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「だから、勝って……」
土色の顔で微笑みを浮かべ、最後の願いを美鈴に託した。
傷だらけの顔を紅く染め、美鈴は生命の雫をむさぼった。強く抱きしめ、一滴も零さないように何度も音を立てて吸い尽くす。両目からは吸い上げた分よりも多くの透明な雫が、とめどなくあふれ続けている。
いつしか生命の重みを失ったシャルロットの体を、ゆっくりとその場に横たえさせた。美鈴は眠るように息絶えた少女の頬を撫で立ち上がる。
軽く目を閉じて、全身から力を抜いた。
「準備はよろしくて?」
待つ間に完全に治癒した、傷ひとつない女王が小首を傾げて尋ねると、その変化は起きた。
打った水のざわめきが消えていくように、周囲のすべてが押し黙っていくように静寂が満ちていく。
「なんですの?」
さすがの女王も完全に変わった雰囲気に目を瞠り、無意識の内にわずかに身を引いた。
「あなたは、神様を従わせるっていったよね」
あまりに雑念のない音に、女王は一瞬世界が吐息を零したのかと思った。
「え、ええ。そうですわ! わたくしは全知全能なる支配者さえも、この世界の万物を手に入れることを許された存在ですもの!」
わずかに上ずった声で女王は、あたかも自分に言い聞かせるように答えた。胸の奥で焼けるような焦燥が煙を上げていた。
美鈴の魔力容量の高さの所以は、単純に彼女の体が魔力を生成しやすい体質だからといえる。
たとえば、シャルロットのような常人ならば、十の生命力から一割ほども魔力を精製できない。それが普通なのだ。アッガレッシオンをはじめとした三桂評議会や宗孝など、気の遠くなるような時間をかけて鍛錬を積んだものですら、四割程度しかできないのだ。
本来の魔法使い達の戦いでは、いかに魔力の消費を抑えて相手に下手を打たせるかが勝敗を分ける。
道具や集団行動をとるなどして、小さい魔力で大きな効果を得ようとする。なので先ほどの美鈴と女王の戦いのような、純粋な魔力量で勝負するような戦いは、よほどのバカでもない限りできない。
過去の評議会の見解では、魂や命と呼ばれる、生命の根源たるものが存在するのに必要なエネルギー源こそが生命力なので、半数以上の生命力の消費、魔力への精製を可能にすれば、それは即ち魂が存在するのに必要な分まで使ってしまうことになる。
そうなれば、自滅的に魔法使いは魂が燃え尽きた抜け殻になってしまう。しかし元が膨大すぎる生命力を持つ女王は、七割近くを魔力へと精製している。それはあくまで常人とは比べることが出来ない生命力を持つ女王だから出来る技である。
しかし美鈴はそのほぼすべてを魔力へと精製している。元の生命力の量は、女王と変わらないのだから、純粋な魔力の量は、女王を遥かに凌駕している。
それでも決着が付かなかったのは、単純な魔法使いとしての経験の差だ。いくら強力な武器を持っていても、それを使うのが素人では意味が無い。武器の差で劣っていても、熟練の兵士ならば勝てるのと同じである。
だがそれでも双方一進一退で硬直である。さすがの歴戦の兵士とて、圧倒的過ぎる兵器を前にしては、その生命を守るだけで手詰まりである。逆に美鈴も攻め落とす決め手がない。
その状況で、美鈴の魔力容量は増えた。現状、神の楽園や、悪魔の地獄、神や神を殺した黄昏の輩ですら難なくと顕現して見せた彼女が、その魔力を倍に増やした。




