12
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!」
全力で何度も頭を下げると、その場にいた大人たちは一変して人のよさそうな笑みを浮かべた。その中一番最初に恫喝の声をあげた五十絡みの大男が口を開く。
「なにを仰ってるんですかい。せっかくお嬢のお友達が遊びにいらしたんで、こンの坊主が何か粗相犯しちゃいねえか」
「大岡さんの顔怖いから、びっくりしてるんだよ」
饒舌にしゃべりだした五十絡みの男、大岡を制して美玲が割って入った。
大岡がそんなぁとショックを受けた顔で固まるのを尻目に、美鈴は魂が抜けかかっている二人を連れて母屋の中に入っていった。
「お帰り、美鈴」
玄関を潜るとすぐに振って来た声に、悲鳴を上げることすら出来ずに二人は固まった。
「ただいま、おじいちゃん」
出迎えたのは、武人だった。
渋い草色の着流し姿で、左目には眼帯をしていた。髪は白髪が混じっているが禿げる兆しはまったくない。顔にはいくつも深いしわが刻まれて、左の頬から額にかけては古い刀傷が走っている。
時代劇から抜け出してきたかのようなその武人、美鈴の祖父は針金でも入ったかのようにまっすぐと立っている。
その立ち居振る舞いには揺るぎも隙もなく、威風堂々とした姿は悠然とした巨木のようだった。
「君達が美鈴の友達かい?」
強く覇気のある声は、しかしどこまでも優しかった。その声を聞いて、二人はあれと首をかしげてもう一度老人の顔を見て、その柔和な顔に驚く。
「あ、はい」
頷くゆかは慌てて帽子を脱いで自己紹介して、続いて薫もそうした。
「綿貫さんに、天沢さんか。こんなボロ家で申し訳ないけど、自分の家だと思っていいから。さ、あがりなさい」
「と、とんでもないです! おじゃまします」
土壇場で、ゆかは強くなれるようだ。薫はそわそわして、妙に落ち着かない。
「後でお茶でも持っていくから、美鈴の相手でもしてやっておくれ」
言い残して祖父は奥に消えていった。玄関には屏風が置かれていた。竜と虎が睨みあう見事な物だった。
慣れた手つきで靴をそろえて端に置いた美鈴に習い、二人もそうして上がった。玄関だというのに、普通の家のリビングが入りそうなほどの広さがあり、二人はもう一度唖然となる。
「ね、ねえ。美鈴さんのおじいさん、何かしているの?」
薫が恐る恐る尋ねると、美鈴は人差し指を顎先に当てて少し考えた。
「えっと、たしか、組長」
さっと血の気が失せた気がした。
「わたしの部屋、いこう」
顔を蒼くした二人を気遣う美鈴は、屏風の横を抜けて、玄関ホールの隅にある階段を上りだした。彼女の部屋は二階にあるらしい。
それについていく薫はそわそわと、もうどうにでもなれと開き直ったゆかは興味深そうにきょろきょろしている。
二階に上がったすぐ左側が美鈴の部屋だった。
「ひ、ひろい……」
中に通されると、何のためにそうしたのか分からないほどだだっ広かった。
勉強机と小さなテーブルがひとつずつと、座布団とクッションが数個ある。あと申し訳程度の洋服箪笥がひとつあるだけで、残りの壁は満杯の本棚と平積みされた本によって埋め尽くされていた。
「ごめんね。すごく散らかってて……」
美鈴が恥ずかしそうに謝るが、ゆかたちにしてみれば信じられない部屋の広さと本の量でそれどころではない。




