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「っッ!?」
完全に混乱していた。武器が何も想像できない。
ふたりも顔を凍りつかせて、身動きができない。いや、そもそも自分達に向かってそれが向かってきているという事に反応しきれていない。
一瞬という間に、殺到する蛇が薫の目と鼻の先に伸びていた。
咄嗟に、いや、ゆかの反射神経が彼女の体を動かしていた。全体重をかけて薫を押し倒したゆかは、しかし自分が避けきることはできなかった。
「ぐっ!」
苦悶の声を漏らして倒れる。壁にぶつかった黒騎士は、壁に張り付き、もう一度狙いを定めようとして、体の内側から無数の刃があふれれだして解けるように砕けた。
「はぁ、はぁ……」
全身からどっと汗を噴き出させ、肩で息をしている美鈴。笑う膝を何とか叱咤して、引きずるようにしてゆかのもとに歩み寄った。
「わ、わたぬき、さん……」
薫に覆いかぶさるようにして倒れているゆか。彼女が流した血で、その周囲も下敷きになる薫までもが赤く染まっている。
美鈴が隣に座り込み彼女に触れると、下敷きになっている薫が慎重に彼女の体を起こした。
「だ、大丈夫だから。それより、みーちゃんこそ……」
苦痛に顔を歪めながらも、ゆかは美鈴に微笑みかけた。
「だいじょうぶじゃないよ! いっぱい、血が出てるっ!」
顔を青ざめさせて、何とかできないのか必死で考えたが思いつかない。救急車を呼ぶ事を完全に失念していた。
「ミレイ、ちょっと」
すっと美鈴の隣に座り込んだヴィエダーが、ゆかの体に触れた。その顔はむしろ怪我をした当人よりも重傷を負っていそうなほどに暗い。
「大丈夫。これなら、すぐに治せるから」
三人に向けて微笑みかけたヴィエダーは、集中するように軽く目を閉じる。そしてその手に淡いオレンジ色の光が灯り、触れられた箇所から、じわりとぬくもりが流れ込んできた。
「わ、な、なに?」
決して不愉快ではなく、むしろ心地良い感覚にゆかは驚く。しみ込んでいくように全身に広がっていくぬくもりはゆっくりと傷ついた部位に集まっていき、そして火傷のような痛みを伴う熱を奪っていった。
「魔法、みたいね……」
薫が目を瞠ってつぶやくと、ヴィエダーは思わず苦笑を浮かべる。
「そういえば、君だれ?」
ゆかがいまさらながら尋ねた。ヴィエダーは閉じた目を開いて、ゆかの目を見た。
「あ、えっと……」
そして困ったように視線を彷徨わせる。
「あなた、魔法使い?」
的を射た薫の発言にびくりと震え、困り果てた末に美鈴を見た。
突然助けを求めらた美鈴だが、彼女だってどう説明して良いのか分からない。同じように何度も言いよどんで、なんとかひとつだけ答えることができた。
「え、っと。良い魔法使いのヴィエダーだよ」
言っておきながら、美鈴は自分の説明能力の低さに頭を抱えたくなった。案の定思いっきり眉をひそめた二人の視線がヴィエダーに向く。
思いっきり胡散臭いものを見る目で見られたが、その間にゆかの治療が終わっていた。
「あ、ほら、もう治ったよ!」
ヴィエダーがいうと、疑わしそうに目を細めていた薫がゆかのケガがあった部分を見て驚く。




