34
「うそ……」
破けた服は直っていないが、そのせいでケガなんて元々なかったとしか思えない肌が露出していた。
「治ってる……」
当のゆかもあれと首をかしげて、今まで痛んでいたはずの箇所を見て驚く。
「ぼ、私にできるのは治癒力を高めるだけだから、流れ出た血とかは戻らないけれどね」
自嘲と照れ笑いをない交ぜにしたような不自然な笑みでいうと、驚く二人は改めてヴィエダーが本物の魔法使いである確信を得た。
「本当に魔法使いなんだ」
感心するゆかは何度も怪我を負ったはずの場所を動かしたり、触って確かめてそのたびにおおとつぶやく。
しかしその一方で薫だけは納得していない。顎に指を当てて、じっとヴィエダーを見る。
「ところで、今のが狙っていたのは、美鈴だったわけ?」
その問いに、激しく動揺したヴィエダー。
「そもそも、あなたは魔法使いなのよね? 美鈴は元からそうだったの?」
すでに薫の目は分かりきっていると云っている。確証を得たいから尋ねているのだろう。勘の鋭い彼女だ、ヴィエダーのリアクションだけで十分だった。
「じゃあ、あなたを狙ってきたわけね。それに、巻き込まれた、と」
厳しい言葉に唇を噛むのは、それが間違っていないことを自分が一番分かっているからだ。居を正して小さな拳を握り、ただ俯いた。
「か、薫。何もそんな風に言わなくてもさ……」
巻きこまれた当人がそういうが、薫もまた巻き込まれたひとりといっても過言ではない。
手厳しい言葉に堪えていたのは、ヴィエダーだけではなかった。美鈴がゆかの手を両手で握ると、額に当てて俯いた。
「どしたの?」
ゆかが尋ねると、美鈴が微かに震えているのがわかった。
「ごめんなさい。わたしが、迷ったからだ」
その言葉の意味が分からず、首をかしげる。
「もう、迷わないから。悪い人は、皆倒すから……」
祈るようにささやく声は震えていて、彼女は何度も詫びた。
「わたしが、すぐやっつけてれば、綿貫さん、けがしなかったのに!」
「なんでそんなこと言うの!?」
突然の怒声に、美鈴は小さい肩を余計に小さく竦めてまた詫びた。ゆかと薫は眉を吊り上げた。
「美鈴。あなたは私たちを助けてくれたんじゃないの?」
薫が諭すようにいうと、美鈴は真っ赤にさせた顔を上げた。
「でも……」
まだぐずる鼻声で何か言おうとして、ゆかが美鈴の頬に手を触れる。
「でもじゃない! みーちゃんが助けてくれなかったら、アタシら死んでたんだよ?」
その言葉に、美鈴とヴィエダーは余計に顔をしかめてしまう。
「ごめんさい……」
消え入りそうな声でヴィエダーが謝ると、ついに泣き出してしまった。
「やっぱり……」
押し殺した声で薫が言うと、案の定ヴィエダーの肩が揺れて、ぼろぼろと大粒の雫を流して何度も詫びて許しを乞う。
「ふぅん……」
すっと目を細めて鼻を鳴らした薫。どうすればいいのか、検討もつかないゆかは三人の顔を見て戸惑うが、ちらりと自分達以外、店の奥に逃げ込んだ人々が恐る恐る様子をうかがっているのが見えて眉根を寄せて立ち上がる。




