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大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第四章 風雲、大阪城

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第26話 ツン突破!




「……うん?」



 目を覚ますと、天井はやけに明るかった。

 だが、その明るさは陽の光ではなく、火の赤みに照らされたものだった。


 なぜ、こんなにも明るいのだろうか。

 掛け布団を抱えたまま上体を起こすと、部屋の四隅に据えられた燈台が、必要以上の光を放ち、空間を無駄に照らしていた。


 すぐ隣に正座していた古満に理由を尋ねるより早く、彼女は小さく溜息をついた。



「ようやく、目を醒ましたのね。もう夜よ」

「ええっと……。俺は……。」

「……呆れた。覚えてないの?

 そ、その……。あ、あんなに……。ら、ららら、乱暴にしておきながら……。」

「いや、それは覚えている」



 俺は上半身裸で、布団の感触から、褌も身につけていないことがわかった。


 同時に、状況が掴めてきた。

 今朝から感じていた腰の重さは消え、身も心もは驚くほど軽く、すっきりとしていた。



「た、大変だったのよ?

 き、ききき、気を放ったと思ったら……。い、いびきをかいて寝ちゃって……。」



 燈台の光が放つ赤よりもさらに紅潮した顔を背ける古満に、俺は思わずクスリと笑ってしまった。


 古満には申し訳ないことをした。

 寝てしまう前の俺は、まさにケダモノだった。


 俺は脱ぐのも、脱がすのも手間が惜しくて、着物を着たまま、古満を貪るように抱きしめた。

 古満は何度も『駄目!』と叫びながらも、ただ抱き返すどころか、両足まで回してしっかりと抱きついてきた。


 それがたまらなく嬉しくて、俺は愛おしさを爆発させたのだが、どうにも腑に落ちない。


 小早川秀秋と古満は、離婚調停中のはずだ。


 しかし、抱き合っている間、古満から険悪さのかけらも感じなかった。

 自分から離婚を一方的に切り出して、家を出て行ったなんて、とても思えなかった。


 そういえば、古満は毛利家の本拠地である広島にいると聞いていた。

 いつ、大阪に来たのだろうか。どうして、俺の元には事前の知らせすら届いていなかったのだろうか。



「そっか、ありがとう」

「何が?」

「ほら、俺。どうしても我慢できなくて、掛け布団の上でだったろ?」

「そ、そう……。が、我慢できなかったんだ? へ、へぇ……。」



 俺の言葉に反応して、古満は目を見開き、こちらを振り向いた。

 すぐに顔を背けるものの、横目でチラチラと俺を窺い、口元にはニマニマとした笑みが浮かんでいた。


 やはり、険悪さのかけらもない。

 どう見ても、嬉しがっているようにしか見えなかった。



「だから、布団に寝かせてくれたんだなってね」

「ふ、ふんっ!」



 なるほど、ツンデレですね。

 いただきます、ごちそうさまです。


 無理やり唇を尖らせる古満が、たまらなく可愛く思えてしまう。


 俺には小早川秀秋の気持ちがまったく理解できない。

 なぜ、こんなに可愛くて、気遣いに溢れた奥さんと別れようと思ったのか。


 古満の細腕では、自分の上に寝てしまった俺を、退かすだけでも一苦労だっただろう。

 それどころか、俺が寝苦しくないように、着物と褌を脱がせ、布団にちゃんと寝かせてくれていたのだ。


 いや、古満の気遣いはまだ続いていた。

 ここへ来る道中、あれほど汗だくになったのに、汗の匂いひとつ感じない。

 枕元に畳まれた褌を穿こうと腰を浮かせてみれば、激戦後の俺の殿様も、綺麗に清められているではないか。



「そんなことより、付いて来て!」

「えっ!?」



 すると、褌に伸ばしかけていた右手が、古満にぎゅっと掴まれた。



「ほら、早く!」

「いやいや、褌くらい穿かせてよ?」

「いいから、早く!」

「わわわわっ!?」



 俺は戸惑い、抗おうとしたが、古満の引っ張る力は意外なほど強かった。

 何が何だか分からないまま、部屋の外へ連れ出されてしまった。




 ******




「ねぇ、いる?」

「いるよ」



 もうすぐ、十二月を迎える。

 夜ともなれば、当然ながら寒さが身に染みる。


 それなのに、俺は全裸のまま、廊下に突っ立っていた。



「本当に、いる?」

「はい、あなたの小早川秀秋は、ちゃんとここにいますよ」

「あ、あなたのって……。ば、馬鹿」



 その理由は、背後にあった。

 古満が厠を済ませるまで、傍にいてくれと言ったからだ。


 大阪城には驚くべきことに下水道が整備されている。

 そのため汲み取りは不要だが、さすがに『音姫』のような気遣いは備わっていない。


 紳士な俺としては、せめて耳を塞いでやりたかったが、寒さがそれを許さない。

 身を強張らせながら、両腕を両手で擦っていないと、この場に立っていることさえつらかった。



「……で、何が怖いの? 明かりもついているだろ?」

「だからよ! この屋敷、変なの! オバケがいるわ!」

「オバケって……。」



 来賓用の屋敷とはいえ、さすがに厠は凝っていない。

 ごく普通の薄い板戸で、戸を挟んでいても、古満の様子がどうしても伝わってきてしまう。


 どうやら、随分と我慢していたらしい。

 その我慢の理由が『オバケ』と聞き、古満には聞こえないように肩を震わせて笑った。



「だって、門は開かないし! 誰もいないし! 連れてきた侍女もいなくなるし!」

「あーーー……。」



 しかし、本当の原因は俺にあったと知り、反省せざるを得なかった。

 この屋敷の状況について、俺はまだ古満に説明していなかった。説明する暇もなかったと言える。



「そろそろ暗くなるなーっと思ったら、勝手に明かりがつくし!

 気づけば、部屋の前に夕膳まで置いてあるし! 絶対、オバケのしわざよ!」

「違う、違う。人払いをしてあるだけだよ」

「えっ!?」

「明かりとかも、忍びの手によるものさ」

「……そうなの?」



 真相を知って、安心したのだろう。

 深々とした溜息が聞こえると、それまで急だった音がゆるやかになり、やがて完全に止んだ。



「だから、朝まで二人っきりってわけ」

「あ、朝まで二人っきり……。ば、馬鹿」



 布ずれの音が聞こえてきた。もうすぐ、古満が出てくる合図だ。

 寒さに震えているのはかっこ悪いと思い、背筋をむんと伸ばして、足を肩幅に開きながら腕を組んだ。


 ところが、古満はなかなか出てこない。

 今さっき、床板の軋んだ音で、古満が戸の向こうにいるのは分かるのだが、思わず首を傾げてしまう。



「……古満?」



 夜風がピューと吹き、身体がブルリと震えた。

 我慢が出来なくなり、振り向いて、戸をノックしようと右拳を持ち上げたところで、戸が開いた。



「ねえ……。どうして?」

「んっ!?」



 だが、古満の様子は明らかにおかしかった。

 気分が沈んでいるのが一目で分かるほどで、肩を落とし、顔を深く俯かせている。

 その姿からは、心の奥底に重く沈む何かが渦巻いていることが、まざまざと伝わってきた。



「胸が……。」

「……胸が?」

「胸が大きい女の方が好きだって、前に言っていたじゃない!」

「へっ!?」



 唐突に叩き付けられた慟哭。

 その脈絡のなさに、俺は目を丸くし、思わず言葉を失った。




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― 新着の感想 ―
元の秀明って、巨乳派だったのね
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