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残った美鈴たちは、戦闘の準備を始める。
「屋上に出ましょう」
「じゃあ、アタシが連れて行ってあげる」
ゆかも魔装具を装備し、美鈴とシャルロットを両手に抱いた。
「背中につかまって」
頷いて薫も素直にゆかの背中にしがみつく。そしてゆかは城壁と校舎のわずかな隙間から、一気に屋上まで飛び出した。
「揺れるよ! しっかり捕まって!」
ゆかが叫び、全員が鎧の刃に気をつけてしがみつく。その刹那、補助ブースターと物理干渉を限定する結界が展開され、人類の法則を嘲笑うような超高軌道を見せた。
ゆかが通り過ぎた軌跡に、無数の光の矢通り過ぎていく。見るとグランドに無数の黒い弓兵が展開して、魔法の矢を射出していた。
ゆかの結界のおかげで、慣性につぶされはいないが猛烈な吐き気に苛まされた薫が、次々と送られてくる情報を元に作戦を組み上げる。
「ゆか、高射砲の横に私たちを置いて。あなたはこのまま飛び続けなさい」
「分かった」
我こそが空の王だといわんばかりに縦横無尽に飛び続けたゆかは、急降下するように屋上に降りて三人をおろした。美鈴とシャルロットは青ざめさせてその場にへたり込む。ゆかはまた音の壁を置き去りにして大空へ飛び出す。あたかも大砲が頭上で激しく嘶くかのような轟音が、何度も何度も鳴り響く。手が敵を挑発するようにいやらしく空を飛び交う音だ。
「この程度の手勢で、なにを脅えているの? あなた、元は反抗軍の首領なのでしょう?」
恐怖し震え上がっているシャルロットに、薫が尋ねる。
「こ、こんな数の人たちを、一度に相手にしたことなんてないよ……」
反抗軍といえば聞こえはいいが、その実はほとんどが農民や商人ばかりで、軍勢を相手にするよりも駐屯地や斥候を罠にはめて動けなくすることが精々だった。
攻撃態勢の軍勢を相手にする事があれば、シャルロットたちは即座にその場から逃げ出していたのだ。
「この程度、ものの数でもないわ。惜しいわね。もしも私があなたの世界にいたのなら、一瞬にして軍配を奪い取って見せられたのに」
悠然と笑みを湛えた薫は、余裕の勝利宣言をして見せた。
「勝利条件は、敵の殲滅。かく云う敵はざっと十万人くらいね」
薫は楽しそうに笑い、屋上からグランドを見下ろした。
「ようこそ。アルマニア帝国奪還軍の皆様」
魔界の軍将であっても、そこまで傲岸不遜な態度は取れないだろう。薫は敵の前で胸を張り両手を広げてから大きく優雅に一礼して見せた。その背後で美鈴が心配そうに眉をひそめ、シャルロットは今にも卒倒しそうな顔をしている。
「私はウンミット・インメル・ゲヴィネン・ヘンリッヒケント=全軍団長。そしてこちらは私の友、カレック・ランド・ディボズィヒト・ツェゲッベン=完成した世界。あともうひとり、あなた方愚鈍なる奪還軍の攻撃をいともたやすく回避して見せている、ビッテゲベン・ズィミア・エイン・ブッセウンド・ヒルフロス=那由多の彼方」
中空でゆかは制止して、一度優雅に礼をして見せた。この瞬間は名乗りの時。攻撃はしてこない。
「それと、異界の友ビッテ・ヴィエダー・ディカーフト・オンヴィヒティング・ディーガ=開放の春風。あなた方雑魚相手には少しばかり勢を構えすぎては居ますが、私雑魚相手にも全力を持って相手をするのが礼儀と思いましたので、どうぞ豚のような悲鳴を上げて、蛆のように死んでくださいませ」
上品な笑みをたたえた薫に十万の怒号が向けられた。校舎の外も、周囲の家をも破壊して、その軍団は攻め込んできていた。薫の手の資料には、その被害が正確に映し出されていた。その事実に、誰よりも激しく薫本人が激怒していた。
「それでは、烏合の軍を取り仕切る方、おっと、失礼。蛆の群の頭はどれでしょうか? あいにく、蛆を見分けられるほど、私器用じゃないもので」
グランドに集まって弓を射ている集団の中に、アッガレッシオンは居ない。彼は少し離れた場所に本陣を敷いているようだ。
その集団の中で、ただひとり騎乗した騎士が居た。それがこの弓兵たちの長らしい。
「我こそは!」
憤怒に震えた声が聞こえた。どうやらその騎士はしゃべれるらしい。




