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そして車は一軒の邸宅に滑り込んでいき、車庫の中に止まった。
遊太は遠慮がちに窓をノックした。外からは絶対に中が覗けないように黒いスモークが張られていため、どうなっているかは雄太は知らない。
ドアが開かないので、彼はトランクから荷物を取り出して両手に持って待つ。
さらにしばらくして、ドアが開くと、なぜか一番最初に美鈴が飛び出してきて、車から離れた。荒い息をついて脅えた小動物のようだ。服はそれほど乱れてはいない。
「遊太さんの裏切り者!」
思いっきり睨まれたが、当の本人はははと笑って受け流す。
「到着しましたよ」
遅れて出てきて二人は、暗い車庫の中を見回した。今乗ってきた車の他にもう一台高級車が停まっていて、さらに奥には中型のバスが見えた。
それらが駐車場に停まっていて、さらに余裕のあるスペースには簡単な整備場まである。その車庫の建物だけで相当な広さだ。
「どうぞ、こちらへ」
遊太が建物の外へ案内した。そこで二人はわが目を疑う。
「お帰りなさいませ、美鈴お嬢様」
「ようこそお出でくださいました、お嬢様のご学友の方々」
二十人の大の大人が整列して、声をそろえて直角に腰を曲げて頭を下げていた。
ゆかは完全に開いた口が閉じず、さすがの薫も目を見開いて固まる。
美鈴が薫かゆかの家に遊びに行くことはあったが、二人が彼女の家に遊びに来るのは今回が初めてだ。
今いる場所からもう少し離れないと、母屋全体は見渡せない。いかにも歴史と風格のある木造建築で、歴史のある温泉旅館だといわれても納得が出来た。
そして車庫はこれまた見事な蔵の一階部分に作られており、その蔵が学校の体育館とほぼ同等の大きさがある。
母屋と蔵の間の中庭には民家に咲くには立派過ぎる桜の木があり、それの足元には橋のかかった大きな池がある。
母屋の玄関から左右に整列した大人たちは、腰を九十度に折ったまま微動だにしない。全員黒いスーツを着込み、遊太がかわいく思えるほどの強面をしていた。
完全に”カタギ”ではない。そう直感した二人は今美鈴にしてしまった事を思い浮かべ、静かに死を覚悟した。
まさか噂のヤクザの屋敷が、美鈴の自宅だと思わなかった。
「ゆか、もう過ぎたことを後悔しても仕方ないから、あきらめましょう……」
目元を潤ませて、薫が決意した顔で歩き出した。遅れて顔を真っ青にさせたゆかがブリキ人形のようにぎこちない動作でついていった。
「ふたりとも、どうしたの?」
先を歩いていた美鈴が、振り返った不思議そうに首をかしげた。
「み、みーちゃん、お、怒ってない?」
ゆかが恐る恐る尋ねると、美鈴は思い出したようにすっと遊太の方を見て眉を吊り上げた。
「怒ってるよ。遊太さん、裏切ったから」
薫がいや、そっちじゃなくて、とつぶやこうとした瞬間、整列していた大人たちが顔を少し上げて押し殺した声を上げた。
その顔が鬼ですら泡を吹いて失神しかねない形相をしている。
「遊坊、テメェ、お嬢になにやらかしたんじゃ!?」
その大人の恫喝に悲鳴を上げたのは遊太ではなく、ゆか達の方だった。




