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18


 暗い。


「ここは、どこだろう?」


 首をかしげるが、果たして本当に体なんかあるのだろうか。その違和感を覚えて、手を見ようとしたが、何もなかった。いや、暗くて何も見えないだけかもしれない。


 その中で、何かがうごめく。


「なに?」


 咄嗟にそれから距離をとろうとしたが、間が開いた感覚はない。うごめく気配はそこにあるままだ。


「こんにちは、わたし」


 突然闇の向こうから声が聞こえた。それも良く聞き覚えのある声だった。


「だれ?」


 誰何すれば、かすかに笑う声が聞こえた。


「わたしは、わたし。逆泉美鈴」


「え?」


 帰ってきた答えに、耳を疑った。しかし目の前に現れた顔に、さらに驚愕した。


「ほら、そうでしょう?」


 そこには、自分がいた。


 毎朝鏡で見る自分の顔だ。首から下もちゃんとあり、当然それも自分だ。さっきまで着ていた服まで同じである。


「だ、だれなの?」


 冷笑を浮かべた正面の美鈴は、可笑しそうに笑う。


「だから、わたしは、あなた。いっぱい人を傷つけて、両親を殺した、逆泉美鈴だよ?」


 目を見開いて、美鈴は固まった。


 そして悲鳴を上げる。のどの奥から、獣の咆哮のような叫びを上げた。


「ほら、あなたが一番良く知ってるでしょ? この前も、人を殺した!」


 苛む言葉。すべてが美鈴に突き刺さって、隠してきた古い傷をえぐっていく。


「三年前、あなたのせいでお父さんは事故を起こして、お母さんも巻き込まれて、死んじゃった! あなたが約束を破ったから!」


 両目から涙が溢れ出す。耳をふさいでその場でうずくまった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 暗かったはずなのに、そこはどこかの部屋の中だった。


 乱雑に積み上げられた本と、何かの研究機材が並べられ、一番奥には宝石がちりばめられた扉がひとつあった。


「ほら、もう一度、ちゃんと見ないとね。悪いことをしたんだから、反省しなきゃ」


 うずくまる美鈴の隣に、美鈴がかがみ込んで、髪の毛を掴んで顔を上げさせた。


 背の高い男性がひとりいる。白衣を着こんでいて、せわしなく手を動かしている。美鈴の位置からでは見えないが、取り付けられた宝石の周りに何かを刻み込んでいるようだった。


「好機さん。そろそろお茶にしましょう」


 部屋に入ってきた女性。目鼻立ちの整った美人だ。顔を上げた白衣の男性は、無精ひげだらけの顔をにこりと微笑ませる。



 手に持っていたものを机に置いて、両手を胸の高さまで挙げてぱたぱたと動かした。先天的に声帯の一部が変形していたらしく、会話はこうして手話だったらしい。


 そして二人が出て行き、しばらくしてまたドアが開いた。


「だめ、ダメダメダメダメダメダメダメ!! こないで、入ってこないで!」


 新たに入ってきたのは、三年前の美鈴だった。小さい美鈴は吸い寄せられるように扉に近づいていく。うずくまった美鈴は必死になって止めようとするが、それを羽交い絞めにして妨害するもうひとりの美鈴。


 そして扉に近づいた小さな美鈴は手を伸ばして、それに触れた。


 視界が大きく揺れ、開いた扉から光が漏れ出す。


 ひとりでに動き出したそれに驚いて、手を引っ込めるが、その扉はすでに起動していた。


 揺れに気づいて隣のリビングから飛んできた二人は、見るなり即座に状況を察したのだろう。


 女性が小さな美鈴を抱きあげ走り、男性は扉に近づき何か作業を始めるが遅かった。


 もう一度強い閃光があふれ、一瞬視力が失われた。


「いやァアあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


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