13
「元々は、こっちじゃなくて離れに居たんだけど、あっちは今使えないから……」
美鈴の言葉にさらに、ふたりは驚く。
「離れもあるの!?」
めまいすら覚え始めてきた二人を、美鈴はだいじょうぶ? といって気遣い、座布団を出してテーブルの前に置いた。
「ここ座ってて。今なにか持ってくるから」
ありがたく座らせてもらうと、美鈴が立ち上がった。それと同時にふすまがたたかれ、少し開いた。
「美鈴、入っていいかい?」
祖父の声だった。
「いいよ。どうしたの?」
ふすまが開ききると、お盆を持った祖父がいた。その横で大岡が何か騒いでいる。
「お茶、もってきたよ」
「ありがとう!」
お盆を受け取ろうとして、美鈴は何か思いついたように振り向いた。
「天沢さんが、おじいちゃんがなにしている人か知りたがってたよ」
そういって祖父を中に招いた。当の薫は墓穴を掘ったと心の中で悲鳴をあげた。
「うちは古臭いからね。お嬢さんには不思議だったかな?」
ははと笑い、祖父は端に正座した。
「わたし、着替えてくるね」
着替えを持って、美鈴は退室した。
残された二人は一瞬気まずくなったが、すぐに祖父の方から口を開いた。
「天沢さん、というと、善治くんの娘さんかな?」
突然出た自分の父親の名前に驚いた薫は、はいと頷いた。
「そうかそうか。お父さんは元気かな? 最近はあまり顔を見てないからね」
最初のイメージとはかけ離れた柔和は雰囲気に少し戸惑うが、そろそろ薫は自分を取り戻し始めた。
「父とは、なにか?」
そこで老人は目を細めて笑う。
「君のおじいさんが起業した時に、人を少し貸してあげてね。それから贔屓にしてもらっているからね」
はぐらかされたような気もするが、なにか深く立入ってはいけないニュアンスがあった。
「話を折ってすまないけれど、こんな老いぼれの頼みごとをひとつ聞いてくれないかな?」
聞くだけで良いからと付け加えた。二人は顔を見合わせてから頷いた。
「あの子は、少し複雑な思いを抱いているみたいだ。どうか、助けになってやってはくれるかな?」
切実な訴えに驚いた。しかし驚く薫を差し置いて、ゆかは力強く頷いて見せた。
「アタシなんかでよければ、いくらでも」
普段の色ボケしているさまからは想像もつかない、真剣な顔だった。
「私も、手伝えることでしたら、何でも」
社交辞令や口先だけの言葉ではなかった。二人は確かに胸の奥で誓った。
どこか浮世離れした美鈴を、二人はよく妖精のようだと例えている。
それはふらりふらりとした雰囲気や、どこか危なっかしいところなどからだ。
他のクラスメイトたちはそんな彼女が近寄りがたい存在で、遠くから見て楽しんでいるだけなのだが、二人はそうできなかった。危なっかしいから見てられず、いつも手を出してしまう。
両親がすでに他界しているという話を聞いて、イレギュラーを排斥しようとする幼く冷酷な子供社会の中で、二人だけは美鈴の側に立った。
おかげで完全に孤立はしていないものの、逆に妬みから来る当て付けが目下の悩みである。
まっすぐに見据えられて、祖父は一度頷いた。その顔がどこか安心したような、肩の荷を降ろしたときのような和んだ顔になっていた。
「そうか、よかった」
ふうと息を吐き、ふすまが開いた。
「どうかしたの?」
戻ってきた美鈴が、真剣な雰囲気に驚いた。
「それじゃ、老いぼれはこれで失礼しようかな」
立ち上がった祖父は一度美鈴の肩を優しく叩いて、部屋から出て行った。
「どうかしたの?」
ふすまが閉まったのを見て、もう一度尋ねるが、二人は答えず乾いた笑みを浮かべた。そして、ゆかはがばっと音を立てて立ち上がる。
「み、みーちゃん……?」
戦慄くゆか。はっと美鈴は身の危険を覚えた。一体自分のなにがいけないのか、改めて自らを見直した。
かなりゆったり目のパーカーに、動きやすいキュロット。前髪は頭のてっぺんでまとめて髪ゴムで留めている。自宅ではいつも通りの格好だ。
なにかおかしいところでもあるのだろうか? 疑問がよぎったその時、すでに美鈴の矮躯はゆかの手中にあった。
「なんだ! それはゆるキャラなのか!? そうかそうなのだな!? ちきしょうなにをしてもかわいいぞちきしょぉおおお!」
「ひぁあぁ!?」
謎の叫びを上げて、ゆかは美鈴の全身を撫で回してまさぐり頬擦りをした。




