垂直移動中):未生の執着と猫二の悟り】
未生
「(カメラを喉元に固定し、壁と並行に浮かびながら)先輩……!逆さまの先輩が、私のレンズに吸い込まれてくる……。上下が消失したこの世界で、先輩の『存在』だけが私の唯一の重力ですぅぅ!!」
猫二
「にゃ……。……あ、今、僕の尻尾が『上』に向かって落ちたにゃ。……だめだ、考えるのをやめたにゃ。僕は今、無重力のプリンの中に浮いている種にゃ……(意識消失)」
琴子
「……聞こえる。重力が捻じ切れる時の、金属疲労のような音。……『ファ』のシャープ。……不快だけど、この不協和音がこの街の『心音』なのね。」
咲姫がレンズを向ける先では、重力を失った水滴が空中で結晶化し、新平の悲鳴と共に「クラインの壺」のような歪んだ軌跡を描いていた。
出口のない、あるいは入り口しかない通路。逆流する滝の向こう側に、咲姫は「誰も見たことのない青春」の断片を捉える。
咲姫
「サクッ!全員、ベクトルの迷子を『楽しむ』のです!!」
(Osb.14へ続くのです!)
咲姫はどのような状況であっても楽しむ天才です。




