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57


 美鈴が声を上げると、砲身の中に何かが顕現化したのが分かった。内容も分からず薫は砲を敵陣に向かって全力で撃つ。光線を残してまっすぐに飛んだそれは、まばゆい閃光を伴って何かに直撃する。


「直撃、したみたいだけれど……」


 偵察機を周辺に向かわせたが、有用な情報は得られていない。薫は破壊された偵察機を修復できないか試みた。


 一瞬乱れた上空の映写装置の映像だが、すぐに回復してまたシルエットが映し出された。


『反抗勢力の皆さん。わたくしは残念でなりません』


 若干の憂いを帯びた澄んだ高い声は、無念さをあらわにして語る。


『神の子を葬る程度の力しかない武器で、このわたくしを殺せるなんて思っているのでしょうか? わたくしはたかが神の子程度ということなのでしょうか!?』


 潤んだ声は、屹然とした威厳を持っていた。


『神をも従わせたわたくしに挑むというのなら、世界を壊すつもりでお出でなさい』


 世界が、震撼する。


 揺れではない。世界が最後の時を迎えたかのように、歪み、むせび泣くように、大地を、空を、すべてを震撼させた。


 何事かと目を瞠った四人は、変化を見た。


 世界は極彩色に彩られ、あらゆる建造物は一瞬にして衰退し崩壊していった。


 一定以上の魔力耐性のない生命は干からびて、その生命力はすべてそれに吸い上げられていく。大地すらも、生命を育む偉大な地母の活力が吸い上げられ、干からび裂けていく。


 生い茂る緑も残らず灰色に変色し、腐臭すら漂わない枯れた世界へと変化していった。


 眼に見えるだけでも、忽ち荒廃した荒地に姿を変えていった。


 そして伏していた龍が身を擡げるように、裂けた大地から緩慢な動きでその巨大すぎる肢体を地面から引きずり出していく。


 地響きと共に、美鈴たちの学校も崩れ始める。咄嗟にゆかは美鈴を抱いて飛び上がった。薫は慌てて腰を抜かして動けないシャルロットの腕を引いて、高射砲に飛び乗る。それと同時に高射砲は脚を伸縮させて跳んだ。


 瓦礫の山と化した校舎跡地に高射砲が着地すると、その隣にゆっくりとゆかも近づく。


 呆然とした三人が、後光を輝かせるそれを見上げた。


「神をも従わせる……」


 シャルロットが呻くように、その信じられない事実をつぶやく。


 立ち上がった巨大なそれは、神話上に存在する神をいくつもぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような姿をしていた。


 一番下には地上最大の哺乳類の形をした神。その背からは蓮の花が生え、そこから無限の慈悲と千の腕が生えた神。首があるはずの場所にはまた違う神の上半身があり、腕の位置には違う神の顔があった。肩には金色の鎧を着た全知全能の神が生えている。無数の神々が混ぜ合わされたそれは、もはや神と呼ぶにはおぞましすぎる姿だった。


 見上げるように巨大なそれの最上部には巨大な神殿が築かれ、そこにすべての神々を混ぜ合わせたそれをも凌駕する何かが居ることが分かった。圧倒的な力の差に、虚脱する。しかしゆかの腕の中から降りた美鈴だけは、表情のない顔でそれを見据えていた。


『さあ、おいでなさい。矮小なる魔法使いたち。神の母に挑む覚悟はできて?』


 ガラスのベルを丁寧に鳴らしたような声で、天上にたたずむそれが嗤う。すべての生物を見下し、軽蔑し、憎悪し、殺意を抱くほどに愛したそれが、悠然と佇み、美鈴を待っていた。


 それの神々しさにすべてを忘れかけた三人は震えるのをこらえて、美鈴を見た。


 小さな背中は、ただまっすぐに遥かな高みにいるそれを視線を交わらせていた。


「み、美鈴?」


「みーちゃん?」


「ミレイ……?」


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