表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/82

75


 聡明な頭脳を持つ女王はそのことを即座に把握し、どうしても最悪の事態が思い浮かび拭いきれない。


「じゃあ、わたしを倒せる?」


 美鈴が、ゆっくりとまぶたを開いた。


 刹那、女王の本能が、目の前のそれから離れろと体を勝手に操っていた。


 世界が改変される。


 万物の法則が更新されていく。


 時間は不平等に流れ始める。


 すべてが、美鈴の想像通りに変更された。


「存在証明原本を書き換えたとでも言いますのッ!?」


 女王が神をも存在が記された、すべての原点を見て驚愕した。


 すべての始まりである神を創る為に作られたはずの原点が、記された存在証明が次々に書き換えられていく。神でさえ改変が許されなかった定義が、覆った。


 驚愕を通り越して唖然となった女王の瞳が、恐怖に染まった。


「この世界は、ひとつの物語なのかもしれないよね?」


 尋ねるように言いながらも、美鈴の声は確信していた。


「わたしは、どんなお話でも、一度知った物語からならどんなものでも呼び出せるんだよ」


 かつんと美鈴の甲冑のかかとが鳴った。


 はっと気付いたときには、そこはすでに日常を取り戻した街だった。いや、人だけは居なかった。誰も居ないが、そこは女王が破壊しつくした街そのものだ。


「それなら、わたしが”この世界を呼び出せ”ても、おかしくはないでしょう?」


 今、美玲の中には、無数の世界があった。


 シャルロットの命を使い、美玲は自分の中に、世界をひとつ作った。魔法使いは元より自分を世界から切り離し、閉じたひとつの世界だと自分を認識している。


 美玲はその隔絶された世界の中で、もうひとつ世界を作った。


 その世界には人が六十億人いた。ではその世界の人間を全て魔力に置き換えればどうなるか。そして次は六十億の世界を造り、全世界を魔力に置き換える。それを延々と繰り返せば、途端に彼女の魔力総量は、世界を構成するエネルギー量を凌駕する。


 それが美玲の魔力の根元。


 かつんとかかとがアスファルトに触れて鳴る。


 そこはすでに日常があった。


 街も人も、すべていつも通り。


 ただ、人々の記憶には、女王に破壊された街も、殺される直前の記憶もあった。


「そ、そんな出鱈目、できるはず」


 かつんと鳴り、美鈴の両となりにゆかと薫がふっと現れ、目を白黒させている。


「じゃあ、わたしを殺してみて」


 表情のない美鈴がつぶやき、思い出したように女王が結界を張ろうとして、止まる。


「う、うそですわッ!」


 何度試しても、結界どころか魔力すらも流れ出ない。”この世界”では、女王の魔力が呼び出せないのだ。そう改変した。


 女王は改めて顔を恐怖に凍りつく。すでに美鈴の後ろには、シャルロットや美鈴の家のものが並んで、女王を見ていた。


「あなたは悪いことをしてきた」


 だからといって、彼女が免罪されることはない。美鈴にはそのつもりは無い。


「あなたに何がわかるの!? 最初から全部あったくせに! 愛情を一身に受けてきた癖に、わたくしに偉そうなことが言えるの!?」


 女王はヒステリックに叫び、その場にすとんと腰を抜かして座り込んだ。おそらく、経験したことがない恐怖に直面して混乱しているのだろう。


 1万年も貼り付けてきた、強固な仮面がはがれ落ちた瞬間だ。見た目相応の少女のように泣きじゃくった。


「いや、いやよ! どうして!? わたくし、お父様もお母様もいなかったの! ずっとひとりぼっちで、評議会の通りのままにしてきただけなのよッ!?」


 生まれ落とされ、傀儡のように言い操られていたのは事実だ。彼女は何も教えられず、ただ力の権化として魔法を磨き、その圧倒的な魔力で幾多の世界を押しつぶして征服してきた。


 その絶対の存在であり、彼女の存在意義でもあった魔力が、今の彼女にはまったく作り出せない。一万年の間彼女を支えてきた唯一の存在がなくなった今、一瞬にして茨の女帝は瓦解していく。


 かつんという、美鈴が近づく音がするたびに、肩を大きく揺らして少しでも這って逃れようとする。純白の手袋をした手で、濡れてぐしゃぐしゃになった顔を覆って、小さく震えた。


「それでも、あなたは許されない。沢山の人を殺して、傷つけてきたのは、本当なんだから」


 静かに言い、美鈴はあと二歩まで近づいた女王に刃を向けようとした。


「それじゃあよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ