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ゆかの能力は身体の強化。それに付随し、身体にかかる物理法則を遮断する。ゆえに初速ですでに最高速度という事象が現実化できる。
ロケットブースターに火を灯し、加速。
薔薇侯爵の胸に長大な突撃槍を突き立てる。
あのアッガレッシオンですら吹き飛ばした一撃。手ごたえはあった。
「その攻撃を、私は許可しない」
無効化されていた。
わが目を疑い、ゆかはそれでも切り替えて二度三度、位置を変えて突撃する。
しかしそのすべてが、”無効化”される。
「私は神聖アルマニア帝国、三柱評議会が第二席、ホレン・ズィヒ・レイヒツン・ウンド・マハト・ドルヒ・ミーア=薔薇侯爵。帝国の富と権力を司ります。我が権力をもって、貴女の攻撃を許可しません」
攻撃が当たっているにもかかわらず、効果を発揮していない。
四度目の突き。
「何度繰り返しても同じですよ。私は、許可しない。跪きなさい」
五度目の突撃を敢行しようとした瞬間、切り離していた物理法則に帰って来た。
「ぐっ!」
ゆかの身を守る為、ブースターは緊急停止。床に叩きつけられた体は滑走していき、薔薇侯爵の前で止まった。
「つぅう」
呻くゆかの体は、飛翔のみを行える。止まる事を前提にしない構造であるため、顔面から墜落している。
辛うじて甲冑のおかげである程度は防げたが、それでも無事ではない。
何とか体を起こそうにも、ロケットブースターが邪魔で胸より上を動かすのでやっとだ。
飛翔しようにも、魔法がなにも発現しない。この状態でブースターを起動すれば、飛び立つより先に体がミンチ肉になる。
どうする。なんで魔法が使えない。
「ことの成り行きには、すべて因果があります。魔法ひとつとってもそうです」
「それが、どうした……!」
陸上部で鍛えた体は、普段から腕立て伏せは100回以上は平気で行える。それが今はピクリとも動かせない。当然ながら下半身が重たすぎであり、無理に動かそうとすると腰骨が砕けそうになる。
「今この場では、因果関係がないので、私が許可を与えた魔法以外は発現しません」
魔法に関して、ゆかは素人以下である。数日前に手に入れただけで、基礎知識も曖昧である。薔薇侯爵の高説を聞いたところで、理解が追い付かない。
「魔法で物理法則を捻じ曲げて、その機械で飛んでいるのは分かりました。今飛べば、自然法則で貴女は押しつぶされてしまうのうでしょう?」
踵を鳴らし薔薇侯爵が一歩前へ踏み出してきた。
秀麗なその横っ面を、思いっきり殴打してやりたいという気持ちがふつふつと湧き上がってくるが、魔法は一向に発動しない。そのせいでロケットブースターは安全装置が働いて起動しない。
歯噛みしていると、哀愁すら漂う薔薇侯爵は笑みを浮かべたまま、右手に紫電を纏わせた。
「我らが偉大なる帝国に反する行い。貴女の魂の奪還で、許しましょう」
まずい。
本能で理解した瞬間。ゆかの体を衝撃が突き抜けた。
頭の先からブースターで覆われたつま先まで。巨大な金槌で殴打されたような衝撃。
脳髄を揺さぶられたような衝撃に、一瞬意識を手放し、遅れてやってきた激痛によって強制的に覚醒させられた。
悲鳴を漏らす事すらできず、食いしばった歯の隙間から苦悶の吐息だけが漏れた。
「原理はこれほど簡単。剣も冷静になれば、なんら苦戦する事もなかったでしょうに」
嘆息し、もう一度、懲罰の雷がゆかを打った。
「ぐっッ!」
もし生身であればすでに一撃で脳を焼かれて即死していただろう。
魔法の発現を禁じられているとはいえ、魔装具は世界との隔たりである。幾分かは魔法を減衰させる。
即死こそ免れているが、抵抗もせずに何度も受ければ近いうちに必ず死ぬ。
五度目の雷撃。遅れて来る激痛にも、ついに覚醒せずに、ゆかは意識を手放した。




