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「お待たせしました」
薫がうなずくのを見て、遊太は即座に車を降りて後部席のドアを開けた。その屈強な体つきとは裏腹に、しなやかで素早い動きだった。
「すみません。これ置いていっていいですか?」
薫が申し訳なさそうに紙束の入った手提げを指差す。
「どうぞ御気になさらずに、ご自宅の車と思ってください」
ありがとうと頷いて、三人は後部席から出た。美鈴は二人を見送るよう外に立つ。
「お嬢。だいぶ学校にも慣れたみたいですね」
よく磨かれて黒光りする車体に背中を預けた美鈴に、満面の笑みを浮かべた遊太が声をかけた。一拍置いて、美鈴は小さくうなずいた。
「私は安心しましたよ。本当によかった」
しんみりとひとりで頷く遊太。美鈴はどこか遠くを見るような目で、彼とは視線を交わさなかった。
それからしばらくして、二人はすぐに着替えを済ませて出てきた。元々準備していたらしい。
「わっ、わっ!」
二人の私服は、同性の美鈴から見てもかなり似合っていて、素敵だ。思わず目を輝かせていた。
薫はそもそもの外見がそうだが、育ちのよさそうな清楚な装いで、今日はロングのワンピースにケープを羽織っている。そのまま有力者達の立食会に飛び込んでも、まったく違和感を感じさせないだろう。
ゆかは逆にボーイッシュな格好だ。少し色の抜けたジーンズに黒いハイネックのセーターと丈の短いジャケットを羽織っていた。実年齢よりも二、三歳は上に見える。
「お待たせ」
目を輝かせてきょろきょろと二人を見る美鈴を見て、ゆかは顔をたるませた。
「お願いします」
「はい」
遠慮がちに薫は言って、遊太に二日分の荷物が詰まったカバンを手渡した。遅れてゆかも渡す。そして馴れた動きでトランクに入れると、ドアを開けて三人を後部席にすすめた。
車は今度こそ美鈴の自宅に向う。
最初に乗り込んだときと同じように、後部席の中央に美鈴が座っている。
その状況で美鈴は落ち着きがない。両サイドに座るゆかと薫を交互に見ているのだ。それを少しだらしない顔でゆかが見つめていた。
「さっきから、どうかしたの?」
学級委員の資料を片手に指折りしていた薫が尋ねた。先ほどからずっと真剣な顔で資料を睨んでいたのだが、どうやら見ていたらしい。
びくと肩を一度震わせてから、美鈴は照れた微笑を浮かべて見せた。
「ふたりともすごい美人さんだから、見てたくて」
美鈴の中でこの二人はいつも自慢する美人である。
それを誰が否定するわけではないのだが、もちろん当の二人からすれば、妖精のように神秘的な美鈴に言われても、素直に喜べないのが事実である。
案の定暗い影を落として微笑を浮かべた薫と、さきほど学校で暴走したときと同じように両手を戦慄かせるゆか。
突然雰囲気の変わった二人に、はっと本能的に危険を察した美鈴は二人から距離をとろうとしたが、ここは狭い車の中だ。
さっと顔を青ざめさせた美鈴は、運転席の遊太に助けを求めようとしたが、運転席と後部席を隔てる黒い板が、非情にもせり上がっていくのが見えた。
悲鳴を上げた。運転席で遊太はのほほんとした笑みを浮かべた。
「お嬢も、すっかりご学友の方々と打ち解けてるみたいで、私はうれしいです」




