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誰もが笑っていた。
聖剣を手に戦う、アッガレッシオン。
神話の武器を手に戦う、黄昏の徒。
世界を奪おうと襲う徒を、世界を滅ぼさんと戦った徒で迎え撃つ滑稽さ。
苛烈を極めた戦いは、正しく終焉の戦争そのものを見せつける。
アッガレッシオンの強さは、終焉の徒を相手にも圧倒する。
世界中に各々存在する神話は、帝国に滅ぼされた世界の物語なのだろう。
一撃で見渡す限りを焼き尽す攻撃。それを受けてもびくともしないアッガレッシオンは、反撃の一振りで数名の邪神や悪魔を呆気なく葬る。
一撃々々の重さで、都度世界が揺れる。揺れが起きるたびに、必ず誰かが死んでいる。
世界を亡ぼす、というに正しく相応しい戦闘。
この終焉の再演の中、誰もが笑っていた。
誰もが望んでいた、世界を滅ぼすほどの大きな戦い。
それをこの場で剣を握る誰もが願っていた事だった。
「楽しいでしょう。強敵と交える、それだけで全身が打ち震え、生を極限まで分ち合える。楽しいわよね。私も、こんなに楽しいのは、初めて」
艶然と薫は笑う。手元には一見チェス盤にも見える、この戦いの縮図。
「六千八百五十四手。それがアナタの余命」
勝利の確信。それと、自分の魔力が枯渇するのも、同じタイミングである事、そしてそれが意味する事も、薫は理解している。
だからこそ、彼女もまた笑っていた。
天沢薫、という少女は、真正の生粋の天才だった。
3才になる前に、すでに自我を確立させていた。その気になれば渡米し、5最で最高峰学府にでも挑めただろうが、そうしなかった。
”変に目立っては、行動が制限されるものね”
その考えを導き出した彼女は、あくまで中の上、上の下。学校の中ではトップでも、世間に出ればそこそこ頭がいい部類、程度に仕分けられるレベルになるように調整していた。
おおよその事を1見て100理解するような頭脳《中身》を持っていたがゆえに、すべてが退屈で刺激のない世界。普通を装うために、子供らしいリアクションを取って過ごしていた。
そんな中で出会った、隣の家の少女。家庭事情が面倒くさそう、という事以外は極普通の女の子だった綿貫ゆか。
「なんで、いつもつまらなそうなの?」
昔から感は驚くほど鋭く、でも子供らしかったゆかは、母の蔑まれる姿を見たくなくて、逃げるように薫と遊ぶようになっていた。
そういう事を分かっていた薫は、彼女が驚くような事がしたくて色々悪さをしながらも、証拠隠滅は完璧に行っていた。
何をしてもゆかの反応は面白かったが、それだけだった。彼女といるのは好きだったし、大切な一時だったのは間違いない。ただ、薫は求めてしまっていたのだ。
そんな薫が楽しめたのは、オンラインの戦争ゲームだった。
世界中のゲーマー達との戦いは、予想を超える事が多かった。薫の考えを超える事が起きる。
戦争というのは、いつも誰もが予想しない出来事とによって盤上がひっくり返る。
薫はそうして瞬く間に戦いの虜になっていた。
心では殺し合いなんて、と唾棄しつつも、本能が求めていた。
それがこうして舞い込んできた。友人たちには、本当に申し訳ないと思っている。
故郷を失い、仲間に裏切られ、常に死の恐怖に怯えて過ごして来たシャルロットには、心の底から謝りたい。
しかし、今は歓喜しているのだ。快楽に心酔しているのだ。
剣戟の音、怒号、断末魔、いまわの際の怨嗟に、勝利のためと勇猛果敢に散る雄叫び。
それらの情報すべてを聞き入れ、脳髄を突き抜ける闘争の喜びに打ち震える。
「貴方は、本当に、強いわ。きっともう、私の生涯で、悦びに震えることは、二度とないでしょう。貴方よりも強い将は、もういないもの」
すべての脳細胞、魔術コンピュータ、並列した己の手勢、すべてを統合して敵の動きを予想し対策し、戦術を立案し、それを実行させる。
完璧な戦闘だが、それもすぐにアッガレッシオンの予想を超える手によりご破算となる。
「きっと、これは、私が一生涯でいられるすべての快楽を、この瞬間に前借しているのね。それも法外な利子も込みで」
理解を超えた時、それを千分の一秒で解明し理解して、対策する。脳を酷使しすぎてひどく頭痛がするが、それすらも愛おしく感じる。
恋文をつづるように、薫は徐々に近づいて来るアッガレッシオンの姿を見つめた。
「ふふ。でもいいわ。貴方との闘いを、戦争を味わえるなら、私はもう聖人として、あらゆる欲を捨てても良い。いま、この瞬間こそ、私の統べてよ。貴方も、そうでしょう?」
うっとりと、恋人に向けるようなとろけるように熱い視線を、独りだけとなった帝国最強の騎士に向けた。
きっとこの気持ちは、恋慕と同じなのだ。ただ、共に歩み、過程を築き、子を成し死んでいく。それとは違う形の、確かな愛だった。
薫は笑みを浮かべ、笑いながら戦う、武人を見た。




