リプレイ1回目(14)
シュンは商隊の人々の間を歩いていた。周りでは比較的軽症だったものが、傷を負った人の手当をしている。亡くなった人も多いようで、重苦しい空気が立ち込めていた。とりあえずムーアに指示を仰ごうと彼を探していた。
「おっさん」
人ごみを抜けた先にムーアを見つけたシュンは彼に駆け寄った。
「おう、坊主か。お前は無事だったんだな」
顰め面でこちらに振り向いたムーアは、シュンを見ると表情を和らげた。しかし、すぐに表情を引き締めると、彼はシュンに言った。
「仲良かった・・・かどうかはわからねぇが、グレイのやつがやられた。」
「!」
「俺が見た限りではもう助からん。最後になにか話してやってくれ。何かとお前に気をかけていたからな、あいつも喜ぶだろう。」
そう言ってムーアは馬車の後部にある垂れ布をたくし上げた。むわっと濃厚な血の匂いが鼻につく。中を覗きこむグレイとその他もう一人が寝かされていた。
「グレイ!」
シュンにとってグレイは旅に出て初めてできた友達ともいえる。女の話ばっかりしてくるやつだったが、決して悪い奴ではなかった。ムーアが思っている以上にシュンはグレイのことが気に入っていた。
「うっ!」
起き上がろうとして失敗したのか、グレイは声を漏らした。
「シュンか?・・・へへ、ちょっとドジっちまった。」
顔面は蒼白で、時節せき込むと吐血した。かなり状態が悪い。その様子にムーアが顔をそむける。
「俺を庇おうとしたんだ。俺さえしっかりしてりゃこう「まだ治せる」いう・・・なんだって?」
「これならまだ治せる。」
そう言ってシュンは両手をグレイの鎖骨と肺の部位に覆いかぶせると回復の魔法を使った。
「かの者に安らぎを与えたまえ、ヒール」
「かの者に安らぎを与えたまえ、ヒール」
「かの者に安らぎを与えたまえ、ヒール」
一度の回復呪文では傷が塞がらなかったので連続で呪文を唱えた。体の中から魔力となにかが同時に抜けていく感覚を味わい、体全体を覆う倦怠感を感じた。実はシュンにとって、他人に回復魔法を使うのは初めてだった。以前は回復呪文を自分に使っていたのだ。シュンは自分に使う場合と他人を治す場合でかなり回復魔法の使い勝手が異なることに戸惑った。しかしその甲斐あってかグレイの傷は塞がったように見える。
「失った血までは取り戻せないけど、これで傷だけは塞げたよ」
「おめぇ回復魔法が使えるたぁ僧侶だったのか!」
完全にムーアは勘違いしていたが、シュンはそれを訂正するのが面倒で特に何も言わず苦笑いしただけだった。しかしなんでそれを早くいわねぇ!そういってムーアはシュンの腕をつかむと別の馬車へと連れて行った。
「こいつらも重症なんだ。治してやってくれねぇか」
そういって布をたくし上げると、中に寝かされている2人を見せた。それぞれ、腕を切り落とされたものと、もう一人は足の血管をやられたのだろう。かなり出血した跡が見受けられた。シュンは黙って手をかざすと同じように回復の呪文を唱えた。
「かの者に安らぎを与えたまえ、ヒール」
「かの者に安らぎを与えたまえ、ヒール」
しかし、2回目の呪文を唱え終わった瞬間、体から完全に力が抜け、目の前が暗転しそのままシュンは意識をなくした。
◇◇◇
カタカタという音とともに、振動が体全体に伝わってくる。全身に倦怠感を感じながらシュンは重い瞼を持ち上げた。周りから光がときどき入り込んでくるが、周囲は薄暗い。どうやら自分は馬車の中で寝かされていたようだ。隣にはどうように誰か寝かされているようだった。
体のだるさを押して、シュンは起き上がると荷車の入り口にある垂れ布をたくし上げた。
「おう、坊主起きたか」
馬車の後方を歩いていたムーアがシュンに気が付くと、声をかけてきた。
「まさか回復魔法をつかってぶっ倒れるとは思わなかった。無理をさせてすまなかった」そう言って申し訳なさそうに頭をかく。
「いや、倒れたのは単に俺が回復魔法を使い慣れてなかったせいさ。おっさんのせいじゃない。」
そう、シュンも実は教えられていたはずである。回復魔法を使うと生気を吸い取られる。使いすぎると体が持たないのだ。しかし、シュンは初めて回復魔法を教えてもらってから自分以外に回復魔法を使ったことはなかった。自分に使う場合は一瞬生気が抜ける感覚はあるものの、次の瞬間には自分に生気が満ちる感覚を味わう。つまり自分から吸い取って自分へと還元していたのだ。
他人に使う場合はそうはいかない。出て行った生気はそのまま、他人に吸収される。そして、回復魔法の魔力と生気の必要とされる量は、術者の熟練度に左右されると言われている。人体の構造を理解し、明確に治療のポイントを理解できていれば、少ない力でも傷を治すことはできる。しかし、そうではなかった場合、闇雲に生気が外へダダ漏れとなり、数回も使わないうちに生気が枯渇してしまうのである。今回のシュンがまさにそれであった、シュンは自分が倒れるまで以前司祭に言われていたそのことは完全に忘却の彼方だったのである。
「もう少し休んだら、残りのけが人にも回復魔法をかけるよ。今度はうまくやるよ」
「無理しなくていい」
そう言ってムーアは首を横に振るが、当の本人が肩を包帯にまき痛々しい。多分動かすと痛むのであろう腕ごと固定している。
「いや、また盗賊に襲われたらひとたまりもない。俺にできることはさせてくれ」
「・・・すまねぇな“シュン”」
初めて名前で呼んでくれた。つまりはシュンを認めてくれたということなのだろう。しかし、今のシュンにとってそんなことはもう重要ではなかった。既にシュンもムーアを信頼している。
「坊主でいいよ。あんたから名前で呼ばれると体がむず痒くなる」
そういってシュンが笑いかけると、ムーアは「がっはっは、そうか」と嬉しそうに隊列に戻っていった。シュンは再び横になると、そのまま目を閉じた。
◇◇◇
「よし、ここら辺で野営を張るぞ!」
ガタン!という振動と共に馬車が停止する。眠りが比較的浅くなっていたシュンは振動と共に目を覚ました。大分疲れは取れている。馬車から外にでると人が減って一人ひとりやることが増えたのか、皆あわただしく準備をしていた。
けが人たちは別のところに待機しているようであったので、シュンはそちらに足を向けた。
「おっさん、グレイはどうなった?」
気を失ってからグレイの安否を確認していなかったことに気が付いた。
「まぁ死んじゃいねぇ。目も覚ましちゃあいねぇけどよ」多分血を失いすぎた反動だろうとムーアは語った。
「あんた達の怪我も今から治すよ」
「・・・大丈夫なのか?」
「ああ、今度は大丈夫のはずだ。少なくとも倒れる前にやめるよ」
その言葉に納得いかなさそうなムーアではあったが、再度別の盗賊の襲撃があった場合のことを考えて不承不承といった感じで頷いた。治療するのはお前じゃないだろうとシュンは一瞬苦笑いしたが、ムーアの気遣いは嬉しくもあった。今度は生気が流れすぎないように注意するとともに、相手の傷と修復後をイメージして回復魔法を使った。それでも10人近く治療をしたら疲れはたまったが、倒れることは少なくともなかった。だがまだまだ効率が悪い。次はちゃんと回復魔法を学びなおそうと心に決めるシュンであった。
「おお!肩を動かしても痛くねぇ」
けが人たちは口々に感謝を述べると、野営の準備を手伝ってくると言ってそのまま散っていった。
◇◇◇
その後グレイも目を覚まし、まだ顔色は悪そうではあったが、峠は越えたらしい、もう心配はないであろう。本調子に戻るにはまだまだかかるだろうがちゃんと食事をとって数日休めば、十分元気に動き回れるだろう。
その後特に襲撃されることもなく3つ目の村にも到着した。商隊の代表であるラスは冒険者ギルドへ襲撃されたことの報告と新たな護衛雇用のためのクエストをするなど事後処理に追われている。王都に近いこの町では、王都への護衛任務応募者も多い。大事をとって村では2日逗留することになった。皆、ゆっくりと骨休めができたと言える。
王都はもう目の前である。
◇◇◇
「早くビアちゃんに俺の武勇伝をきかせてやらないと!」
この男も復活したようだ。
「クレアちゃんはもういいのか?」
シュンの問いかけに、グレイは人差し指を立てると左右に揺らした。
「ちっちっち、英雄色を好むって言うだろ?一人の女にこだわらない、そして全ての女に平等に愛を振りまくのがいい男の条件だ!覚えとけよシュン。俺は今すげー大事なことをいった。」
シュンの肩をガシ!っと抱くと得意げに語るグレイは本当に嬉しそうである。
「いや~マジでお前には感謝してる!ホントだぜ?王都についたら俺の飛びっきりの場所につれていってやるよ!」
始終ご機嫌のグレイであった。
「あそこの丘を越えるともうすぐ王都が見えますよ」
思わぬところから声がかかった。そちらを見ると御者席に座っていたラスが声を掛けてきたようだった。会話の一部始終を聞いていたのだろう顔は微笑ましげにグレイを見ている。
「王都に着いたら羽を伸ばすのもいいですが、ほどほどにしないとダメですよ。特にシュン君はまだ若いのですから変なことをあまり教えてしまってはいけませんよ」
まぁ若い人たちにいっても無駄かもしれませんがね。そういってラスは笑いながらまた前を向くのだが、なにをいっているのか皆目見当のつかないシュンは狐につままれたようにただ首を捻るばかりだった。
「ほら見えましたよ」
ラスの言葉に前を向くと、ちょうど丘の一番高い位置まで来ていたらしい。目の前の視界が一気に開ける。雄大な光景に一瞬息を飲む。そして遠目にも非常に大きな街が見えた。周囲を非常に高い壁に覆われており、王都の外壁の外は広く開けた農地で、植えられた作物が息づいている。一方外壁の中は多種多様な建築物が見える。中心部には王城だろうか、中でも一際高い建物が見える。また所々から煙が立ち上がり、人々の生活の営みを感じさせた。
「あそこがウルサ帝国の首都、ウルサザールですよ」
王都ウルサザール到着




