リプレイ1回目(15)
王都に徐々に近づくに従って、徐々に人の流れが多くなっていった。各方面からから王都へ向かう人々の長蛇の列ができあがり、皆王都へ向かっている光景は壮観ともいえた。ふとシュンは前方の商隊に目を向けた。構成員は20名ほどだろうか。しかし特殊なのは馬車が檻を設置してある荷車をさらに引いていることと構成員のうち殆どが護衛であり、シュンたちの商隊の半分以上が商人たちであることと比べれば明らかにおかしな構成であると言えた。どうやら檻の中には男女合わせて7名ほどの人間が入れられているようであった。
シュンの視線に気づいたのだろう。グレイもそちらに目を向け、その商隊をみると顔をしかめた。しかし、グレイは何も言わなかった。
「あれは奴隷商人の商隊ですよ」
ラスもシュンたちの視線には気づいていた。なにも言わないグレイをみて、ラスがシュンの疑問に答えようと口を開いてくれたらしい。
「周りの護衛の首に金属の首輪が見えますか?」
シュンは目を凝らすと、確かに周りの護衛たちの首に全員金属の首輪が付いているのが分かった。首輪と言っても、表面に呪文が刻まれ、独特な芸術品のような装飾がなされているアクセサリーと言われても通用するような代物ではあったが。
「あれは奴隷に着ける魔道具の一種でしてね。最初に設定したキーワードと主の魔力に反応して痛みを発生させるのですよ」
仕掛けは簡単なのですが、腐っても魔道具ですから結構なお値段がしますよとラスは付け加えた。ラスには見慣れた光景だったのだろう、特に奴隷に対して思うところはないようであった。
「まぁ普通に生活していれば貧乏人の私たちには関係のない人たちですよ」
「けっ!人間を飼うなんざ同じ人間のやることじゃねーよ。女の子は愛でるもんだ、無理やり従わせるもんじゃねぇ」
グレイは奴隷に関してなにか嫌な思い出があるのかもしれない。彼にしては珍しく本気で怒っていた。
「そういった側面も否定はしませんが・・・」
ラスはなにかを語ろうとしたが、途中で言葉を飲み込んだ。ただ頭を揺らすと「色々経験していけばいずれは理解することです」と小さく囁いただけだった。
シュンは話を聞きながら、檻の中へと視線を走らせた。一際目を引く女性(シュンと同世代に見えるので女の子と呼ぶのが正しいだろうか)がいたからだ。髪は完全に白髪で、白い肌とあいまって非常に神秘的な雰囲気を醸し出している。檻の床に座り、目を閉じて下を向いている。周りがくたびれた雰囲気の中彼女だけはむしろ神々しささえ感じさせた。
ふとそのとき彼女が頭をあげた、シュンと視線が合う。
「!!」
シュンは彼女の双眸が真紅であることに驚いた。深く、そして赤い。思わず吸い込まれそうな眼差しに、まるで意識を吸い取られていくような錯覚に陥いり、ハッとなってシュンは目線をそらした。だがどうしても気になりもう一度彼女を見たが、既に彼女は顔を伏せてた後だった。
◇◇◇
「王都とぉ~~着!!」
正門の検問を抜けると、勢いこんでグレイは王都の中に走りこんだ。
「この人が賑わってる感じ!やっぱウルサザールは一味違うぜ!おいシュン、早く行こうぜ!」
手招きしてくるグレイにどうやら王都で一緒に行動することは決定事項らしいと悟ったシュンは苦笑いを返すと、グレイの後ろについていく。
「あなたたちは報酬も貰わないでどこに行こうというのです?」
まぁあなた達がそれでいいのなら私は嬉しい限りですけどねと意地悪く笑うラスに、周りの商人達がそれはそうだと笑いながら頷くのを見て、グレイは慌てる。
「ラスさんそれはないぜ~」
グレイの情けない声に皆がドッと笑った。
「冗談はこれぐらいにして、一度冒険者ギルドに寄りましょうか。」
冒険者の成り立ちを語ると長い。そもそも冒険者とは「危“険”を“冒”す者」のことを指す。つまり危険な仕事を人の代わりに引き受けることから始まったものであった。危険地域の探索、貴重薬材の採取、村の防衛に盗賊の討伐など多種多様な危険な仕事を引き受けるのである。また戦争においてもその経験は重宝され、傭兵としての側面も併せ持つともいえた。現在は昔ほど危険な仕事ばかりではなく、雑用などの生活に密着した依頼も増え、どちらかというと何でも屋、冒険者ギルドは人材派遣所の役割を果たすに至った。
仕事の性質上危険な仕事も未だに存在するため、間違って力がないものが受けないように仕事に等級が振られるようになった。危険度の高いものほど等級が高く、一番難易度が高いものをA+と定め、次にA、A-、B+とD-まで全体で12段階評価をが付けられるようになった。冒険者ギルドがまだ出来立てだった頃は、依頼にしか等級がなく、自分の実力を鑑みて自己判断で依頼を受けていたが、まだ若く有望な冒険者ほど身の丈に合わない依頼をうけ亡くなることが多いことから、冒険者自身にも等級をつけることに至った。Aランク冒険者とは、そもそもAランク依頼に耐えうるもののことを示しているのである。
◇◇◇
「これがシュン君の分の報酬です」
ラスはギルドの窓口でクエスト完了の証明書を提出すると、そのまま鞄の中から報酬を取り出し皆に配りだした。シュンは最後に報酬が手渡される。
「少し多いようですが?」
シュンは手渡された袋が明らかに周りの物より膨らんでおり、重そうであることを疑問に思った。中を確認すると案の定、当初の報酬より多い額が入っていたのである。
「そういうことは報酬をもらった仲間の前で言うものではありませんよ。まぁ今回は大丈夫でしょうけどね」
ラスはシュンのあまりに率直な態度に苦笑いしながら説明をしてくれた。
「今回はシュンの働きに対する正当な評価です。貴方に助けられたという意見が多数寄せられ、自分の分の報酬から一部あなたに移すようにとのお願いがありました」
その声に幾人かが頷いたのが見える。どうやら自分が回復魔法で助けた面々のようであった。
「ああ、だからそれは遠慮なく受け取ってくれ」
ムーアが皆を代表して声をあげる。シュンもここまで言われて断るつもりはなかった。有難くいただきますと言って懐へ収めた。
「ではこれでこの護衛クエストを完了する。またどこかで一緒のなったらよろしく頼む」
ムーアが最後に締めくくると、皆は思い思いに散っていった。
「坊主も頑張れよ」
「おっさんもな」
ギルドの門を出るときにかかった声に、振り返って頷くとムーアに別れを告げた。
◇◇◇
「よし!色町行くか!!」
スッパーーーン!!
「痛ってぇ~~~~、年上の頭を叩くなよ!」
大昼間の路上で、何はばかることなく提案してきたグレイに思わずシュンの手が動いてしまった。痛そうに頭をさすっているグレイは恨めしそうにシュンを睨んだ。しかし、なにを思ったのかニヤリと笑う。
「はは~~ん、さてはシュンお前どぅ・『スパパーーーーン!!』
「いっつ~~~~」
頭を抱えて蹲るグレイに自業自得と言わんばかりにシュンは彼を睨みつけた。顔をあげたグレイは少し涙目である。
「なんだよ!恥ずかしいからって暴力を振るうことないだろ」
馬鹿はほっとくのに限るとグレイを放置して歩き去ろうとするシュンに、慌ててグレイが追いすがる。
「ま、待てよ!悪かったよ!俺が責任とってお前を男にしてやるって!」
グレイの大声に辺りが一瞬に静まり返る。そして一斉に振り向くとグレイとシュンを交互に何回も見たのち、二人から明らかに距離をあけた。どうやら盛大に勘違いさせてしまったらしい。シュンも心なしかグレイからかなり距離をあけている。
「ち、違う!そういう意味じゃない!」
グレイは動転したのか、なにかを言い訳しようとしたが結局口をパクパク動かしただけで、最後に
「俺は、俺は女の子が大好きだーーー!!!」
と叫んでそのまま走り去った。
なんだかんだで残念なやつである。




