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「そういえば、今日は大丈夫なの?」
頬を上気させていたゆかが、突然思い出したようにふたりの会話に割り込んできた。一瞬なんのことか分からなかったふたりは首をかしげた。
「ほら、みーちゃんちに泊まりに行こうって言う話し」
そこでああと声を上げて手を打った。
「でも、昨日の今日だし」
薫が眉根を寄せると、三人の横に車が突然止まって、運転席から人間がひとり飛びだすように降りてきて三人の前に来た。
怪訝に思った二人をよそに、美鈴はバツの悪い顔をして俯く。見るからにボディーガードという格好をした大柄な男は、その場で膝を付いた。
「お嬢! お帰りの時はお電話をとッ!」
活気のいい声で言いながら、彼女がひとりではないことにだいぶ遅れて気がついたらしい。言葉を切って左右の少女をじっと見て、にかっと笑った。
強面の部類だが、笑うと少年のような顔になった。
「お嬢のご学友ですね! いつもお世話になっています。私は逆泉家で下働きをさせていただいております、桐生遊太と申します」
お見知り置きを、と深々頭を下げる男。
事態を把握できない二人は、顔を見合わせてどうすると目だけで会話して、俯いていた美鈴が顔を上げて微苦笑を浮かべて二人の袖をつまんだ。
「大丈夫。遊太さん、たまに迎えに来てもらってる人だから」
その言葉を聞いて納得した二人は、自分達も自己紹介した。
「どうも、綿貫ゆかです。いつも癒してもらってます」
まだ少しだけ疑うような目をしたゆかは、顔だけで会釈した。元々ゆかは男性に対していつも強く当たることがある。学校の教師にだってそうである。
「はじめまして。天沢薫です。美鈴さんのクラスの学級委員を勤めさせていただいています」
愛想のいい薫はにっこりと少女らしく、少しおとなしめに微笑んだ。こちらは対極的で誰に対しても人当たりがいい。彼女に好感を持てない人間はそうはいない。
「いつもお嬢からお話聞いてます」
遊太は、ははと笑い立ち上がった。そして車の後部席のドアを開ける。
「たしか今日はお泊りのご予定でしたね。どうぞ、お乗りください」
そう言われてためらったゆかを差し置いて、最初に薫が乗りこみ、次に美鈴。そして二人が乗り込んだのを見て。ゆかが慌てて最後に乗むと、遊太がドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
滑り出すように走りだした車は、驚くほど静かだった。近づいてきたときはある程度聞こえた走行騒音も、車内からはまったく聞こえない。無言の車内で、突然雄太があっと声を上げた。
「お二人とも、一度ご帰宅なさいますよね?」
美鈴とゆかは疑問符を浮かべかけたが、薫がええといってすぐにうなずいた。
「ご自宅までお送りいたします。お二方のご自宅は?」
速度を緩めて、二人の答えを待つ。最初に口を開いたのは、やはり薫だった。
「私達、家が隣同士なんです。場所は、18番地です」
「ああ、そうなんですか。じゃあすぐ近くですね」
運転手として地理を完全に把握している遊太は、迷いもせず時間もかけずに二人の家の前まで車を向かわせた。




