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ゆっくりゆっくりと近づく、轟音と熱。
緩慢に訪れた超高熱に、美鈴は自身の肩を抱いてもだえた。
女王が出した光玉。その正体は、反物質。この世界に存在するすべての物質とまったく同じだが、鏡写しになった存在。原初の宇宙には存在したが、完全なる反対物質であるために、正物質と接触すると対消滅を起こして消えてなくなってしまう。
その消滅のさいに、莫大なエネルギーを放出する。本来なら顕現の瞬間に反応してしまうが、それを防ぐために無が詰まったカプセルに件の物質を入れておいたのだ。たったひと粒、反原子核ひとつだけでも核爆弾の数億倍のエネルギー量を持つそれが、同時に六つ。一瞬にして街ひとつといわず、地図が変わるほどの爆発。
足場もなにもなくなり、空中に浮いていた。美鈴の足元には、自動的に顕現された中に浮く炎の車輪があった。爆発の間際にシャルロットを抱き、周囲に神話に登場するすべての防壁や盾を顕現させたが、その殆どが見る影もない。
何度も咳き込みながら、見えるようになってきた世界を見渡す。
見える範囲に何も無くなった荒野。反物質が顕現して世界に触れたあたりが”歪んで”いた。
「さすがに、六つはやりすぎましたわ」
優雅に扇で口元を覆いながら女王がつぶやく。けふけふとちいさく可愛らしいせきをしていた。
「癇癪で、なにやらかしてんだ!」
その女王に向け、宗孝が全長五十メートルの刀を振るう。
「あら、お祖父様だって、はた迷惑なものをお持ちではないですか」
嫣然と笑みを浮かべて、宗孝の剣撃を扇で受ける。そのぶつかり合う境界が、掃除機で砂を吸い込むように扇の構成物質を刀が吸い込んでいる。
いや、扇といわず周囲のものすべてを吸い込んでいた。そのせいで向こう側が凹レンズを通したかのように歪んでいく。
女王のドレスの裾が僅かに持ち上がり、装飾がついた髪の毛が揺らぐ。
宗孝は腕に強化の魔法を施して押し込む。力の差で女王が押し負けるが、余裕の笑みは絶やさない。
万物を飲み込む黒刀が、女王の髪飾りをじりじりと飲み込みながら肉薄する。
そしてついに切っ先が女王に振れた。
「あ、ぐ」
女王の顔がゆがみ、切っ先が振れた部分を中心にして粉砕機に投げ込まれたかのように、不自然に折れ曲がり刀身に吸い込まれていく。
女王の上半身が飲み込まれた。助かるはずが無い、普通ならば勝利を確信してもおかしくないはずの状況ですら、宗孝の顔は厳しく、さらに追撃を加えるべく周囲に鬼火が五つ発生する。そして鬼火より深紅の火炎が吹き出される。
強烈な火力で、瞬く間に炭化して砕け散った。しかしそれでも宗孝は油断しない。周囲に探査の結界を張り巡らせる。
「お祖父様」
降って沸いた女王の声。振り向きざまに鬼火の炎を打ち出すが、遅かった。超高温の光線が、宗孝を撃ち抜く。なんとか身をよじって避けられたが、肩に受けそこから先が沸騰してちぎれ飛ぶ。
「ぬ、う……」
「おじいちゃん!」
一瞬で焼けただれた為に、出血はしない。苦悶に顔をゆがめながらも、紫蒼の火炎が周囲をなめ回し焼き尽くす。
土すらも焼き尽くす業火の中でも、女王は豪奢な扇で仰ぎながら悠然と笑う。
「お姉さまも、そんな所で呆けていないで、一緒に踊りましょう」
もう一度強烈な核の閃光が瞬き、凝縮して光玉が六つ生まれる。そして光線が射出される。いや、撃ち出されていた。光とほぼ同じ速度を持つそれは、気付いたときにはすでに当たっている。美鈴の盾がそれをはじき、宗孝は結界で防ぐ。
「いいよ」
美鈴の帽子についた羽が揺れる。その刹那、魔力を反発させて飛ぶ。それに連れられたシャルロットも、目を白黒させていた。




