73
はっと息を呑み、美鈴はすぐ近くで身を縮めていたシャルロットを自分の背後に押し込み、可能な限り大量の盾を顕現させて防御を固める。それと同時に、反物質を納めた光の玉がはじけ、空白の大爆発が起きる。
その威力たるや、美鈴たちを太平洋上空の成層圏手前まで吹き飛ばしていた。もはや彼女達の母国があった島は、となりの大陸ごとなくなっている。
すべての感覚が焼き切れる爆発の荒波は、しかしすぐに収縮して、さらに強力な光線が数条奔った。大海を切り裂き、プレートが割れる。
守りが弱まっていた美鈴に、無慈悲な光の矢が突き刺さるが、それとて神話の”絶対に防ぎきる盾”を使い、直撃すらも防いだことにして守る。
「まだですわ。『存在証明原本より、無の顕現』を」
黒い光球がふわりと女王の前に浮かび上がる。それを中心にして何もかもが崩壊し、吸収されていく。美鈴の位置からでは、女王の姿さえもが歪んで見える。
「太陽の二億倍の重さがあるそうですわ」
にこりと微笑み、その黒い光球が一直線に美鈴に向かって飛ぶ。
直撃の音も衝撃もなく、ただ吸い込まれていく感覚。盾の向こう側にあるはずのそれに向かって、髪の毛やドレスの裾が大きくなびく。
「シャルロット、捕まってて……」
手が腰に回されたのを感じて、美鈴は一か八か、反物質を無理やりそれの中心付近に顕現させた。
空間が慟哭し、世界が揺れる。
呼び出されたブラックホールを、反物質の対消滅で消し飛ばした。太陽の二億倍の質量が生まれ、消え、それを乗せようとした空間が歪む。
世界が慟鳴していた。
「さすがですわ。よくぞお見破りになられました」
うれしそうに手を叩く女王。
まだ頭がくらくらする美鈴は頭を軽く振って埃を落とし、背後にシャルロットが居ることを確認した。気絶しているのか、ぐったりして動かない。周囲に宗孝が居ないので、一瞬血の気がうせたが、確かにまだ彼の魔力を感じることが出来てほっと息をつく。
しかし、状況はまったく好転していない。むしろ度重なる超高度な物質を顕現させたため、美鈴の体力は著しく消耗していた。
遠のきそうになる意識を、必死でつなぎとめ、女王を倒せる道具をライブラリから検索する。絶対の勝利を呼ぶ剣が手に顕現し、それを握ってぐっと構えて見せる。いつもよりも剣が重たく感じて、肘が悲鳴を上げる。
「ミレイ……、力が、ないなら……」
突然背後でしがみついていたシャルロットがつぶやいた。
「ぼくを、使って……」
正面に回りこんで、襟元のスカーフを解いて首筋を露出させると、美鈴の手に持っていた片手剣を鷲掴みにして、自分の首へと押し当てた。
「ダメッ!」
慌てて剣を消し去ったが、鮮血が吹き出し美鈴の顔にかかる。そして美鈴の頭に手を回して、自分の切り裂いた傷口に押し当てる。




