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鋼がこすれる音と共に、それが美鈴に近寄ろうと歩み寄ってきた。攻撃を防いだ盾は、現れたときと同様にいつの間にか消えている。
「突騎兵じゃない!? 奪還軍の旅団長!?」
迫るそれを見て、美鈴の斜め後ろに立つヴィエダーが悲鳴じみた声を上げた。その身が固くこわばり、元々血色の良くない顔がさらに青くなった。
「関係ない。わたしは、綿貫さんと天沢さんを守るだけだから」
一方、表情すら消えた美鈴は、そっと自分の左胸に触れる。そこには確かな熱がこもっていた。
黒い甲冑を着込んだそれは、四つの赤い眼を兜に象嵌されていた。せわしなく動く目が、美鈴とヴィエダーを見つけて止まる。いくつも細く分かれて尖っているそれのマントが、今しがた店を襲撃した正体だ。
「あなたは、どうしてこんなことができるの?」
美鈴が氷よりも冷たい声で尋ねるが、返答の変わりにマントが蛇のように動いて美鈴に向かって殺到する。美鈴は右手をまっすぐ前に掲げるだけで、抵抗を見せない。
ゆかが絶叫した。
引き裂かれる美鈴の肉。赤い液体が飛び散る。
そうなるはずだったのに、マントの蛇はすべてぐしゃぐしゃにつぶれて、真っ赤な火花が散った。神の持つはずの盾が、美鈴を守っていた。
「ムダだよ……」
つぶやき、美鈴は虚空から一振りの剣を取り出す。
「あなたは、ゆるさない」
伝説の騎士が持つはずの片手剣をもち、美鈴は前へ足を踏み出す。盾は消えていた。
そして黒い騎士はやっと気づいた。彼女が、どんな魔法使いの尺度も越えた怪物であるということに。腰に帯刀したサーベルを引き抜き、全力で振るう。刀身に懇親の魔力を込めた一撃は、その刀身を三倍近く引き伸ばす。
間合いは確実に騎士のほうがある。小さな少女からすれば、それは絶望的な距離。しかし彼女はためらいなく、手の剣を振るった。
空間が裂けたような錯覚。見ていた誰もが、今そこがずれた様に見えただろう。
それは間違いではない。
その剣は、正々堂々と戦えばどんな戦いにも勝つという、因果を挿げ替えてしまう特性をもつ。空間程度の些細な間合は捻じ曲げて敵を切断する。
音を超えた波動が、サーベルを振り下ろす騎士の胴をサーベルごと切り裂いた。剣風で分断された上下の胴と落とされた両腕がばらばらになって飛んでいく。
美鈴の振るった聖剣によって、魔力の残滓が周囲に細かい金色の光の粒になって舞う。
荘厳な姿に、ヴィエダーを含めた三人は我を忘れて見とれていた。
その当人は、奥歯をかち鳴らせ、今にも人を殺めた恐怖に泣き崩れそうになっていた。
誰もがその美しさに息を呑んでいる中、ただひとつ、憎悪に震えるものがいた。
胸から下と両腕を失った黒騎士の残骸が、怒りと憎悪だけをたぎらせて、半分以下にちぎられたマントを使い身を這わせて美鈴に近づいてくる。全身の甲冑がひび割れてもなお、まだ闘争心はなえていない。それどころか明確な殺意を持ち、美鈴への敵意は増している。
その姿を見て、目元を潤ませた美鈴は、唇を震わせながらも敵であるはずの相手を諭す。
「あなたじゃ、勝てないよ。帰って、もう二度とわたしたちの前にこないで」
声は震えていた。まるで命乞いをするように、声だけであれば立場が完全に入れ替わっている。
しかしその警告を相手が聞くはずが無い。ず、ずと音を立てて這ってくる。美鈴の顔が苦悩に歪んだ。




