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大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第七章 かりそめの太平

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第63話 世直し仕置人、見参!




「ぐっへっへっへ……。

 紀州屋、おぬしもなかなかの悪よのう?」

「ひっひっひ……。

 とんでもございません、お代官様ほどでは」

「そこまでだ!」

「なにっ!?」

「黙って聞いていれば、ご禁制の品を抜け荷とは……。いい度胸だな!」

「何者っ!?」

「誰かと問われたら、答えてあげるのが作法!

 世の平和を守るため!

 世の悪を打ち砕くため!

 愛と真実の正義を掲げし我ら……。

 世直し仕置人、ここに見参!」

「ははははっ! 世直し仕置人だと? 

 世迷い言を抜かしおって! 

 者ども……。出あえ、出あえ! 斬って捨てよ!」

「武蔵!」

「おう!」

「小次郎!」

「はっ!」

「懲らしめてやりなさい!」

「任せろ!」

「御意!」




 ******




「ぐっふっふっふっ……。

 よいではないか、よいではないか!」

「やだ、やだ! お父ちゃん、助けて!」

「お代官様、お戯れを! 娘はまだ九つにございます!」

「止めろ! このケダモノが!」

「なにっ!?」

「イエス・ロリータ! ノー・タッチ!

 お毛々も生えていないような娘に手をかけるとは……。

 貴様、それでも人か! 恥を知れ!」

「素浪人風情が……。儂を誰と思っている!」

「ふっ……。俺の顔を忘れたか? 鳥居左馬介」

「な、なにっ!?」

「先月の末。大阪城、竹の間の廊下で挨拶を交わしただろ?」

「ああっ!? ……う、右大臣様っ!?」

「大人しく、縛に付け!」

「ぐ、ぐぬぬぬっ……。

 ええい、戯言を!

 このような所に、右大臣様がおられるものか!

 斬れ! こいつを斬れ! 斬り殺せ!」

「ならば、これも作法……。斬り捨て御免!」




 ******




「くっくっ……。農民など、掃いて捨てるほどおる」

「人が嫌がる鉱山の掘り手を、ただ同然で……。止められませぬな」

「ひとぉ~つ……。

 人の情けを踏みにじり……。」

「誰だっ!?」

「ふたぁ~つ……。

 不届きな悪逆三昧……。」

「見張りは何をやっていた! ここに曲者がおるぞ!」

「みぃ~つ……。

 見苦しい、この世の鬼を懲らしめやろう……。」

「なぜ、誰も来ない! 

 何をやっている! 出あえ、出あえ!」

「桃太郎っ!」




 ******




「こちらが証拠の帳面になります」



 立派な屋敷に、手入れの行き届いた庭。

 月明かりの下、跪く佐助が、両手で冊子を恭しく差し出す。


 俺は冊子を受け取り、指先で軽く頁を捲る。



「悪人のくせに、しっかり記録しているんだから、偉いよね」



 思わず苦笑が漏れた。


 開け放たれた障子戸の向こう。

 座敷には、血溜まりを広げた悪人が二人。


 冊子には、彼らの悪事が事細かに記されていた。



「なあ、秀秋様よ?

 ここの殿様の土地は、どうしてこうも荒れているんだ?

 行く先々で、悪さをしているやつらがいるじゃねえか?」



 悪人二人が食べ損なった夕膳を、手づかみでむさぼる青年が、問いかけてきた。


 彼の名前は、『宮本武蔵』という。

 ただし、あの宮本武蔵と同一人物かどうかは、定かではない。


 その正体は、九州仕置きで出会った『タケゾウ』である。

 家臣に取り立てる際、名前の漢字を知り、俺が『宮本』の姓を与えて、名の読みも変えさせた。


 二刀流使いだから、問題はない。



「宇喜多様は……。愛妻家で、清廉なお方と聞きますが?」



 切れ長の目の美青年が、武蔵に続いた。


 彼の名前は、『佐々木小次郎』という。

 やっぱり、あの佐々木小次郎と同一人物かどうかは、定かではない。


 宮本武蔵が家臣になったのだから、佐々木小次郎も欲しい。

 俺は持てる伝手を総動員し、各地に問い合わせ、ついに小次郎を探し当てた。


 彼は毛利家の足軽組頭を務めており、毛利輝元に話を通したところ、あっさりと譲ってくれた。


 小次郎は今時珍しい、大太刀の使い手である。

 俺は名鍛冶に新たな大太刀を打たせ、それを『物干し竿』と命名すると、小次郎に与えた。


 これで問題ない。


 本物か、偽物かなど、論ずるに値しない。

 重要なのは、二人がライバルではなく、同じ仲間であるということだ。


 そこに痺れるし、ロマンが溢れているのだ。



「うーん……難しい問題なんだよね。

 この辺りは京から少し離れていて、瀬戸内に面しているだろ?

 昔から戦が多くて、地侍が力を持っていた土地なんだ」


「それに、少し前に家臣たちのごたごたがあってさ」


「まだ統制を取り戻しきれていない。

 その目を盗んで、地侍たちが勝手を始めた」


「……って、秀家がこぼしていたよ。

 だいぶ苦労しているみたいだ」



 俺は、宇喜多家の事情をざっくりと説明しながら思い出す。


 秀家は、領地に帰るときはいつも渋々だ。

 こちらを何度も振り返り、ため息をぽつりぽつりとこぼしながら、ゆっくりと去っていく。


 逆に、大阪滞在中は元気ハツラツ。


 奥さんとラブラブチュチュでうざい。

 惚気が始まると、長々と聞かされ、半日が過ぎていたこともあった。



「へーーー……。殿様って言っても、楽じゃねえんだな」

「いや、苦労人でしかない殿様が、ここにいるじゃん?」

「秀秋様は……。もう少し、真面目になさったほうがよろしいかと」

「いや、お前たちはもう少し不真面目になっていいのよ?

 ……まあ、ここ数日で成敗してきた連中のようになられても困るけどさ」



 つまり、俺とは逆だ。


 今、俺は大阪に帰りたくなかった。

 茶々と初が恋しい気持ちはあるが、それ以上に、宗茂が怖かった。


 当初、有馬温泉への二泊三日の逃避行の予定だった。


 だが、俺の足は東ではなく、西へ。

 気づいたら、備前までやってきてしまった。


 さすがにそろそろ戻らないとまずい。

 明日は南下し、四国に渡り、金刀比羅さんをお参りしてから帰ろうと思っている。



「むっ!? 来た! さっさと逃げるぞ!」

「秀秋様、こちらへ!」

「おう!」



 ふと、幾つもの蹄の音がこちらへ急ぎ迫るのが聞こえた。


 宇喜多家の治安部隊だ。

 慌てて冊子を座敷に放り投げ、俺は佐助の背を追いかけて走り出す。



「……ところでよ。

 前から思ってたんだが、なんで俺たちが逃げなきゃならねぇんだ?」

「私も同感にございます。

 我ら、正義の裁きを行っているのでは?」



 悪人を倒したからといって、めでたしめでたしで終わるわけではない。

 倒しても、その後の処理が待っており、これが一番面倒くさい。



「馬鹿! こういうのはな! 人知れずやるから、格好いいんだよ!」



 せっかくの気ままな旅だ。

 自分から仕事を背負い込むなんて、馬鹿げている。




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― 新着の感想 ―
色々と混じってますね(笑)
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