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大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第六章 豊臣の暁

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第54話 星に叫ぶ、厨二の祈り




「なんだか……。火を点けるだけで、疲れちゃったな」



 正面の祭壇には特大のロウソクが7本。

 左右の階段状の祭壇には、普通のロウソクが100本。


 そして、自分の目の前には、俺の名前が刻まれた大きなロウソクがひとつ。


 合計、108本。

 ロウソクに火を点けるだけで、すっかり時間を取られてしまった。



「いやいや、これからが本番だって!

 なに、一仕事を終えたっぽく満足しちゃってんだよ!」



 ロウソクの本数に意味はない。

 なんとなく除夜の鐘の回数に合わせてみただけだ。


 さすがに、108本も燃えていると、天幕内はちょっと暑い。

 匂いも鼻につく。


 ついでに言えば、この祈祷を真似た三国志の諸葛亮の逸話では、七晩も祈祷を行っていたような気がする。


 だが、仕方がない。

 運命に気づいたのが、今朝だったのだから。


 それに、三国志で描かれている歴史は、もう千年以上も昔のこと。


 世の中、時代が進めば何事も短縮されていくもの。

 例えば、オリンピックの100メートル走の世界記録が更新され、短くなってゆくように。


 だったら、一晩でも十分な効果はある。

 俺はそう確信している。



「じゃあ、始めるか!」



 俺は地べたにあぐらをかく。

 右手には刀を逆手に握り、左手は祭壇に向けて拝む。


 表情をきりりと引き締め、全身でこれから始まる過酷な祈祷への覚悟を示した。



「……って、どうすりゃいいんだ?」



 いざ北斗七星に長寿を懇願しようとして、初めて気付いた。


 俺は、北斗七星に捧げる言葉を何も知らない。

 戦国の世にいると、神社の宮司があげる祝詞や、寺の坊主が唱える念仏を、耳にする機会は幾度もあった。


 だが、まったく覚えていない。

 いや、覚えようとすらしなかった。



「むむむっ……。」



 思わず唸り声をあげ、しばらく考え込む。



「はっ!?」



 唐突に、俺の頭に知っている呪文のひとつがよみがえった。



「空を仰げ! 天高く! 今夜、星! 降り注ぐ!

 戒めはなし! すでにない! 我が神よ! 目覚めの時!」



 正しく、これは天啓だ。

 これで、きっと大丈夫なはずだ。


 その昔、厨二病を患っていたとき、必死に覚えた旧世界の神への讃美歌だ。


 星に向かって祈っているような気分もある。

 やっぱり、これで大丈夫だろう。


 久々の厨二病を、全力で爆発させるぜ。



「人々よ! 識るがいい! 真の主が! 帰還する!

 その名を讃えよ! 闇こそが! 唯一の希望!」



 108本のロウソクの火が一斉に揺れる。

 ぞくぞくと背筋が震え、誰かに見られているような気配がした。



「愚者どもよ! ひれ伏すがいい!

 星々は騒ぎ! 終末の定めは! 今来たる!

 至高の星辰! 究極の恐怖! 恐れよ! 讃えて叫べ!」



 神は、確かにいる。

 その手応えが、俺のテンションをさらに盛り上げた。




 ******




「起きて! ねえ、起きてってば!」

「むふっ……。初ってば、大胆だね……。」

「こうなったら、こうだぞ! えい、えい、えいっ!」



 顔をぺちぺちと叩かれる感触に、ゆっくりと微睡みから覚めていく。



「……んぁ?」

「ニャっ!?」



 いつの間に眠ってしまったのか。

 上半身を起こすと、可愛い悲鳴が耳に届いた。


 左右を見てから、前を見ると、白黒の猫がいた。


 我が家で飼っている『ハチ』だ。

 通い猫だったのを、香が餌付けして、俺抜きで家猫にしてしまったやつである。


 名前の由来は、ハチワレ模様の猫だからだ。


 香が嬉しそうに教えてくれた。

 その笑顔を見て、家で飼うのを拒めなかった。



「やっと起きたね。この寝坊助め」

「えっ!? ……ハチが喋ってる?」



 俺は目を見開いた。


 ハチは、ただの猫だ。

 ネズミなどを捕ったりせず、魚しか食べない贅沢な猫だが、普通の猫だ。


 当然だが、喋ったりはしない。



「ははーん……。さては、夢だな?」

「まあ、そんなところかな。

 正確には、夢と現実の狭間だけどね」



 だから、現状がすぐに理解できた。



「香は、どこだ?」

「香ちゃんなら、ぐっすり寝てるよ」

「寝てる? 夢の中なのに?」



 辺りをキョロキョロと見渡す。


 ハチあるところに、香あり。

 最近、三成と宗茂のせいで、なかなか遊んであげられなかった。



「本当に……。君は、見ていて飽きないね」


「通りがかった南蛮の商人がさ。

 君の祈祷の声を聞いて、邪教の儀式だって大騒ぎだよ」


「ニャッシッシっ! 大いに笑わせてもらったよ」


「だから……。」


「そのお礼に、君の杞憂を、晴らしてあげよう」



 しかし、夢の中なら、香と存分に遊べる。

 たとえ三成と宗茂が現れたとしても、夢の中ならちょちょいのちょいだ。




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