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大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第六章 豊臣の暁

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第57話 わっしょい、わっしょい!




「おめでとおおーーーうっ!」

「おめでとおおーーーうっ!」



 俺の祝砲に続き、すぐ間近で祝砲が二連発。


 大人になった俺の声とは違う。

 幼さを残した、高く弾む声だった。



「あれ? いつの間に?」



 隣を振り向くと、秀頼と香がいた。



「ところで、何がめでたいのですか?」

「お祭り? お祭りなの?」



 二人とも、にこにこと笑い、目をきらきらと輝かせている。


 どうやら、早くも俺の喜びは伝わったらしい。

 やはり俺は間違っていなかった。



「うむ! よくぞ聞いてくれた!」



 嬉しさに、俺も思わず頬を緩める。



「……って、待て! 待て、待て、待て!」



 だが、次の瞬間。

 俺は愕然と目を見開かせた。



「秀秋殿?」

「とと様?」



 秀頼と香は、きょとんとした顔で、揃って首を傾げる。



「どうして、秀頼様が香をおんぶしているの?」



 俺は二人を、勢いよくビシッと指差す。


 秀頼が、香を背負っている。

 なぜこの行為が、実にけしからんものだと、二人は理解しようとしないのか。



「えっ!? 本丸の階段は、香には急すぎるので……。」

「楽ちんちん!」



 ところが、秀頼は目をぱちぱちと瞬きさせた。

 香に至っては、ぎゅっとしがみつき、さらに秀頼へと身を寄せる。



「こらっ! 女の子が『ちんちん』なんて言っちゃダメ!」


「でも、なるほど……。

 確かに、ここの階段は無駄に急すぎる! 香には危ない!」


「その優しさに、俺は猛烈に感動した!」


「だけど、お尻を触ってる! あとくっつきすぎ!」



 俺は顔をぶるんぶるんと左右に振り、怒鳴り声を連発した。



「えっ!? しかし、おんぶするには……」

「しかしもかかしもない!

  許婚同士だろうと、男女七歳にして席を同じくせず!」



 だが、根本的にけしからんのは、二人が許婚同士だという事実である。


 昨年、俺が九州より帰還した折、大坂はお祭り騒ぎとなった。

 締まり屋の三成が金蔵の鍵を開け、街の住人にまで酒を振る舞う。

 その熱気は深夜を過ぎても衰えることなく、盛り上がりは絶えなかった。


 俺は、空気が読める男だ。

 その日ばかりは禁酒を解禁。浴びるように飲みまくった。


 そして翌朝。

 目を覚ますと、秀頼と香の婚約が決まっていた。



「秀頼様は九歳でしょ!

 はい、離れて、離れて! 今すぐ、離れて!」



 首謀者は北政所。


 俺は全力で反対した。

 畳に転がり、手足をばたばたと猛抗議。


 しかし、完全敗北。

 最大の味方になってくれてもいいはずの、実親の茶々と静が、まさかの大賛成。


 しかも、昨夜のうちに同意書を取られていた。


 何度も、穴が空くほど確認した。

 だが、そこに書かれていた俺の名は、紛れもなく、俺の字だった。



「わわっ!? あ、危ないですよ!」

「あはは! 秀頼様、ぎゅーーっ!」

「香、ダメでしょ! 男はオオカミなんだぞ!」



 さて、ここで問題だ。


 可愛い娘ができたと思った矢先、その娘に旦那ができた。

 このときの父親の心境を述べよ。



「面倒くさっ……。」



 俺が二人を引き離そうと、香の腰を掴んで引き寄せた、その時だった。

 第三者の、冷ややかな声が聞こえた。



「えっ!?」



 思わず振り向くと、階段口に立つ少女が、白い目で俺を見ていた。




 ******




「恐れながら申し上げますけど……。

 その調子でいたら、いつか香様に嫌われますよ?」


 少女の名は『辰』といい、三成の三女。

 年の頃は10歳になる。


 香の侍女であり、香は姉のように慕っている。


 だが、なぜか俺には塩対応が多い。

 今も、その言葉は俺の心にざわつきを巻き起こした。



「なっ!? 香、お父さんのこと、嫌いじゃないよね?」

「とと様、大好き!」

「ほら! ほら、ほら、ほら!」



 慌てて確認すると、香は満面のにこにこ笑顔だった。

 俺は辰へ勝ち誇った視線を送り、鼻息をふんすと噴き出し、嘲笑った。



「ですから、『いつか』と言ったのです」


「私も、昔は父が大好きでした」


「でも、何かと口やかましいから、姉さんたちにも煙たがれています」



 辰は平然としていた。


 腰に手を当て、長い溜息。

 その視線は、ますます冷ややかなものとなった。



「くっくっ……。ウケる!

 三成のやつ、娘に嫌われてやんの!」



 たまらず俺は、肩を震わせながら笑った。


 実に良いことを聞いた。

 しばらくは、このネタで三成をからかってやろう。



「だーかーらー! 小早川様にもそうならないように注意しているんですう!」



 辰が一歩踏み出し、床をドンと鳴らした。



「いやいや、俺は大丈夫だって!」



 俺はぶんぶんと手を振り、全力で否定した。


 聞き捨てならない。

 俺は三成みたいに融通の利かない男じゃないし、仕事を押し付けたりもしない。


 俺が目指すのは、ホワイトな豊臣家だ。

 ブラックの権化と一緒にされてはたまらない。


 辰は、今一度、長い溜息を落とした。



「まあ……。父の方が、まだマシかもしれませんね。

 少なくとも、父はそんな恥ずかしい格好で出歩いたりしませんから」

「そういえば、なぜ裸なのですか?

 髷も結っていないし……。」



 そこへ、秀頼が興味深そうに話へ加わった。


 俺は、自分の失策を悟った。


 喜びは、確かに伝わった。

 だが、それが何の喜びかまでは伝えていなかった。


 ならば、伝えねばなるまい。

 今日という、この素晴らしき日を。



「ふっふっふっ、の、ふー! よくぞ聞いた!

 これは……。喜びを全力で表しているのだよ!

 みんな、ありがとう! 俺、おめでとう!」

「わっしょい、わっしょい!」



 香が両手を掲げ、きゃっきゃっとはしゃぐ。


 さすが、俺の娘だ。

 どうして、こんなにも可愛いのだろうか。



「小早川秀秋いいいいいいいいいいっ!」

「うおっ!?」



 その至福を遮り、凄まじい怒号が轟いた。

 思わずビクッと身体を震わせ、欄干から身を乗り出して眼下を見る。


 鬼の形相で二の丸を駆ける宗茂がいた。



「……や、ヤバいっ!?」



 ここ、本丸は三階から上は一本道。完全な袋小路だ。


 この場から、一刻も早く立ち去らねばならない。

 一階か二階の部屋に身を潜め、宗茂をやり過ごしてから、本丸を脱出する必要がある。



「今日は祝いだ!

 堺まで逃げっ……。行って、ご馳走だ! 早くしろ!」



 がくがくと震える両足を叩き、喝を入れる。

 俺は息を整える間もなく、慌てて逃げ出した。




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