表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/82

13


「元々は、こっちじゃなくて離れに居たんだけど、あっちは今使えないから……」


 美鈴の言葉にさらに、ふたりは驚く。


「離れもあるの!?」


 めまいすら覚え始めてきた二人を、美鈴はだいじょうぶ? といって気遣い、座布団を出してテーブルの前に置いた。


「ここ座ってて。今なにか持ってくるから」


 ありがたく座らせてもらうと、美鈴が立ち上がった。それと同時にふすまがたたかれ、少し開いた。


「美鈴、入っていいかい?」


 祖父の声だった。


「いいよ。どうしたの?」


 ふすまが開ききると、お盆を持った祖父がいた。その横で大岡が何か騒いでいる。


「お茶、もってきたよ」


「ありがとう!」


 お盆を受け取ろうとして、美鈴は何か思いついたように振り向いた。


「天沢さんが、おじいちゃんがなにしている人か知りたがってたよ」


 そういって祖父を中に招いた。当の薫は墓穴を掘ったと心の中で悲鳴をあげた。


「うちは古臭いからね。お嬢さんには不思議だったかな?」


 ははと笑い、祖父は端に正座した。


「わたし、着替えてくるね」


 着替えを持って、美鈴は退室した。


 残された二人は一瞬気まずくなったが、すぐに祖父の方から口を開いた。


「天沢さん、というと、善治くんの娘さんかな?」


 突然出た自分の父親の名前に驚いた薫は、はいと頷いた。


「そうかそうか。お父さんは元気かな? 最近はあまり顔を見てないからね」


 最初のイメージとはかけ離れた柔和は雰囲気に少し戸惑うが、そろそろ薫は自分を取り戻し始めた。


「父とは、なにか?」


 そこで老人は目を細めて笑う。


「君のおじいさんが起業した時に、人を少し貸してあげてね。それから贔屓にしてもらっているからね」


 はぐらかされたような気もするが、なにか深く立入ってはいけないニュアンスがあった。


「話を折ってすまないけれど、こんな老いぼれの頼みごとをひとつ聞いてくれないかな?」


 聞くだけで良いからと付け加えた。二人は顔を見合わせてから頷いた。


「あの子は、少し複雑な思いを抱いているみたいだ。どうか、助けになってやってはくれるかな?」


 切実な訴えに驚いた。しかし驚く薫を差し置いて、ゆかは力強く頷いて見せた。


「アタシなんかでよければ、いくらでも」


 普段の色ボケしているさまからは想像もつかない、真剣な顔だった。


「私も、手伝えることでしたら、何でも」


 社交辞令や口先だけの言葉ではなかった。二人は確かに胸の奥で誓った。


 どこか浮世離れした美鈴を、二人はよく妖精のようだと例えている。


 それはふらりふらりとした雰囲気や、どこか危なっかしいところなどからだ。


 他のクラスメイトたちはそんな彼女が近寄りがたい存在で、遠くから見て楽しんでいるだけなのだが、二人はそうできなかった。危なっかしいから見てられず、いつも手を出してしまう。


 両親がすでに他界しているという話を聞いて、イレギュラーを排斥しようとする幼く冷酷な子供社会の中で、二人だけは美鈴の側に立った。


 おかげで完全に孤立はしていないものの、逆に妬みから来る当て付けが目下の悩みである。


 まっすぐに見据えられて、祖父は一度頷いた。その顔がどこか安心したような、肩の荷を降ろしたときのような和んだ顔になっていた。


「そうか、よかった」


 ふうと息を吐き、ふすまが開いた。


「どうかしたの?」


 戻ってきた美鈴が、真剣な雰囲気に驚いた。


「それじゃ、老いぼれはこれで失礼しようかな」


 立ち上がった祖父は一度美鈴の肩を優しく叩いて、部屋から出て行った。


「どうかしたの?」


 ふすまが閉まったのを見て、もう一度尋ねるが、二人は答えず乾いた笑みを浮かべた。そして、ゆかはがばっと音を立てて立ち上がる。


「み、みーちゃん……?」


 戦慄くゆか。はっと美鈴は身の危険を覚えた。一体自分のなにがいけないのか、改めて自らを見直した。


 かなりゆったり目のパーカーに、動きやすいキュロット。前髪は頭のてっぺんでまとめて髪ゴムで留めている。自宅ではいつも通りの格好だ。


 なにかおかしいところでもあるのだろうか? 疑問がよぎったその時、すでに美鈴の矮躯はゆかの手中にあった。


「なんだ! それはゆるキャラなのか!? そうかそうなのだな!? ちきしょうなにをしてもかわいいぞちきしょぉおおお!」


「ひぁあぁ!?」


 謎の叫びを上げて、ゆかは美鈴の全身を撫で回してまさぐり頬擦りをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ